242 悪徳領主・陸遊記その七
ワシは悪徳領主だ! ガッハッハ!
自分で自分を悪徳呼ばわりするのはおかしい? たわけ! ヘタに善人ぶって何の得があるんじゃ!?
気取ったって誰かが誉めてお金くれるわけでもあるまい! ならば悪人に徹して、弱者どもから絞り取った方が得よ!
どうせ魔国がどうなっても、明君の魔王様がしっかり支えてくれるからな! 魔都から離れた田舎領でしたい放題振る舞ってくれるわ!
そら税金だ! 豊作時の七割の量をよこせ! 凶作の時だって関係ないぞ同じ量だ!
さらに細かく税を取るぞ! 家を持ってるヤツは課税、家畜を持ってるヤツも課税! 商売をしてるヤツも当然課税だし、何か物を買っても課税だ!
結婚しても課税! 子どもが生まれても課税! 死んで葬式を上げても課税! 相続税は百%!!
さらに水車の使用料も課すぞ! 小麦を挽いて粉にする時は必ず領主直営の水車を使うのだ!
自分の家で、石臼で挽くのは一切禁止だ! 領内のすべての家から石臼を奪って壊してしまえ!!
あと関所を作るぞ!! 通行料を取ってやるのだ!
何? 南の街道にはもう関所がある? だったら関所を出たところにもう一個関所を作ればいいであろう!!
ガハハハハ!!
これでワシの懐には金銀がザクザク流れ込んでくるわ!
すべての富はワシのもの! ワシだけがこの世界で笑っていればいいんじゃ!!
* * *
こうしてワシが貯め込んだ銭を数え直していると、何やら客が現れた。
何やら汚い身なりの旅人のようであった。
男二人に女二人。魔族には見えんが従者にオークなど連れておった。
ソイツらはワシに向かって言いおった。
「この領の税率は、他に比べて過剰すぎる。もっと税を軽減してほしい」
と。
このワシに意見するなど身の程知らずが。
拘束して見せしめに首を斬り落としてやろうかと思ったが、その前に遊んでやるのもよかろう。
そうだな。
庭に出ろ。
あそこに大きな石があろう。あれが庭の景観を崩してムカつくんじゃが、大きいわ重いわでどかすこともできん。
あれを壊すか、我が屋敷の外に移すかしたら税を軽減してやろう。
それができなければ、お前たちの持ち物すべて巻き上げて領外に叩き出してくれるわ。
ケッケッケ。
「ハッカイ」
「御意」
おう?
お供のオークを使うのか?
まあいい、オークの腕っぷしが人類を超えるとしても、それでどうにかなる大石ならとっくに壊すか移せるかしておるわ。
……ん?
なんだその斧を使うのか?
まあ何を使おうとどうにもならんから好きにし……。
「はーいや」
ザザンッ!?
何いッ!?
石が!? 大石が真っ二つに!? さらに砕けて粉々に!?
「では、破片になった石を運び出しましょうかアードヘッグ殿」
「よかろう、貴様の資質を計るために手伝ってやる」
細かく砕かれた石はすぐさま運び出されて、影も形もなくなってしまった。
いや、いやいやいやいや……!
今のはズルい。
だろう? だってモンスターなんか使うし。
賭けなら正々堂々自分の腕っぷしで勝負したらどうだ?
……そうだな。
特別にもう一回勝負しようではないか。
我が領地の外れの山に、モンスターが住みついておる。現れてから、もう一年になるがそれを退治して来い。
あ?
それこそ領主の仕事ではないかって?
アホが、そんな一銭の得にもならんことを何故ワシがせねばならん。兵士を動かすにも金が要るんじゃ。
放置しても精々近隣の村人が食い殺される程度の被害。
可哀相と言うならお前らで退治してくればいいわ。
ただし期限は一日な!
現地に到達するまでで時間切れになるだろうがな! ケッケッケ!
「……ソンゴクちゃん」
「あいさー」
え?
そっちの女子、何で飛ぶの? 魔法? 飛び去っていった!?
そしてすぐ帰ってきた!?
「ご依頼のぉー、魔物はぁー、コイツっすかぁーッ?」
ぎゃああああああッ!?
胸を射抜かれて息絶えているモンスターがあああああッ!?
「お疑いなら、件の山に使いをやって確認してみるがいい。こちらは何日でも待ってやるぞ」
よよよ、よかろう、次だ!
次の勝負に勝てば、税を軽減してやってもかまわんぞ!?
向こうの村にな、療養所がある。
流行り病に罹った者を集めて治療しておるのだ。
ちゃんとした医者もおらんし薬もないから、回復する者は少ないらしいがの。
「この療養所は、アナタが建てたのか?」
はぁ?
なんでワシが、そんな得にもならんことをせんといかん?
村の有志とやらが勝手に建ておったんじゃ。
『そんなことをする余裕があるなら領主のワシにもっと税を払わんか』と、運営の条件に重税を課してやったがの!
「…………はぁ」
なんじゃ深いため息をついて?
「パッファ」
「任せときな」
今度はそっちの女か!?
バカが、腕っぷしには自信があるようじゃが、病気相手には剣や拳ではどうにも……。
「収容患者は……、二十人弱。手持ちの魔法薬で充分足りるね」
え?
