11.鶴の恩返し
わたしの質問に、クレイン様は誇らしげに言った。
「鶴は千年!」
「亀は万年」
すかさずアンセリニ侯爵が合いの手を入れた。
「うむ、めでたい」
満足げにうなずくクレイン様。
「まあ、千年といっても、鶴の一族の寿命は個人差が激しいからな。実際のところは、数百年から数千年とだいぶ幅がある」
「えええ……」
なにそれ。数百年から数千年って……、同じ種族で、なんでそこまで寿命が違うんですか?
「鶴の一族は、その伴侶によって寿命が増減するのだ。基本的には千年だが、たとえば伴侶が人間だった場合、鶴はその寿命を人間の伴侶と分かち合うため、五百年ほどで寿命が尽きる」
「え。伴侶と寿命を分かち合う……?」
「うむ。これも鶴の一族の力でな。伴侶と共に生き、共に死にたいという鶴の一念がなせる業と言われている」
よくわからないけどすごい。
獣人族の特殊能力はよく話題になるけど、鶴の一族は寿命まで変えられるのか。
「エステルと正式に伴侶となった暁には、寿命を分かち合う儀式をすることになる。そうするとエステルも……、そうだな、現在の容姿のまま、だいたい四百年ほど寿命が延びることになるだろう」
「四百年……」
あまりにも長すぎて実感がわかないが、容姿が変わらないのはちょっと嬉しいかも。
……いやいやいや! なに流されてるんだ、わたし!
伴侶になる前提で、話を受け入れてるんじゃない!
わたしは頭を振り、話を元に戻した。
「えーっと、……それで、なんだったっけ。……ああ、そうそう、祝賀会! アヴェス王国使節団の皆さまが参加された祝賀会で、クレイン様はわたしを見つけられた、と」
「ああ。使節団なんて面倒だと、直前までなんとか回避しようとしていたのだが、兄に押し切られてな。元々は兄の公務だったのに、私に押し付けてきおって……、だが、来てよかった。今は兄に感謝している」
クレイン様のお兄様かあ。なんか、話を聞いただけでクセが強そうな感じが伝わってくるなあ。
「それで、クレイン様はわたしにおっしゃいましたよね。『命を救ってもらった恩返しをしたい』って」
「私の言葉を覚えていてくれたのか!」
クレイン様が身を乗り出し、わたしの右手を両手で包んだ。クレイン様、手が大きい……、いやいや、ちょっと!
わたしは慌てて手を引っ込めた。残念そうなクレイン様を見ないようにしながら、ここが勝負どころだぞ、とわたしは気を引き締めた。
「クレイン様、教えてください。クレイン様にとって……というか、天人族、とくに鶴の一族にとって、恩返しってどういうものなんですか? 何をもって恩返しとするのか、それを教えてほしいんです」
わたしが真剣に問いかけると、クレイン様はにこっとまばゆい笑みを浮かべ、わたしを見返した。
「私のことを知りたいということだな。とても嬉しい。……われらにとって恩返しとは、まあ、平たくいえば、恩を受けた相手の家族になることだ。相手の家族となり、一生、その相手に愛を捧げ、誠を尽くすのが『鶴の恩返し』なのだ」
「……え」
クレイン様ははにかむように微笑み、言った。
「われらにとって『恩返しをさせてほしい』というのは、まあ、定番のプロポーズ文句のようなものだな」
「ウソでしょ!」
隣国の王子と侯爵という高貴なお二方の前ではあったが、わたしはこらえ切れずに叫んでしまった。
いや、ウソでしょ。




