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61 パン作り

 我が開拓地では、現在パン作りが流行しております。


 元々小麦を育てた時からパンには挑戦していたんだけどね。

 台所に大きなオーブンも作ったし、実際のところパンを生産するために足りないものはなかったのだ。


 日本からやって来た異世界人としては、主食として米より先にパンを焼くことになるのは遺憾だが、やっぱり主食は一刻も早く欲しいしな。

 パンだって美味しい。


 そういうわけで今、開拓地の住民全員でパン作りにチャレンジしているところだった。


「こーねこーね」

「こーねこーね」

「パン生地をこーねこーね」

「少し水を加えてこーねこーね」


 女性陣がリズミカルにやっていた。

 パン自体はこの世界にも存在するらしく、庶民の出であるバティとベレナは手慣れた動作だった。


 しかし人魚出身でお姫様のプラティなどは苦戦中。顔まで小麦粉で真っ白になっておられる。


「ふぬぬぬぬぬ……!?」


 そしてヴィールに至っては目も当てられない。

 体中が真っ白になるばかりで、台の上には使用した小麦粉の数割分にも満たないパン生地がぐんにゃりしているだけだ。


「うがーーーッ!! ドラゴンのおれがこんなチマチマしたことやってられるかーーーッ!! 完成品をよこしやがれ!! おれはただひたすら食べる係でいいーーッッ!!」


 そんなの許されるわけがねえだろうが。

 料理を作る大変さを知れば、御飯がますます美味しくなるぞ。


「皆、パン生地の硬さは耳たぶ程度がちょうどいいって言うぞ? 耳たぶを触って比べてみるといいだろう」


 ぷにぷに。

 ぷにぷに。

 ぷにぷに。

 ぷにぷに。


「何故俺の耳たぶを触る!?」


 自分のがあるだろうが自分のを触れや!!

 おかげで俺の耳周りが小麦粉で真っ白に!?


「耳たぶじゃなく、おっぱいの柔らかさで比べてもいいかもね? ヴィール、自分のおっぱいと触り比べてみたら?」

「キシャアアアアアアアアアアッッ!!」


 巨乳のプラティが、貧乳のヴァールをからかっていた。


 そうしてこねる以外にも色々行程を加えて、出来たパン生地を焼く。

 ぷっくり膨らんでパン完成。

 焼きたて熱々のヤツを皆で試食してみる。


「美味ぁー!! 美味ぁーーーッッ!!」

「外はサックリ! 中はふっくらモチモチと柔らかい!!」

「聖者様の土地で焼くパンはなんでこんなに美味しいんですか!? これはもはやパンとは言えません!! パンを超えた何かです!!」


 やっぱり焼きたては美味しいなあ。

 ジャムとかバターとか付けなくても、そのまま食える。

 女性陣にも好評だ。


 彼女たちは「自分たちの世界のパンとはまったく違う!」的なことを言って貪るように食べてくれるが、そんなに違うものだろうか?

 違うんだなこれが。

 俺も、この開拓地へ来る途中、携帯食としてこの世界のパンを買って食べた経験があるので、わかるのだ。

 この世界のパンは、パンじゃない。

 あえて言うなら麦粉の固め焼きだ。


 そもそも原料としている麦からして違うらしい。


 俺が元々いた世界では、歴史の進行と共に様々な食材が試されて、小麦粉こそ一番適した原料ということが確定している。


 しかしこちらの世界では、そうした試行の積み重ねをせず、ずっと最初に発見した方法だけに頼っているようだ。

 だから料理がちっとも進化しない。

 ちなみにこちらの世界では、酵母を使ってパンを膨らますということすらしないので、本当に麦粉を水でこねたものを素焼きしたものでしかないらしい。


 その点我が家には、調合薬学の専門家プラティがいるので、俺の知識と『至高の担い手』を合わせてイーストを培養するのはたやすいことだった。


 既に味噌や醤油を作る過程で、麹を製造した経験もあったからなおさらだ。

 そんなわけで小麦を原料にイースト発酵でたっぷり膨らんだパンは、皆に大好評というわけだった。


 たくさん作って明日の食事のために確保しておく。

 時間が経って冷めても、トーストにすればまためっちゃ美味しいしな。


 ジャムやバターはまだ作っていないので味付けにはネギ味噌を塗ってみたが案外美味しかった。


 でも元来日本人の俺としては、パンもいいが米も欲しいところだ。

 米。

『至高の担い手』ギフトを贈ってくださったヘパイストス神におにぎりを捧げることも忘れていない。


 食料の備蓄も増え、家も建ち、協力してくれる同居者もたくさんいる。


 ここは満を持して動くべきか。

 念願のお米作りに。


 米を育てるには、他の野菜と同じようにはいかない。

 田んぼに水を引いて、張らないといけないからな。


 そのために必要なのは大量の水。


 現在、我が開拓地での水事情は、完全に俺の『至高の担い手』の力に頼りきりだ。

 触っただけで海水を真水に変えてしまう我が『至高の担い手』。


 おかげで海からいくらでも水を補給し、ついでに塩まで得られるのだから万々歳なれど、俺一人で生きていた頃ならともかく住民も増え、水を撒く畑もどんどん増えて広くなってきた今、俺一人の能力だけで賄うのは現実的じゃない。


 田んぼを作る作らないは関係なく、もっと他の、そして大量に水を得る手段が必要だろう。


 水路を作るのだ。


 水路を作って、飲料にもできるきれいな水を開拓地に引き込む。

 その水で田んぼも作る。


 新たな目標が決まった。

 既に取水先として優良そうな川の選定も終わっている。開拓地から、先生のダンジョンのある側とは逆方向に二時間ほど歩いた先に大きな支流があった。


 ここから枝分かれさせた水路を掘り進み、開拓地まで引こう!


 既に建築工事に関してはプロになっているオークチームに、今度は土木工事のプロになってもらう。

 我らが開拓地の、新たなステージに挑戦だ!

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