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69 歓迎

「あら? 皆どうしたの!?」


 いきなりプラティが出てきた。


「ひぃッ!? プラティ様!?」


 新人三人娘が、彼女に恐れおののく。


「違うのです! これは黙って逃げ出そうとしたのじゃなく……!?」

「彼女らにこの土地を見せてあげようと思ってさ」


 イタズラを見咎められた子どもたちのような彼女らに、すかさず俺がフォローに入る。


「皆来たばかりで右も左もわからないんだから。まずは仕事よりも、ここがどんな場所か知ってもらうことの方が大事だろ?」

「あー、そっか。たしかに仕事の話を優先していくつか段階すっ飛ばしちゃったわ」


 失敗失敗、とばかりに苦笑するプラティ。

 お茶目な奥さんだ。


「プラティ様……?」

「意外にしおらしい態度……?」


 俺とプラティのやり取りを横に、困惑する新人たち。


「そういえばあの人族って、一体何者なんだ……!?」

「ここが魔族の勢力圏……、という推理が正しければ、人族がいるのは理屈が合いません」


 とかなんとか。


「何言っているのアナタたち? ここは魔族の勢力圏なんかじゃないわよ」

「ええッ!?」

「それどころか人族の勢力圏でもないし、当然人魚族とも関わりがない。あえて言うなら完全な独立地区よ」


 独立地区。

 なんか勢いのある言われ方された。


「聖者キダンの開拓地。ここにちょっかい出そうとする者は人族だろうが魔族だろうが人魚族だろうがただじゃすまないわ。だから安心してここに住まいなさい」

「ええー? ですがプラティ姫?」

「独立地区って、そんな存在ありえるのかよ? 人族や魔族からも? アイツらと揉め事でも起こして、攻め込まれでもしたらどうするつもりなのさ?」


 たしかにそれは怖いなあ。

 怖いなあ。


「畑で働いていたオークやゴブリンを使われるのですか? たしかにモンスターは戦力として当てにできますが、見たところその数は十体ほど。一軍を相手に到底太刀打ちできる数では……!」


 と元人魚近衛兵ランプアイ。プロならではの意見を述べる。


「大丈夫よ。オークボちゃんたちは変異体だから一人一人で一軍に匹敵する戦闘能力を持ってるの。超強いわよ?」

「へっ!?」

「それに万一オークボちゃんたちの手に余ることになっても、まずアイツがいるし……」


 そのタイミングだった。

 上空からバッサバッサと羽音が響き渡ってきたのは。


『ご主人様、今帰ったぞー』


 大翼を広げて飛来するドラゴン。


「うぎゃああああああーーーッ!?」

「ドラゴンンンンンンンーーーッッ!?」

「……ッ!?」


 その巨体に、今日初めてここに来た彼女らは一人残らずビビって腰を抜かしていた。

 ガラ・ルファに至っては泡を噴きながら失神している。


「ねえプラティ。魔女とドラゴンってどっちが強いの?」

「圧倒的にドラゴンに決まってるでしょう」


 だよね。

 ちょっと聞いてみただけ。


『あちこち飛び回ってお腹減らしてきた!! 今宵はそこの小さい者たちの歓迎会でいつもよりたくさん飯が出るんだろう!?』


 などとほざくドラゴンは、もちろん我が嫁ドラゴンのヴィールだ。

 食事の前に運動はいいことだが、そんなんするならもう少し建設的な労働に従事してほしい。


 ……まあ、いいか。

 それがドラゴンなんだし。


「プラティ姫!! ここはわたくしが命に代えて防ぎます! 姫は少しでも遠くにお逃げを!!」


 錯乱したランプアイが丸腰でヴィールの前に立ち塞がるが……。


「いいのよ。コイツなんて、ウチの旦那様のペットみたいなものなんだし」

「「ペット!?」」

「旦那様はドラゴンだって従えるのよ。コイツが一人でもいれば、人族と魔族がまとめてかかってきたって瞬殺できるでしょう? だから安心していいのよ」


 いや、同居人をペット扱いなのはどうかと。

 ヴィールといえば決まった仕事をせず、食っちゃ寝して気紛れに行動し、こっちが可愛がりたくても気が乗らない時は徹底的に無視するくせに、自分が遊びたい時にはこれでもかというほどかまってくる。


