27 人魚王子と王女
衝撃事実。
プラティは人魚の国のお姫様だった。
「プラティ! よかった! やっと見つけたぞ!!」
アロワナとかいう名の貴公子人魚は、プラティを見つけた途端、その表情に優しい安堵が浮かんだ。
「お前が行方を眩ましてから数ヶ月。我々は血眼になってお前を探し続けていた! そして最近になって捜索隊の一人が、余人の寄りつかぬ岸辺でお前らしい人影を見かけたと報告し、こうして我みずから一隊を率いてやって来たのだ!!」
なるほど。
これまでの流れが即座に把握できるセリフだった。
「父や母も大層お前のことを心配している! さあ、我と共に帰ろう!!」
「嫌です」
プラティはやけにきっぱり断った。
家族相手ならもう少し柔らかく対応してもいいだろうに……。と思うのは俺の今の立ち位置が他人であるゆえだろうか?
「お聞きします。お兄様たちがアタシを連れ戻そうとする理由は何ですか?」
「それはもちろん! 家族として心配しているから」
「違いますね。政略結婚の駒を失うのが痛いからでしょう?」
物凄いズバリと言い切った。
何やら厄介な家庭の事情があるようだ。
「でも残念、アタシはもう自分で心に決めた人へ嫁ぎました! この人と!」
ズバーン、とした勢いでプラティは俺を押し出す。
「アタシはこの人に身も心も捧げました! だから他へ嫁ぐことなどできません! お父様やお母様にはそうお伝えください!!」
「な、なんだってーッ!?」
その言葉に衝撃を受けるアロワナさんとやら。
幼い頃から大切にしてきた可愛い妹に、チャラ男の彼氏ができたかのような絶望の表情をしていた。
……いや、まさにそんな状況か。
「……お、おのれ陸人め! やはりプラティを手籠めに……! 皆の者! 戦闘続行だ!! あの不埒者を八つ裂きにしてプラティを取り戻すのだ!」
居並ぶ人魚兵士たちは、呼応して銛をかまえるものの……。
『やめんかーッ!!』
ヴィールの一吠えで勇気を砕かれ総崩れ。
「うおおおおおッ!? どういうことだ!? あのドラゴンは地上人の味方をするのか!?」
アロワナ王子だけは何とか踏みとどまるものの、他の兵士は恐れをなして命令も待たずに逃げ散ってしまう。
「王子! ここは危険です! 撤退命令を!!」
「ドラゴンを相手にするなら我が国の主力を投入しても足りません!! ここは父王陛下に報告し、指示を仰ぐべきかと!」
人魚兵士たちは戦わずしてドラゴンの迫力に粉砕されてしまった。
お兄さんはまだ未練なのか、その場から動こうとしない。
他は皆より深い海中へ逃げ込んでしまった。
『……ほう、一匹だけ留まったか』
ヴィールが残忍な視線を向ける。
『ガイザードラゴンの娘。グリンツェルドラゴンたるおれを前に臆さず逃げださなかった、その蛮勇は褒めてやろう。褒美に一瞬にて消し炭にしてくれる!!』
「しちゃダメだよ」
ドラゴン形態で、巨大になってるヴィールの脛をグーでパンチ。
『あいたーッ!?』
「事情はよくわからないけど、プラティのお兄さんなんだろ? だったら俺にとっても他人じゃない。そんな人を殺していいと思っているのか?」
『ごめんなさい……!』
「その姿でいると皆ビビッて話が進まないから、人の姿になれ。でないともう美味しい料理を作ってやらないぞ」
こう言うと、ヴィールは覿面に大人しくなる。
シュンと項垂れる勢いでドラゴンの巨体が縮小化し、銀髪の美少女ヴィールが現れる。
それでこの場に渦巻いていたドラゴンのプレッシャーも消失した。
「よしよし、いい子だな」
「えへへ……!」
言うことを素直に聞いたご褒美に頭を撫でてやった。
「ドラゴンが人の命令を聞いただと……!? 一体どういうことだ!?」
「お兄さん」
俺は出来る限り海中に入り、プラティのお兄さんアロワナ王子に手を差し伸べる。
「俺とアナタは出会ったばかりだ。互いのことを何も知らないし、ここは一つじっくり話し合いませんか?」
「なに?」
「陸地に俺の家がある。よければそこでメシでも食いながら、プラティのことをもっとよく聞かせてください」
そんな俺の提案に、正面からではなく隣から抗議の声が上がる。
「旦那様! アタシは嫌よ、こんな……!」
「ここの主は俺だ」
ぴしゃりと跳ねつける。
「俺の家に誰を招き、歓迎するかは、俺の決めることだ。プラティ。旦那の言うことが聞けないのか?」
「ううぅ……!?」
それだけ言うと、プラティは何も言わずシュンとなった。
「意外と亭主関白なニンゲンだなあ」
横でヴィールが何か言っている気がしたが、聞かないことにした。
「気の強いプラティがここまで従順になるとは……! よ、よかろう……!」
そして当事者であるアロワナ王子が、俺の提案に応じる。
「人魚王族として、挑まれれば応じなければ沽券に関わる! 貴様の饗応、受けて立とうではないか!!」
よい返事だ。
「じゃあ我が家へ案内しよう。プラティみたいに尾ひれを足に変えて、陸地に上がることはできるんだろう?」
「当然だ!!」
プラティのお兄さん――、アロワナと言ったな。
彼は半人半魚の状態で陸に上がると、やはり薬を飲んで、妹プラティの時同様下半身を光らせて、その形を大きく変える。
アロワナ王子の魚の尾びれは、男性ゆえなのか力強く、マグロのような回遊魚を思わせた。人化して二本の足になっても、力強い印象は変わらない。
俊敏そうな筋肉を備えた男の足だ。
そしてもう一ヶ所、力強い男の部分が……。
「…………!」
プラティの時もそうだった。
魚形態から人間形態へと変化した人魚の下半身は、魚の時同様スッポンポンなのだと。
人化したアロワナの股間にぶら下がる何より男らしいものが見苦しかった。
「さっさと隠さんか!!」
「おや、そうだった。失礼したな」
アロワナは携帯していたらしい海パンを取り出すと、ジャキンと装着。
何故、海パン?
しかもそのデザインはブーメランタイプだった。






