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男爵令嬢エステルは鶴の王子に溺愛される  作者: 倉本縞


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25.王宮のしきたり

「マルガ伯爵令嬢か。こちらはハーデス男爵令嬢である。天人族の王子として、婚約者であるハーデス男爵令嬢が、つつがなく王宮で暮らせるよう望んでいる」

 わたしが何か言う前に、クレイン様がキーラ様にそう言った。


 キーラ様は一瞬、クレイン様の美貌に驚いたように目を見開いたが、すぐに頭を下げ、言った。

「……ハーデス男爵令嬢が、グルィディ公爵閣下の婚約者であることは、王妃殿下より承っております。誓ってハーデス男爵令嬢を粗略に扱うようなことはいたしませんので、ご安心なさってください」

「うむ」

 クレイン様は満足そうにうなずき、わたしを振り返った。


「エステル、マルガ伯爵令嬢は状況を理解されているようだ。そなたのことを、アヴェス王国王子の妃として、大事に扱ってくれるだろう」

「あの、クレイン様はこの後……」

「エステル」


 わたしの言いかけた言葉を封じるように、クレイン様が言った。

「蛇族のことは心配いらぬ。すべてが片付いた後、そなたを迎えにくるゆえ、それまで王宮で待っていてくれ」

「……わかりました」

 わたしはクレイン様を見上げた。

 聞きたいことは色々あるけど、クレイン様の様子を見るに、ここでは話せないってことなんだろうな。何せ、相手は蛇族の王子……、元王子なんだし。


「クレイン様がお迎えに来てくださるのを、ここでお待ちしております。……あの、ただ、お怪我にだけはお気をつけて」

「うむ!」

 クレイン様は、ぱあっと輝くような笑みを浮かべ、わたしの手を取った。


「そなたに心配してもらえるのは、なんとも嬉しいものだな。……なんの心配もいらぬが、しかし、心配してほしい」

 クレイン様の言葉に、わたしは思わず吹き出した。

「はい、クレイン様がお迎えにいらっしゃるまで、毎日心配していますね」

「エステル!」

 がしっとクレイン様に抱きしめられた。


「ああ、どうしよう、そんな可愛いことを言われたら、とてもそなたを置いてゆけぬではないか。このまま、ずっとそなたと一緒にいたい……」

 すると、キーラ様がすかさず言った。

「グルィディ公爵閣下が王宮に滞在をお望みでしたら、早急に部屋の準備をさせますが」

 しかし、クレイン様はため息をついて言った。


「いや、ただの私のわがままだ。……蛇族の始末がつくまで少し時間がかかるかもしれぬが、できる限りエステルの様子を見に王宮に顔を出すようにするゆえ、安心して過ごしてくれ」

「わかりました」


 その後、やっぱり一緒にいたい、離れたくない、と一刻くらい廊下で粘ってから、クレイン様は名残惜しそうに何度も振り返りながら王宮を後にした。


「それでは、ハーデス男爵令嬢、あなたの部屋へ案内しましょう」

 疲れた様子でそう言うキーラ様に、わたしは申し訳ない気持ちになった。すみません、お手数おかけいたします……。


 わたしに用意された部屋は、王宮の東翼の三階にあった。ここの階は、主に侯爵令嬢や伯爵令嬢に提供されているだけあって、たいそう広々としていて、調度品も立派だった。

「……あの、わたしはたしかにグルィディ公爵閣下の婚約者ですが、今はハーデス男爵家の娘にすぎません。このように立派な部屋は分不相応ではないかと」

 だがキーラ様は、

「王妃殿下のご命令です。……王家は、アヴェス王国との関係を重視しています。ハーデス男爵令嬢に何かあれば、それはハーデス家と王家の問題ではなく、アヴェス王国とファイラス王国の問題になるのです。そのことをあなたも理解しておいたほうがいいでしょう」


 まあ、クレイン様があれだけ「アヴェス王国の王子として」って声高に主張されれば、そうなるだろうな……。ありがたいけど、ちょっと気が重い。


「王妃殿下は、毎朝九時に王宮内の神殿にて礼拝に参列されます。侍女はすべてこれに付き従うことになっておりますので、遅れぬように。それから国王陛下、王妃殿下は一階の食堂で朝食をおとりになります。侍女は神殿脇の食堂で朝食をとりますが、その際、礼拝の時と同じドレスではいけません。一度、部屋に戻って着替えるように。朝食の後は、王妃殿下の私室で神殿に寄贈するためのタペストリーの作成を手伝うことになりますが、王妃殿下の私室には国王陛下がお見えになることもありますから、朝食の後に着替えておくように。ただし、肩の出るドレスは着てはなりません。それから……」

 キーラ様による、王宮生活における注意事項が延々と続く。


 うわあ……。

 わかっていたけど、王宮での生活って、規則でがんじがらめなんだ。

 宮廷に出仕している友人が「早く結婚して夫の領地に引きこもりたい」ってよく愚痴をこぼしてるけど、なるほど、こんなに規則だらけじゃそうなるよなあ。


 期間限定の王宮生活とはいえ、わたしは無事、乗り切れるだろうか。

 ハーデス男爵家は、由緒もへったくれもない成り上がりだ。わたしも貴族学院で最低限度のマナーや教養は叩き込まれたけれど、ふだんは貴族というより平民の豪商と変わりない生活を送っている。

 それなのに、いきなり王妃殿下付きの侍女を務めるとか、よく考えなくても無理な話なのでは。


 しかし、安全には代えられない。

 クレイン様が迎えにきてくださるまで、王宮でがんばるしかないのだ。


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