1445 ジュニアの冒険:温室の花vs雑草?
緊迫する対決ムード。
マーメイドウィッチアカデミアvs乙女塾。
海下一魔女武闘祭のクライマックスは奇しくも、伝統あるお嬢様学校と新興のド根性学校による全面対決の戦場となった。
あまりにも在り様の異なる二校の激突は、一体いかなる結果をもたらすのか?
「……カタクチを倒した程度でいい気にならぬことだ」
一方はシュリンプさんとドミノクラウンさんのコンビ。
もう一方は乙女塾の……なんってったけ? な二人。
双方両極から向かい合ってバリバリと火花散るような眼光を飛ばし合っている。
「カタクチは一号生……今年入ってきたばかりのヒヨッコにすぎん。まあその中でも筆頭に選ばれるだけの才覚優れたルーキーではあったが……」
「しかし圧倒的経験の前では多少の才能などチリと同じ。この二号生筆頭キヌベラと、最高学年たる三号生筆頭オトシンクルス様に果たして勝つことができるかな?」
なんで彼女たちはあんな少年のノリなのだろうか。
彼女らの発する闘気のせいで周囲まで劇画調になっている。
「ふ……フン、アナタたちがどれだけ強がろうとも、私たちはマーメイドウィッチアカデミアの伝統を背負って戦っております。負けるわけにはまいりませんわ」
負けじと舌鋒を返すシュリンプさん。
そこに……。
「伝統か……フフッ、フフフフフフフフ……!」
何故か嘲笑を上げる相手方。
「? なんです?」
「その伝統とやらが、どれだけ自分の周囲を傷つけているのか理解しているのか? 伝統という高見の上からヒトを見下してさぞかし満足か?」
その皮肉のこもった口調に、僅かな卑屈さが窺える。
「少女人魚なら誰もが憧れるマーメイドウィッチアカデミア。そこに通う者は珊瑚のように清らかな純白の乙女。毎年万の女子が、マーメイドウィッチアカデミアへ入学しようと門を叩く。しかし……」
「その門はあまりに狭い」
非難めいた二人の難敵の言葉。
それを受けてシュリンプさんが戸惑いの声を上げる。
「だから何だと申しますの? マーメイドウィッチアカデミアは名門校ゆえ入学試験も難解、人気校ゆえ倍率も高い。当然ではありませんか」
「それだけだと思うのか? なるほど自分のことについては鈍感だというのは、どこでも同じらしい」
「なんですって?」
「己がどれだけ恵まれた立場にいるのか、わかっていないというところがな」
マーメイドウィッチアカデミアは、人魚族の貴族令嬢を受け入れる、ある意味特殊な教育機関。
しかし長く続いた歴史と、それに見合った名声のためにマーメイドウィッチアカデミアに憧れを持つのは貴族のお嬢様だけに留まらない。
一般的な人魚少女たちだって乙女の園マーメイドウィッチアカデミアへの憧れを持つだろう。
「しかし私たち一般人魚ではマーメイドウィッチアカデミアに入れない! 貴族令嬢しか入学を許されないという明確な規則がある以上は!」
「!?」
まあ、普通に考えればそうだろうが。
どうなんです学園長さん?
「それでも大分規制は緩くなりましたよ? シーラお姉さまパッファ様と人魚王妃が二代にわたって尽力し、貴族階級でない家の女子でも入学できるように改革くださいました」
おお、さすが我が祖母と伯母。
そうして開放化は進んでいく。
「しかしながら授業料とかに相当なお金が必要となりますし、一般家庭の子が通うにはまだまだハードル高いですね。精々大商の子が貴族家との付き合いを学ぶために入学してくるのが精々です」
事情を考えるとそうなってしまいますね……。
しかしそれでも夢見る少女たちにとってはマーメイドウィッチアカデミアは憧れ集う花園。
入学の夢を諦めることはできないか。
「一般人魚というだけで、貧しいというだけで夢を掴めない者たちの気持ちが、お前たちにわかろうはずもない。生まれながらにすべてを持ちえたお前たちにはな」
「ただ上を見て羨ましがるしか私たちにはできなかった! それを救ってくれたのがシーラ塾長だ! 大恩ある我が師!」
先代王妃みずからが主催運営している女子校。
そりゃもうネームバリューも凄まじいだろう。下手したら伝統積み上げたマーメイドウィッチアカデミアに迫るほど。
しかも教育水準底上げのために一般家庭からも通えやすくしたというのだから益々庶民の味方ぽくなっていく。
「私たちは乙女塾で学んだ! マーメイドウィッチアカデミアに見下された悔しさをぶつけるように!」
「そして私たちの頑張りによって、いつか乙女塾がマーメイドウィッチアカデミアを超える名門校となることを夢見てきた!」
「「今日は、その目標を達成する最初の機会だ!!」」
武闘祭という、勝敗ハッキリした環境ならそうも言えよう。
要はマーメイドウィッチアカデミアの代表生徒を全部倒して乙女塾側の生徒が優勝したら、乙女塾がマーメイドウィッチアカデミアを倒したと言えようからな。
