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1447 ジュニアの冒険:魔女武闘祭、終幕

「あの~、それで……」


 おずおずと手を挙げたのはドミノクラウンさん。


「武闘祭はどうなるんでしょうか? このままじゃ準決勝も始まらないんですが?」

「何を無粋なこと言っていますのドミノクラウンさん! この感動の一場面に!」

「ひぃッ!? 私が怒られるの!?」


 しかし魔女武闘祭の進行は重要なことで。

 普段はノリトの影響でワルぶっているけれど心の奥底に委員長気質を隠したドミノクラウンさんであった。


「いや……、我々はもういい」


 と劇画調の呪いから解放された乙女塾の生徒さんが言う。

 解呪されたら、ちゃんとした美人顔だ。


「我々は根本的なところで間違えていた。そのことを魔女様たちのお陰で気づくことができた。たとえ今、お前たちを打ち倒せても、それは憎しみによるもので何の意味もない。お前たちとの決着は、一から修行をし直して心から憎しみを追い出しきったあとでなければな」

「見事な心がまえですわ。このマーメイドウィッチアカデミアの優等生シュリンプ、アナタたちの気高さに敬意を表します」


 自分で自分を優等生だって言ったぞ?

 しかし優等生の名乗りに相応しいスマートな振る舞いで、場をスマートに収めんとしている。そこはさすがだ。


「フッ、マーメイドウィッチアカデミアから『気高い』などいと評されるとは意外だな」

「まだまだ偏見が過ぎますわね。私たち、よいものを『よい』と評価する寛容さは持ち合わせていますわよ」


 皮肉交じりながらも、穏やかなムードが広がり始める。

 乙女塾とマーメイドウィッチアカデミア、淑女が学ぶ二つの学校に親交と友情が芽生えかけたその時……。


「ちょっと待ちなさいよ」


 再び争いの火種が投げ込まれる?


「さっきの言葉、『戦えば自分たちが勝つ』って風に聞こえたんだけど?」


 というのはドミノクラウンさんだった。

 そこへ慌ててシュリンプさんが言い寄る。


「ちょっと! いい雰囲気に収まりそうなところへ何まぜっ返していますの!? このまま平和に終われば一番じゃないですの!?」

「でも、あんな風に『自分らが勝って当たり前』みたいな言われ方したらムカつくじゃないの。ウェーゴ会則第三十七条、売られたケンカは言い値で買え!」

「なんですの、知りませんわよんなこと!」


 ドミノクラウンさんは、ノリトに心酔するあまりアウトロー気質に毒されていた。


 どうするんだノリト!?

 責任取ってお前が止めろ!!


「おうおう、やれやれー」

「どっちか全滅するまで戦ってくれないと応援に来た甲斐がないぞー」


 ダメだ、むしろ煽りに全振りしている!?

 ウェーゴの応援団は、全会一致で戦いの続行を望んでいる血の気の多いヤツらめ!


「うーん、だったらこう言うのはどうでしょう?」

「私たち四魔女が相手になってあげましょう」

「準決勝まで勝ち残ったアナタたち四人に!」

「私は一向にかまわん!」


 と言い出したのは、現役魔女の皆さん。

 いきなり何を言いだすのか学生相手に。


「だって元々優勝者には私たちの指導を受ける権利が与えられる手はずになっていたから」

「だったらもう準決勝の時点でまとめて教えてあげても同じじゃない?」

「一人も四人も変わらないわよ」

「軽く揉んであげるわ!」


 実戦形式で?

『褒めて伸ばす』を念頭に置きながら、やっぱこの人たちもスパルタ形式でしか人を育てられないのか?

 それ以外のやり方を知らないか。


「いい提案じゃない。現役最若手の魔女たちの実力、この身で実感させてもらうわ!」

「待ってくださいまし! そんな魔女様と手合わせなんて心の準備が……!」

「挑まれれば受けて立つのが乙女塾魂! ゆくぞキヌベラ!」

「はい、オトシンクルス様!」


 そして始まった、予想外のエキシビションマッチ。

 四魔女vs四学生。

 その勝敗の行方は……あっさりと決まった。


「パッファ様直伝、瞬間気化冷凍薬!」

「「「「ぐるぶはぁああああーッ!!」」」」


 一瞬ももたなかった。

 まあ、まだ一人前にもなっていない学生と、今一番イキのいい現役最若手がぶつかればこうなるのも当然か。


 しかも魔女側はディスカスお姉さん一人で戦って、他の三人は何もしていなかった。

 実質の四対一での圧勝。

 魔女の面目躍如を見せつけた。


「さすがアタイが手塩にかけて育てたヤツらだ。手心ってヤツをまったく知らないねえ」


 と満足げなパッファおばさん。

 満足するな。


 あんな情けの欠片もない戦い方をするようなキルマシーンを育て上げて。


 アナタって王宮で侍女の育成も手掛けてるんですよね。

 まさか侍女たちまで、あんなキルマシーンに育て上げたりしていませんよね。


「そんなわけないだろう、ちゃんと手心加えているさ」:


 それができるなら!

