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97 エルフの才能

 エルロンが拾い上げたのはアレだった。


 そう、俺たちが作成中の陶器の皿。


 とは言ってもまだまだ未完成の試作品だ。

 エルフたちのこれからを話し合おうというのに、その直前まで作業していた工房へなんとなく戻ってきてしまっていたか。

 で、その皿を拾い上げて、どうしたというんだ?


 未完成品なので、あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんだが……。


「いや、この皿、何で釉薬を塗ってないのかなって」

「え?」

「そのせいで表面ザラザラだし、このまま使うと水分を吸ってしまうぞ。これじゃあ全然未完成品じゃないか」


 まったくその通りなのですが……!?


「なに!? それをどうすれば完成まで行けるのかわかるの!?」

「わかるというか……。そうだな、そこの窯の中に残ってる灰を貰っていいか?」


 はい?

 ハイ。


「この灰を水に溶いて釉薬を作るんだ。それを皿に塗って焼くと、頑丈な陶器が作れる」

「マジで!?」


 こんなところで糸口がつかめるとは!

 早速言う通りに試してみよう。


              *    *    *


「……本当にできた」


 時間を置いて、エルロンの指示通りに皿を焼いてみたら本当に俺の目標とする陶器が出来上がった。


 表面がガラスのように輝いて、ツルツルしている。指で弾くとカツンと金属的な響きがした。

 これこそ俺が求めていたザ・陶器!


「土焼き物に釉薬を塗るのは基本中の基本だろう。釉薬に溶かした灰が高熱で焼かれて溶けて、ガラス質になる。それが器を覆って、ちょっとやそっとじゃ割れない、丈夫な器になるんだ」


 なるほど!!

 とにかくこれで我が食卓が一層華やかになりそうだなあ!!


「しかしよくそんなこと知ってたなエルロン。キミけっこう物知りなのか?」

「これくらいエルフならみんな知っているぞ」

「え?」


 どういうこと?

 さっきエルフは、森の自然を利用するだけの種族って……。


「自然を利用するにも最低限の工夫は必要だろ。森の恵みを享受するための道具作りは、エルフこそもっとも巧みだ」

「そうした細かいものを作らせたら、エルフの右に出る者はいないと言われてますよね!」


 と他のエルフまで自慢げに語りだした。


「えええええ……!?」


 あるじゃん。

 エルフの得意分野。


 しかも我が農場が現在もっとも欲しているのに、その保有者が見当たらないテクニック。


 よくよく聞いてみると、エルフたちの森中サバイバル技能は想像よりもずっと奥深かった。

 自然にある材料を切ったり削ったりこね回したりして、森の中で快適に暮らせるアイテムを簡単に制作できるらしい。


 ただしそれは、持ち歩ける程度の小物に限られる。

 森の恵みの享受するだけのエルフは、その恵みをより効率的に利用することには積極的でも、自然そのものを作り変えるような行為にはタブー視するからだ。


 森から甘やかされるだけ甘やかされ、枯れたり痩せたりしてきたら新しい住居を求めて移動する。


 だから家を建てたりと大掛かりな工作はしないし、持ちきれない小物は移動の前に捨てていくらしい。

 そうしたキャンプ跡地に打ち捨てられたエルフの小物を拾い集めて市で売りさばく人族もいるという。


「なんだあ、そういう特技があれば、もっと早く言ってくれたらよかったのに」

「いや、何と言うか……! そっちの魔族が……!」


 魔族? ベレナのこと?


「いかにも『余計なことを言うな』って視線で睨んできていたので」

「私は悪い女なんですううううッ!!」


 おおッ?

 ベレナが泣き崩れた。


「本当は知ってたんです最初から!! エルフがこういう小器用な工作が得意なんだって!! でも、陶器作りは聖者様から頂いたばかりの私専用の作業!!」


 あぁ……!


「聖者様がエルフの器用さに気づいたら間違いなく陶器作りの仕事を回されると思って!! その前に魔国に引き渡してしまおうと思った私は悪い女なんですううううッ!? どうか私を叱ってくださいいいいいいいいッッ!!」


 一連のベレナの言動に不自然なものを感じていたが、それだったのか。

 そんなに無職になることを恐れていたとは。


 彼女のために何か考えてあげないといけないな。


 陶器作りの職は容赦なくエルロンたちに回すけど。


              *    *    *


 結局、エルロンを初めとするエルフ一団は、我が農場における小物づくり担当としての地位をたしかにした。


 エルフは、森の民として多種多様な道具作りに秀でていて、土をこねて作る陶器だけでなく、木を削ったり組み上げたりして作る道具作りにも詳しかった。


 そこで、元々二十人いたエルフ盗賊団を五人ずつの四班に分けて、その一つを陶器作り専従に。


 他の三班にも、それぞれ作りたいものを決めて貰って、実作業してもらうことにした。

 ある班は、加工の仕方もわからないまま倉庫に放り込まれていたモンスターの皮に注目した。

 森で摘んできた特別な実を絞って作った薬品で皮をなめし、革にしたあとで様々な製品に加工。

 カバンやらベルトやらを作ったり、バティと提携して衣類作りにも乗り出している。


 また別の班は木工だ。

 木を削って様々な役立つ道具を作り出す。彼女たちがもっとも巧みに作るのはエルフを代表する武器、弓矢。様々な違う材木を重ね合わせることで、想像以上によくしなり、想像以上に頑丈な弓を作ることができた。


 それまで接近武器でしか戦わなかったオークボたちモンスター軍団もすぐさま弓矢の使い方を覚えて、ダンジョンでの狩りがますます捗りそうだった。


 ……ただ、ランプアイと相談して爆炎魔法薬を鏃に仕込んだ魔法矢を開発しているのを見かけてしまった時は、どうしようかと思った。


 高威力の爆炎魔法薬で遠距離から攻撃、最強?


 知らんよそんなことは。

 装備の向上も常識の範囲内でほどほどにな?


 そしてもう一つはガラス作り。

 これにはプラティたち人魚組が大喜びした。

 彼女らは魔法薬調合のために試験管フラスコなどガラス製品を大量に必要とする。


「これまでは兄さんに新品を運んで来てもらったんだけど、これからはそうしてもらう必要もなくなるのね!!」


 もちろんガラス製品は調合道具だけでなく、食器やガラス窓にも流用できそうだ。

 そんな感じでエルフたちはあっさりと我が農場に馴染んだ。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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[一言] ベレナたん( ;∀;)
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