「とはいえ、勝敗は既に決しているかもしれないがな?」
「いかにも。十人ほどいたマーメイドウィッチアカデミアの代表生徒はほとんど我らに仕留められ残るはたった二人。……対してこちらは一番ヒヨッコのカタクチが落ちただけ。勝ち星の数で言えばもうこちらが圧倒的です」
勝ち誇ったような侮りの笑みを浮かべる二人。
それを見て戸惑いを浮かべるシュリンプさん。
「そんな……、別に私たちは見下してなんか……!」
「言うだけ無駄よ」
それを征するドミノクラウンさん。
「コンプレックスというのは、そう簡単に止められるものじゃないわ。こっちに意図がなくとも、高い視点から目を向ければ嫌でも見下す形になってしまう。一種の被害妄想だけど、下々から嫉妬を向けられることも貴族の義務みたいなものよ」
「ドミノクラウンさん……!?」
「アンタたちの気持ちもわかるわ。私だってマーメイドウィッチアカデミアの在り方には疑問を持っている一人だから」
さすがは秘密組織ウェーゴの幹部ドミノクラウンさん。
アウトロー視点からの一家言を抉り込んでくる。
「貴様、何を……!?」
「『うふふ』『おほほ』と空笑いしながら仲よしごっこをするのに何の意味があるのかと思っていた。そんな場所で本当の自分を出せずに息苦しいとも。でも人魚は誰しも自分が置かれた環境で精いっぱいやっていくしかないと教えてくれたの。そう、我らが偉大なる首領、……エヌ様が!!」
……おいノリト、おい弟!!
「隣の水槽は透明に見えるっていうでしょう? アンタたちもそう見えているクチよ。隣の水槽を羨ましがらずに、自分の水槽を綺麗にしていくことを頑張っていけばいい。乙女塾だっけ? 自分の居場所を見出せたのならいいことじゃない」
予想を外してくるドミノクラウンさんのリアクションに戸惑う乙女塾勢。
「何だコイツは……?」
「オトシンクルス様、ヤツです、カタクチを倒したのは」
戸惑いの視線が、段々警戒に替わっていく。
「それに勝ったも同然みたいな口ぶりしてくれるけれど、まだ早いんじゃない? 武闘祭なんだから最後の勝者は優勝……それ以外にないでしょう?」
「なるほどお嬢様学校にも面白いヤツは紛れ込んでいるらしい。いいだろう、お前たちを粉砕して優勝を飾り、堂々と勝利宣言してやるとしよう」
ここまでのやり取りを見守って……。
これ本当に女子競技のやり取りか?
レタスレートおねえさんの女子プロレス興行ですらもうちょっとキャピキャピしていたと記憶しているんだが?
「フッ、そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだ。我々が、今日という日のためにどれだけの努力をしてきたか……!」
「その通り! シーラ塾長は、私たちが勝つために地獄の特訓メニューを用意してくださった!」
「回遊五〇周! 腕立て三〇〇回! 腹筋三〇〇回! 尾ひれ素振り六〇〇回! それらの基礎メニューを毎日欠かさず行ってきた! 力尽きて倒れてもやめない! 何時間かかろうともすべてのメニューを完遂させてから力尽きる!」
「時間オーバーした分は睡眠時間を削る!」
「それ以外にも実戦形式のスパーリングもしてきた! 必然下級生は上級生にボコボコにされるが、生と死の際間でなければ見出せないこともある! 従って入学直後は生傷青あざが絶えないがな!」
「痛くなければ覚えませぬ!」
「遅刻した者には罰としてウニダンベル上げ! 授業中居眠りしたらウニキャッチボール! そして乙女塾でもっとも罪深いマーメイドウィッチアカデミアへの称賛を口にした者にはウニジャグリング一時間と罰則も充実している!」
「どうだ!? 私たち乙女塾の生徒は、ここまで血反吐を吐いて力を得たのだ! マーメイドウィッチアカデミアの温室育ちお嬢様どもが勝てる道理もない!!」
よくわからないが過酷な学校生活だということはわかった。
そこへ、今の話を聞きつけて乱入してくる者が……。
「「「「ちょっと待ったぁああーーッ!!」」」」
ああッ、彼女らは!?
「『冷蔵の魔女』ディスカス!」
「『火加減の魔女』ベールテール!!」
「『熟成の魔女』ヘッケリィ!」
「『整頓の魔女』バトラクス!!」
この大会を取り仕切る四人の新世代魔女!?
「今の発言、聞き捨てなりませんね!」
「そうよ! 若く幼い少女人魚に過酷なトレーニングを強いるなんて不届き千番!」
「詳しい聞き込みが必要です! 結果次第では乙女塾の、武闘祭参加取り消しも検討しなくいてはなりません!」
「んだんだ!」
なんだってぇーッ!?
大詰めを迎えようとしていた海下一魔女武闘祭に思わぬ波乱が巻き起こる?
少しお休みをいただきます。次回の更新は1/30(金)になります。