 そしてそんな時ほど頭を撫でたり顎の下を掻いてやると気持ちよさそうにゴロゴロ鳴く。


 ……うん。

 ただのペットだな。


「ですが……、旦那様って?」

「アタシの旦那様に決まってるじゃない。ここの主、聖者よ?」


 それを聞いてパッファとランプアイは震え上がった。

 ガラ・ルファはまだ失神中。


「旦那様!? ということは姫、結婚なさったんですか!? その聖者とやらと!?」

「そうよ」

「『王冠の魔女』を嫁に貰って、ドラゴンまで従える……!? 一体何者なんだよ!?」

「何者も何も、今目の前にいるじゃない」


 というプラティに、凍寒と獄炎の二人はハタと気づいた。

 ガラ・ルファははいまだ失神中。


「え? それは……?」

「そこにいる人族の方は……、下働きとかじゃないんですか?」


 ここは観念して彼女らに自己紹介しようかと思ったところ、肌に凍り付くような寒気を感じた。


「ひッ!?」

「なんだこの寒気……!? 『凍寒の魔女』と言われるアタイが、凍えるような……!?」


 この気配。

 あの人も来てくれたのか。


「あら、いいタイミングで来てくれたわね」

「いや俺が呼んだんだよ。新人の歓迎会をやるんで、よかったらどうぞって」


 ノーライフキングの先生。

 また強烈な妖気を漂わせてご訪問くださった。


「ノーライフキング来たあああああーーーーーーーッッ!?」

「ドラゴンだけじゃなくノーライフキングまでえええーーーーッ!?」


 死の王者がまとう霊気というか魔気というか妖気に、ついにパッファとランプアイも緊張が限界に達して失神してしまった。

 ガラ・ルファはあまりのストレスに失神から目覚めて、先生を一目見てまたすぐ失神した。


『聖者殿、今日はお招きいただき誠にありがたく存じます』

「いいえいいえ、ご近所様ですから。今失神中ですけど、これがウチの新たな住人です。よろしくしてあげてください」


 ドラゴンとノーライフキング。

 世界二大災厄として、どちらか一方でも遭遇したら国ごと滅ぶことを覚悟しなければいけない最凶存在。

 対面を先延ばしにするのもあれだから、出来るだけ早めに面通ししてもらおうとしたのだが、立て続けの方が精神的にキツかったか。


 次に誰かを迎え入れる時はもっと計画立てて対面させてあげよう。


              *    *    *


 パッファ、ランプアイ、ガラ・ルファが目覚めたあとは、そのまま三人の歓迎会として宴になった。


 畑で採れた野菜、山ダンジョンで狩った獣の肉をふんだんに使ってご馳走を振る舞う。


「うめえええええええ!! クッソうめえええええええッッ!!」

「プラティ姫が、その倉庫で作っている調味料が、これほどのご馳走を生み出しているのですね!!」

「私も早く調味料作ってみたいです! 細菌の勉強をしたいです!!」


 新人三人娘は料理をガツガツ食らいながらプラティへの賞賛が尽きることない。

 ……料理は俺が作ったんですけどね。

 たしかにプラティの調味料が重要な役割を果たしましたけどね。


 歓迎会には、開拓地の住人であるプラティ、ヴィール、オークボたちモンスターチームにバティベレナ。

 その他友人枠としてアロワナ王子と先生も加わり、宴は盛り上がった。


 これで新人三人が、速やかにこの土地に慣れてくれると嬉しい。

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