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男爵令嬢エステルは鶴の王子に溺愛される  作者: 倉本縞


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18.獣人版『愛が激重ランキング』不動の一位

「え? 何をおっしゃっているんですか?」

 わたしは驚いてクレイン様とアンセリニ侯爵を見た。

「前世って……、どういうことですか? あの、蛇族の方が何かおっしゃったんですか?」

 

 覚えてもいない前世のことを聞かれても……。いい加減、今を生きてほしいんですが。

 わたしは困惑し、クレイン様とアンセリニ侯爵のお二人を見つめた。すると、クレイン様が意を決したように話し出した。


「エステル、その蛇の騎士は、前世、そなたと結婚の約束を交わしたと言うのだ。しかし、それを叶える前にそなたは死んでしまったのだと。……だから、生まれ変わった現世で、ずっとそなたを探していたのだと」

「えっと、あの……、そ、そうなんですか……」

 そんなこと言われても、全然まったく毛ほども記憶がないんですけど。


 クレイン様が、キリッとした表情で続けた。

「だが、たとえ前世でどのような約束をしていたとて、今のエステルは私の妻、……となる予定だ。前世がどうであろうと、そんなものは何の関係もない! 前世は前世、今は今だ。過去にとらわれ、今を見ようとせぬのは愚か者の所業! 大事なのは今だ!」

 おまえが言うなオブザイヤーに輝くセリフを口にしながら、クレイン様はそっとわたしの手を取った。


「心配するな、エステル。蛇族の騎士が何か仕掛けてこようとも、そなたのことは必ず私が守る」

「えっと、はい……」

 クレイン様が一番、前世前世と言っていたような気がするけど、そこら辺は深く追求しないでおこう、うん。それより、


「……クレイン様、手の傷が治って……、ます、よね?」

「え?」

 わたしの手を握るクレイン様の手をまじまじと見ても、先ほどの傷が一つも見当たらない。どういうこと。


「さっき、エステルが私の手に触れてくれたからではないか?」

 真面目な顔でふざけたことを言うクレイン様に、わたしは思わず突っ込みを入れた。

「何をおっしゃってるんですか。いくらなんでもそんなこと、あり得ませんよ」

「いや、あり得るぞ。鶴の一族なら、好きな相手に触れてもらっただけで病気が治ってもおかしくない」

 なんだそのミラクル体質。もしそれが本当なら、鶴の一族ってほんとに規格外というか、特殊能力の持ち主としかいいようがない。


「そんなことより、クレイン、あの蛇の騎士をとらえたままにはしておけないだろう。あの騎士は恐らく……」

「スワン」

 アンセリニ侯爵の話をさえぎり、クレイン様はちらりとわたしを見た。

「その話は後だ。エステルを安全な場所に避難させねば」

「蛇の力の及ばぬ場所なんか、どこにあるっていうんだい」

 アンセリニ侯爵はため息をついた。


「まったく、厄介なことになったねえ。蛇の横恋慕とは、災難もいいところだ。蛇族は毎年、獣人版『愛が激重ランキング』不動の一位を獲得している種族だというのに」

「……そうだな。あと二回で殿堂入りだったか」

 深刻そうな表情で話し合う二人を見て、わたしは何とも言えない気持ちになった。


 なんだその獣人版『愛が激重ランキング』って。


 わたしの疑問に気づいたのか、クレイン様が説明してくれた。

「獣人の国では、毎年さまざまな調査結果が公表されている。獣人はだいたい、どの種族も競争心が強く、己の一族の立ち位置を気にするものだからな」

「いや、それは人間もそうだと思いますけど……」

 人間だって、どこそこの子爵家よりあちらの男爵家のほうが資産家だとか、そんなことを気にして競い合っている。

 しかし、さすがに愛の重さを競うことはないっていうか、そもそもそんなランキング、どこに需要があるんだろう。


 クレイン様がさらに続けて言った。

「獣人は、力の強さ、足の速さ、翼の耐久力など、様々な面で競い合っている。……が、一番関心を集めるのが、愛の重さなのだ」

「えええ……、そんなの、どうやって測るっていうんですか」

 愛なんて主観的なものを、いったいどうやってランク付けできるというのか。


「うむ。愛の重さは、相手にどれだけ長く想いを捧げ、強く執着したかを基準にランク付けされる。このランキングでは、竜人族が百年連続で一位となり、現在は殿堂入りしているのだが……」

 クレイン様が難しい顔で黙り込んだ。

「竜人族もねえ、あれは犯罪スレスレだよ。相手をさらって閉じ込めてしまうんだから、どう考えても拉致監禁じゃないかって思うんだけどねえ」

 アンセリニ侯爵の言葉に、クレイン様も頷いて言った。

「うむ、スレスレというか、あれは犯罪だ。さらわれた相手がもれなく皆、竜人族に絆されてしまうから訴えられていないだけで、どこからどう見ても犯罪以外のなにものでもない。竜人族と我らは、祖が同じため共通点も多いが、アレだけはいただけんな」


 お二人の話によると、竜人族と天人族は、元々は一つの種族だったらしい。たしかに空を飛ぶ種族という点は一緒だ。しかし、

「これを言ったら戦争になるけど、僕は絶対に竜人族や蛇族とは一緒にしてほしくないね! だってあいつら、好きな相手をさらうんだよ? さらって監禁するんだよ? 僕らは絶対にそういうのしないからね!」

 アンセリニ侯爵の言葉に、クレイン様は「たしかに」と頷いて言った。


「われらとて、愛の重い種族として有名だ。獣人版『愛が激重ランキング』でも、蛇族に次いで鶴の一族と狼族は毎年、同率二位となっている。……が、それでもわれらは引き際を心得ている。われらは運命の相手に愛を捧げ、誠を尽くし、それでも心を得られなければ、潔く身を引く。鶴の一族が、片思い相手を拉致監禁したなどという話は、一つもないはずだ」

「そもそも鶴は、相手をさらうんじゃなくて、相手の元に押しかけるからね」

 アンセリニ侯爵の言葉に、クレイン様は怒ったように言い返した。


「われらは、ちゃんと相手の同意を得ているぞ!」

「鶴は押しつけがましいんだよ。頼んでもいないのに、いきなり機を織りはじめたりするしさ」

「鶴の一族が機織り上手なのは、周知の事実だろう! 愛する者のために丹精込めて織り上げた反物は、すべて素晴らしい仕上がりだぞ! 最終的には、みな喜んでくれたと聞いている!」

「それは結果論だろ」


 獣人の恋愛事情なんて、これまで知る機会のなかったわたしは、興味津々で聞き入った。

 当たり前だがそれぞれの種族によって傾向は様々で、獣人だからと一括りにはできないらしい。

 たしかに、竜人族や蛇族などが人間をさらう話は、何度か聞いたことがある。でもそれは、極々稀に起こる避けようのない災難みたいなもので、自分とは関わりのないことと思っていた。


 ……でも、もし蛇族の騎士がわたしを狙っているのだとしたら……。

 考えたくはないけど、わたしも拉致監禁の被害者予備軍なのでは?


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