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42 義兄との雑談

「と、言うことで義兄さんに相談したい」

「私か……!?」


 たまたま遊びに来ていたプラティの兄、アロワナ王子に相談してみた。

 プラティが喜ぶような、ハイセンスな衣服を手に入れる算段について。


 この人も、先生に次ぐ頻度でちょくちょく顔を出している。


「ウチはプラティの実家だぞ。嫁入り前にアイツが使っていたものならドレッサーごと運び込ませるが?」

「ですよねえ……!」


 それが一番簡単な手段か。

 先々のことを考えるとまた別の解決策がいるだろうが、当面を凌ぐにはそれで充分か?


「ただ、我ら人魚族に関しては被服の面で大きな問題があってな……!」

「それは?」

「下半身用の衣服を一切生産していない」

「ああ」


 そうだった。

 人魚の下半身問題については、最初に論じまくった。


「人魚の国で生産、販売されているのは、ほとんど上半身用の衣類だ。そもそも好んで変身し、地上へ移り住もうと考える人魚はごく少数でな。そんな少数派向けに下半身用の衣服を作ろうなどという物好きな被服職人は……!」


 絶無と言っていいらしい。


「じゃあ、今アロワナ王子が穿いている海パンは?」

「これか? これは以前、陸人の漁師たちから譲ってもらったものだ」

「…………」

「彼らの船に上がった時にな。『陸人に変身する時はこれを穿け』と言って渡された。それが陸の礼儀と理解し、必ず着用することにしている」


 ……その時の光景が目に浮かぶようだ。

 きっとその漁師さんたち、相当目のやり場に困っただろうな。


 ともかく、仮に人魚の国から衣服を購入、もしくは物々交換するとしても、下半身用の衣装はまず手に入らないということか。


 注文して作るとなれば、完全に一点物のオーダーメイド。

 かかる値段も半端ではなくなる。


「そもそも俺、金自体を持ってないしな……」


 あるのは現物、ただそれのみ。

 こうまで八方塞がりだと、ここは衣料のことに関しては中断して、しばらく様子を見るべきかな?


              *    *    *


「あー、今、お金の話が出たが……! ちょっと聞きたいことがある」

「?」


 なんかアロワナ王子が改めて言ってくる。


「聖者殿は、ここで作ったものを売って、金に換える予定はないのか?」


 ここで作ったもの。

 たとえば畑で獲れた野菜。それらを材料に作った加工食品。先生より貰ったマナメタル製の金物類の数々。俺がファッションセンスのないなりに縫い上げた衣料。


 今のところこんなものか。


「正直言って、ここで作られるものは想像を絶する品ばかりだ。まず食べ物は美味しい。確実に美味しい。そのまま食べても美味しいし。料理すれば数倍に美味しい。王宮で出る料理すら遥かに及ばない!」

「そ、そうか……!」


 ちょっと持ち上げ過ぎの感もあるが、褒められるのは素直に嬉しいな。

 毎日欠かさず世話して育てた野菜だしな……!


「それからアナタが日常使いしている金物類。総マナメタル製ってどういうことだ? 感覚がおかしくなってるとしか思えんぞ?」

「そういうもの?」

「そうだよ! 総純金製とかの方がまだ現実感があるよ!!」


 薄々感づいてはいたが、マナメタルって相当貴重な金属なんだな。

 前の世界にはなかった金属なんで実感しにくいが、アロワナ王子の語り口では純金以上の価値があるのか?


 先生。そんな貴重なものをホイホイお土産に持たせてくれたのか……!


「まあ、金物類は置いておくとしてもやっぱり食べ物だ! 聖者殿、アナタが栽培している野菜を、余剰分があれば分けてくれないだろうか。無論対価は支払う!!」

「ええー?」

「ここの野菜があれば、ここでしか味わえない至高の味が、我が王宮でも再現できるはずなんだ!! 父上や母上も喜んでくれよう! 是非とも、頼む!!」


 収穫した作物は、とりあえず食糧庫に片っ端から放り込んであるけれど、余剰とかあったかなあ?


 ウチも、オークボたちやヴィールが住み込むようになって消費量が格段に跳ね上がったから貯蔵安全ラインが読みにくくなってる。


 しかしそれでも、この開拓地で作ったものを売ってお金に替えるということは、いつかやる時が来るであろうと予測していた。

 ある程度、開拓地が発展しなければできない、一つの指標と言えるだろう。

 その段階に、いよいよ到達するというのか。


「……貯蔵量をチェックして、分けられるものがあるかどうか洗い直してみよう。ただ、売るとなったら、あくまでアロワナ王子との個人的な取引ということで。内密に」

「うむ?」

「あんな事件があった直後ですからね。またすぐここのことが話題に上るのは避けた方がいいでしょう」


 あんな事件とは、こないだ魔族のアスタレスさんが攻め込んできた事件のこと。


「たしかに、ここの野菜が世間に出回れば評判になるのは請け合いだ。魔族とのトラブルがあった直後に、この場所が喧伝されることは得策ではないだろう」


 アロワナ王子は納得してくれたようだった。

 でも、そんな当然のように評判になると確信しているの?


「しばらくは、アナタから譲っていただいた野菜は我が家族だけで楽しむとしよう。というか、可能な限り隠し続けよう」

「さいですか」


 じゃあそういうことで話を進めていくとして……。

 優先的に取引したい食物はある? と試みに聞いてみた。


「たくわん!」


 速攻で返事が返ってきた。

 たくわんか……。

 美味しいよね。

 間食でもポリポリ食べられるし。


「でも困ったな。たくあんは先生も大好きなんだよね」


 洞窟ダンジョンを訪ねに行く時、おみやげの定番となっている。

 先生にご進呈する分はキッチリ残しておかないと。


「そんな……! ノーライフキングと好みが被るとは……!!」


 アロワナ王子が心底絶望した顔つきになった。

 そこまで?


「なあ聖者殿。私が先生殿の下へ遊びに行ったら、お茶請けにたくわん出してくれるかな?」

「血迷わないで! お兄さん血迷わないで!!」


 あの人すっごい気さくだから忘れがちになるけど、世界二大災厄の一方!

 先生なら笑って迎えてくれるかもしれないけれど、それはそれで世界の秩序が乱れる気がする!


 これから大根を多めに育てることにしよう。

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