 どうして! あの人たちは!


「そりゃ侍女を育てるのと魔女を育てるのは違うからね。その辺の違いはお義母様だって弁えているだろうさ」


 えッ?


「気づかないかい? あの人だって前王妃であるからには現役時代、侍女の育成をしていたさ。というか今でもやってる。その際も王宮の箱入り娘に即して、猫を撫でるような優しさで指導してきたのさ」


 そうか、王宮の内と外とでギャップが大きいのは、むしろシーラおばあちゃんだった。

 そんなシーラおばあちゃんは、先ほど若手にボコボコにされたのが効いたのか、片隅でヘコんでいた。


「……下町生まれの子にはハングリー精神が必要だと思ったのよ。何故ってアタシがそうだったから」

「時代が変わったんですよお義母様」

「パッファちゃんもそう思う?」

「アタイだってもうロートルの部類ですよ。一緒に新しい価値観を受け入れていきましょう」


 さりげなく姑をサポートするパッファおばさんの有能さ。


「ああいうところ地味に器用なのが、パッファ様の意外なところなのよね」

「昔から粗雑に見えて、配慮がきめ細かいのよ」


 たしかに。

 ウチの母さんなら、ヒトが弱っているところに蹴り入れにいくからな。


 あの王妃にとってはかなり有用な、心遣いの細やかさは、パッファおばさんが市井で育った時代の賜物なんだろうよ。


 そんな嫁に愚痴るように語り続けるシーラおばあちゃん。


「なんだか思ったような終わり方じゃなかったわ。本当は、アタシが手塩にかけて育て上げた子たちをジュニアちゃんにお披露目してたくさん自慢しようと思ったのに」

「だからこのタイミングで唐突だったんですよね……」

「ウチの教え子たちもみなぎっていたのよ。『お嬢様を見返してやれる絶好の機会だーッ!』って……」

「それがいけなかったんではないでしょうか……?」


 そうそう。

 競技は対抗心よりも、純粋な向上心で臨まないと。


「結局この大会、真の敗者はアタシだったってことね。素直に考えを改めるわ」

「そうしてください」


   *   *   *


 かくして突如勃発、海下一魔女武闘祭は優勝者がいないまま閉幕となった。


 しかし優勝賞品は没収とはならず、むしろ新世代の四魔女が各学校を渡り歩いて特別授業を行うことが正式に決定となる。

 乙女塾にもマーメイドウィッチアカデミアにも平等に。


 そこは新世代魔女ならではの差配。

 四人もいたら、それなりに作業量を分担できるからね。


 え? それなら五人もいた前世代の魔女たちは?

 あの人たちはまとまりがないから……。


 そして過剰な教育体制が明るみとなった乙女塾には行政指導が入り、塾長であるシーラおばあちゃんも事情を聴かれることになった。


 もっとも下町に教育機関を設立するという志自体は尊いものなので、細部調整して何とか続いてほしいものだ。


 そんなこんなの是正変化が、この大会をきっかけに起こっていく……。


   *   *   *


 そして閉会式も終わったあと向かい合う人たちがいた。


「今回はこのような形で終わったが、次は正々堂々と決着をつけたいものだ」

「同じ気持ちですわ。互いの成長を確認し合うため、これからも競う場を設けましょう」


 固く交わされる握手。

 その手の主はマーメイドウィッチアカデミアの優等生シュリンプさんと、乙女塾の代表オトシンクルスさんだった。


 激突の末に絆が芽生える……むしろ少年的な展開なんだが。


 まあ若い世代が互いを認め合って成長を促すならいいことだ。

 いずれはこの中から新しい魔女が生まれるのかもしれない。


「……チッ、いい感じにまとまって大団円って感じね」


 一方でやさぐれている感じを出しているドミノクラウンさん。

 あんまりノリトに影響を受けるとよくないよ、とヤツの兄として思う。


 人魚国も、次世代が健やかに育っているようだ。

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書籍版20巻2/25 & コミック版11巻2/24発売予定!

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― 新着の感想 ―
思い出しますな…かつてはディスカスさんたちもおぼこい小娘だった頃…パッファにあんなふうにやられたんでしたね…
>え? それなら五人もいた前世代の魔女たちは? 5人… 狂乱六魔女桀… おや? 誰か忘れられてませんか? 『王冠の魔女』プラティ 『疫病の魔女』ガラ・ルファ 『獄炎の魔女』ランプアイ 『凍寒の魔女…
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