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25 さしすせそ

 さて。

 これまでの出来事で痛感していることがある。


 それは調味料類の圧倒的な不足だ。


 生活の基本、食。


 その食を根幹から支え、美味しくないものすら美味しくしてしまう能力を持ったのが調味料だ。

 多種多様を誇り、場合によってはそれなしに成立しない料理もある。


 その調味料が、俺の手元に足りなすぎる。

 収穫した野菜、狩猟した肉魚を前に「○○の料理を作るぞー!」と意気込んだ直後、それに必要な調味料がないと気づいて、やむなく挫折したことが何度あったか。


 今回のヴィール襲撃の時だって、本当はイノシシ肉を使って生姜焼きでも出したかったのに、醤油がないので断念した。


 醤油、欲しいなあ。

 大豆が主な材料なんだろう?


 そういうことが幾度もあるので、今回は必要となる調味料について考えてみようと思う。

 そこで思い出したのが……。


 さしすせそ。


 ……と言うヤツだ。


 調理に必要な調味料の数々をこの五文字にまとめられたという。

『さしすせそ』に沿って、俺の手元に何があって、これから何を手に入れなくてはいけないのか検証してみよう。


 まず『さ』。

『さ』は砂糖だ。


 これはある。

 開墾の初期にサトウキビを育て、それを既に収穫済みだからだ。

 サトウキビから砂糖を作り出すのは、プラティが魔法薬学の知識で難なくこなしてくれた。

 持つべきものはよい嫁だ。


 砂糖は菓子作りで大量に消費するだろうし、大活躍のターンがきっと来るだろう。

 引き続きサトウキビを大量に育てなければ。


 次に『し』。

 塩だ。

 これもある。


 海から生活用水をゲットする過程で副産物として摂れた。これまででもっとも入手が楽だったものの一つ。

 しかし調味料としてこれほど基本的なものもなく、人が生きていくために絶対必要な要素でもあるので大切にしていこう。


 続いて『す』。

 お酢。

 これがない。

 何に使うのかいまいちピンとこないが、必要不可欠であることは変わりないはずだ。

 何を材料として使うかは……、酒だっけ?

 酒と言っても色んな種類があるしなあ。

 酒自体もいつか絶対作りたいし、そのためにも、どの酒を作って、その材料として何を育てるかしっかり決めないと。


 そしてお酢と言えばみりんも作りたい。

 みりんはお酢以上に、何を元に作っていいのかわからない。作り方も知らない。

 課題は多いぞ。


 さらに進もう。

『せ』、せうゆ。

 つまり醤油だ。


 これこそ必要、最優先で取り組みたい製作課題。

 つまりまだない。

 日本人と生まれたからには、醤油は一日も早く取り戻したい。


 醤油作りに必要なのは……、大豆だったか?

 よし、今度新しく広げる畑では真っ先に大豆を育てよう。


 そして大豆製品といえば味噌もある。

 味噌。


 これが最後の『そ』だ。


 味噌の『そ』。

 何故『み』を無視して『そ』に飛ぶのか? 若干苦しくないか? とも思うんだが、そんな重箱つつきしたって昔の人も不快だろうから、しつこくするまい。


 とにかく味噌。

 醤油と並んで大豆プロジェクトの二大到達点としておこう。


 ただ『そ』については、もう一つ、是非ともほしい素材がある。


 ソース。


 今のご時世こっちの方が『そ』を受け持つに相応しいだろう。


 だが、これがよくわからない。

 何と何を混ぜて作るんだっけ?

 前の世界にいた頃に小耳に挟んだ話では、果物とかスパイスとかをふんだんに混ぜて作るとか言う話だったような気がする。


 ……果物、全然作っていないんだよなあ。

 木に実る系は、時間がやたらにかかるイメージで難易度が高そう、と言う感じで手を出さなかったのだ。

 果物はそれ単体でも美味しいし、プラティやヴィールも喜んでくれそう。

 挑戦してみる価値はあるか?

 検討してみよう。


 それにソース自体も必ずほしいシロモノだ。

 何しろ、俺があの角イノシシ肉を利用する最終目標……、トンカツにソースは絶対必要なのだから!


 トンカツづくりのためにまだ足りない食材。

 卵。

 そしてパン粉。

 それらが手に入るようになるまでに必ずソースを作り出して見せる!!


 ソースさえあれば、トンカツに続く次なる段階にも手が届く!

 そう!

 トンカツの上位種。


 カツ丼!


 ソースがあればカツ丼だって容易に……。

 ……ないか。

 ソースをかけてソースカツ丼に……、と思ったけど卵とじの方が主流だよねやっぱり。


 とにかくここまでの思考で方針は決まった。


 大豆を育てる。

 醤油、味噌を作るために。


『さしすせそ』を検証して、今の俺にもっとも緊急に必要なのは醤油とわかった。

 その醤油の材料は大豆であり、大豆があれば味噌も作れる。

 あと小麦も作ろう。

 トンカツづくりでパン粉が必要だし。パン粉はパンをちぎって作るもの。パンの材料は小麦だ。

『お酢を作ろう』の段で材料が酒という話にもなったし、試しに小麦でビールを作ってみるというのもよかろう。


 そろそろ主食も欲しいしね。


 ただ、それら材料が育って収穫できたからと言って、すぐさまお目当ての醤油やお酢、ソースが作れるかはわからない。

 俺は異世界からやって来たと言っても、異世界の知識すべてを丸収めしているわけもない。


 たとえば醤油一つとってもその製法を細部にわたって丸暗記しているわけでもない。精々素人の聞きかじり知識。実際に作ってみた経験などもっての外。


 その辺りはトライ&エラーを繰り返していく以外にないと思う。

 そういう時、魔法薬学のエキスパートであるプラティは超心強いパートナーだがな。

 彼女に相談しながら進めれば何でもすんなりいきそうな気がする。


 さて、これからの方針はこんな感じだ。

 では気合いを込めて育てていこうか。


 大豆と小麦!

 大豆と小麦!

 大豆と小麦!


 間違えて小豆と大麦を育てちゃったなんてギャグはしないからな!!

 YES大豆! NO小豆!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 材料を一つ一つ考えていくと、トンカツって結構複雑な食べ物ですね。 [一言] 俺的には、 yes 大豆、yes 小豆 です。 饅頭、ぼた餅、あんみつ、羊羹。ジュルリ。
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