「病原体を殺すための薬で体を回復させるものじゃないから、飲んだあともじっとして体力を戻すんだよ。できれば栄養のあるものをたっぷり食べた方がいいんだけど……」
え? 何!?
病人どもがみるみる顔色がよくなって……! 咳もしなくなって……!
「そういえば、この療養所でどんな勝負をするか聞いていなかったが、病人なら全員治したし、病人がいなくなれば療養所も自然なくなろう。問題は解決したぞ」
こ、この……!?
この一団のリーダーらしき男……、さっきから偉そうな目でワシを見下ろしおって……!
何様じゃ!?
魔国の領主であるワシに対して何様のつもりじゃ!?
「約束してくれないか? 税率を、せめて常識的な範囲にまで落としてくれると。それが人を治める者の務めのはずだ」
偉そうに言うなああああああッ!
そうだ! 次の勝負だ!
今度こそ最後の勝負だ!!
ようし、今度はドラゴンを連れてこい! 殺さずに生け捕りにしたまま!
それができたら税を軽減してやってもいいわ!
ガハハハハハハハ!!
「救いようがない……!」
「アードヘッグ殿?」
なんだ?
旅人のもう一人の方の男が進み出て……!?
なんだ?
何をする気だ?
え?
男の姿が変わっていく……?
見上げるほど大きくなって、爪や牙や翼が生えて、全身鱗に覆われて……!?
* * *
「ぎゃああああああああああああああッッ!?」
はい、オークのハッカイです。
今回は、悪徳領主が支配する魔国の辺境領に来ております。
無体な統治をやめさせたく交渉を続けてきましたが、度重なる身勝手についにキレました。
真っ先にキレたのは、やはりというかドラゴンの誇りを持つアードヘッグ様。
ドラゴンの真の姿をさらして、悪徳領主を見下ろします。
『どうだ? 貴様の要求通りドラゴンがここにいるぞ? 次はどうする? 不死の王でも連れてくるか?』
「どひいいいいいいいいいいいいいいいッッ!?」
悪徳領主は、目の前にいるドラゴンの威容に圧倒され、次の無理難題を思いつくどころではありません。
「アードヘッグ殿、少し抑えて。村の者まで怯えていますぞ」
『このカスは王でも英雄でもない。こんな者を我が視界に置いておくのは、おれの傑物を計る眼力の浪費だ。あらかじめアロワナ殿に言い含められていなかったらとっくに消し炭にしていたものを』
アードヘッグ様は言うだけ言って人間の姿に戻りました。
いかにも『脅し足りない』と言った表情でした。
腰が抜けて動けない悪徳領主へ、アロワナ王子が告げます。
「旅の途中、アナタの領地に入ってあまりの関所の多さに辟易した。しかしさらに驚いたのは、領内の各村の貧しさだ」
まるでこれが余所と同じ魔国なのかと疑うほどでした。
「それでも私たちを出迎えた村人は、自分たちの今日食べる分の食糧まで切り崩して私たちをもてなしてくれた。その心に打たれ、彼らの生活を少しでも楽にしたいとアナタへ談判に来たのだ。しかし……」
「なな、なんだ……!?」
「もうまともな話し合いでは埒が明かんな。ハッカイ」
はい。
私はアロワナ王子の前に進み出ると、分厚い羊皮紙を広げて悪徳領主に見せつけました。
そこに書かれているのは……。
「そ、それは我が魔国発行の通行手形!? しかも魔王ゼダン様の直筆入り!? 一体貴様は……!?」
「無礼なるぞ下賤者。この御方こそ人魚国の第一王子、アロワナ様にあらせられる!」
その宣言に、悪徳領主は目を剥きました。
「このような名前の使い方はしたくなかったが……」
アロワナ王子が直々に続けます。
「無論、余所者である私に、魔国の政道に口出しする権利はない。しかし魔族はプライドの高い種族だ。お前のような種族の恥を他国の要人に見られて、そのままにしておけるかな?」
「ただいまー、行ってきたよ」
いつの間にか姿を消していたパッファ様が、転移魔法で戻ってきました。
「パッファ、ゼダン殿には会えたか?」
「ああ、わりとスムーズに。すぐさまこっちに憲兵を派遣してくれるってさ」
魔王の名が出て、悪徳領主の目蓋が、眼球が零れ落ちそうなぐらい見開かれました。
「魔国の悪党にどの程度の罰が下るかは、魔国の頭が決めることさ。領主罷免、財産没収……。追放? 投獄? 死刑? 魔王さんの決然さが試される場面だね」
その日、魔国から為政者に相応しくない為政者が一人消えました。
* * *
「考えさせられる出来事だった……」
「人間国では、王族がボンクラな分領主がしっかりしてるというからね。魔国ではその逆ってわけだ」
「ゼダン殿が明君であることはたしかだが、人一人の目が届く範囲は限られている。偉才一人がしっかり支えている分、周囲が弛緩してしまうとは」
「全部の魔国領主がそうってわけじゃないだろうけど。アンタが自分の国を治める時には注意しないとだね」
「私とお前とで、だな」
「だから唐突に思わせぶりなこと言うのやめてくんない!?」
アロワナ王子の修行の旅はまだまだ続きます。







