1444 ジュニアの冒険:波乱の武闘祭
海下一魔女武闘祭に強敵参戦。
その名は……乙女塾。
「乙女塾最終奥義! 旋風真空拳!」
「ぐわぁあああああああッッ!!」
ああッ!? またマーメイドウィッチアカデミアの代表生徒がッ!?
なんか正拳突きと共に発生する空気圧に吹っ飛ばされて場外負け!?
「勝者! 乙女塾代表オトシンクルス!!」
「フン、他愛もない。……これが天下のマーメイドウィッチアカデミアの実力か?」
年頃少女の発する覇気とかお付きじゃないんですけれど。
「当然です……!!」
カープ学園長が言う。
「シーラお姉さまが長を務める塾ということは、その生徒たちはシーラお姉さまのシゴキを耐え抜いた者たちということです。顔つきが違います」
と言いつつも場外負けした自生徒をしっかり介抱しているカープ学園長は一応ちゃんとしている。
「しかしなんでシーラお姉さまが塾長を? まったく知りませんでしたわ!」
「お前も学園長なら、同業の人事ぐらい把握しておけよ」
ゾス・サイラさんが呆れまじりのツッコミを入れる。
「まあシーラ姉さまが意図して隠しておったのかもしれんがな。『ビックリさせたい!』とか言って」
実にありそうなのが困る。
「シーラ姉さまとしては引退後のちょっとした手すさびなんじゃろうが、お上側としてもスラム地区の生活水準向上は放ってはおけぬ問題ゆえな。それを前王妃が取り組んでくれるならとついつい任せきりにしておった」
「なんでアナタがそういう選択するんです!? シーラ姉さまの恐ろしさはアナタと私が一番よく知ってるでしょう!?」
「うっせぇ! それでも目を瞑りたくなるくらい、こっちは忙しいんじゃよ! ウミネコの手も借りたいぐらいなんじゃよ!」
こうしてゾス・サイラさんという抑止力は無意味化された。
その挙句の果てがアレだ。
「シーラお姉さま、また趣味全開の塾経営をなさったみたいね……!」
「昔の血が騒いだんじゃのう……!」
え? 何それ?
シーラおばあちゃんって昔は何かあったんですか?
「ジュニア坊が生まれる前の話じゃ。深く探ってくれるな」
「一つだけ言えるのはシーラお姉さまも元々平民出身ですからね。しかもかなりアウトロー寄りの。どっちかと言えばスラム出身の子に肩入れしたくなるものでしょう」
などとしみじみ言う二人の下へ……。
「あら、アタシの悪口かしら?」
「「うひぃッ!?」」
肝心のシーラおばあちゃんが接近。
「まあアタシも昔ヤンチャだったことは認めるけれど、孫に暴露はやめていただける? アタシにも若気の至りを恥じ入る心はあるのよ?」
「はい……!」「世界を滅ぼしかけたのが若気のヤンチャ……!?」
どうも想像の域を出なかったがシーラおばあちゃんには凄まじい過去編がある模様。
しかしそれを追求する勇気はない僕には。
「ほら、ウチのパッファちゃんが『人育ての名手』なんて言われてるでしょう? そうしたら真似したくなっちゃったの」
「そ、それが塾長になった経緯?」
「それに孫にもいいところ見せたくって、ついついゾスちゃんに我がまま言っちゃった」
「いつもは我がまま言ってないとでも?」
「ジュニアちゃん」
はいぃッ!?
「おばあちゃんが手塩にかけて育て上げた子たちの活躍、今日は存分に堪能していってね。そのためにも今日の開催を願いしたんだから。もしかしたらあの中にジュニアちゃんの未来のお嫁さんがいるかも」
ま、マジっすか……!?
あの顔が劇画調の、眉毛ゴン太い女の子の中から?
「元々はあんな顔つきじゃなかったんじゃないかのう?」
「シーラお姉さまのシゴキを耐え抜いた代償に……花の乙女がなんと哀れな……!」
同情に頬を濡らすゾス・サイラさんとカープ学園長。
「それにねアタシ、元から思うところがあったの」
なんか神妙になって話すシーラおばあちゃん。
「貧富の差ってどこにでもあるものでしょう? 社会システム上ある程度仕方ないことではあるけれど、だからって貧しい側にもチャンスはあっていいものだと思うのよ。……下剋上のチャンスが」
よりにもよってそのチャンス?
「人魚王妃だった時は、人魚国そのものを治めていくので手いっぱいだったけれど、やっぱり引退したら身軽になっていいわよねえ。というわけでジュニアちゃん、おばあちゃんの教え子たちの活躍、こうご期待しててね!」
と言って去っていった。
残されたのは、この珍状況に圧倒され呆然とするばかりの僕とカープ学園長とゾス・サイラさんの三人。
「……さってと、じゃあ顔出しの義理も果たしたところで、わらわも政務に戻るとするかの」
「待ちなさい! こんな何とも言えない現場に私一人を残していくつもりですか!?」
「うるせぇ、いつも突っかかってくるお前なんぞのために、なんで我が身を削らんといかんのじゃ!? それに今日中にまとめなきゃならん法案があと五つ残っているのもまた事実!」
「そこを何とか! アナタと私の仲じゃないですかズッ友ゾス・サイラ!」
「都合よく過去を改変するなぁあああッ!!」
まーたカープ学園長の得意技、過去改変が発動している。
「勝者! 乙女塾代表カタクチ!」
「あぁーッ! またマーメイドウィッチアカデミアの選手がぁー!?」
って騒いでいる間にも大会は進んで、また一人のマーメイドウィッチアカデミア代表生徒が、乙女塾の生徒に食われた。
……ジャイアントキリング?
というわけで、ある程度勝ち進んだ選手が絞れた頃、マーメイドウィッチアカデミアの代表選手はシュリンプさんとドミノクラウンさんの二人しか残っていなかった。
最初は十人ぐらいいたのに。
他の選手はすべて、乙女塾の代表選手に当たって敗退してしまった。
対する乙女塾の選手は、最初に紹介された三人全員まだ勝ち残っている。
シュリンプさんとドミノクラウンさんが敗退しなかったのは、ただ対戦組み合わせの妙で乙女塾の三人と当たらなかったからに過ぎない。
しかし、ここから進むのならば嫌でもブチ当たることになる。
戦う限りは。
「うう……とんでもないことになりましたわ」
さすがのシュリンプさんも、平時の自信たっぷり態度が影を潜めて顔面蒼白だ。
「乙女塾さんとやらの試合を見させていただきましたが、とても勝てる気がしませんわ。何ですのあの人たち? 手から衝撃波出したり気炎を出したり……まったく優雅じゃありませんわ!」
たしかにな。
しかもそのわけわからない戦闘法が滅法強く、学生レベルの魔法薬ではまったく歯が立たない。
あれがシーラおばあちゃんによって鍛えられた闘士たちかと思えば納得できるのが悔しい。
「たしかにあれは、勝てる気がしないわね」
ドミノクラウンさんですら深刻になるのだから相当だ。
「せめて、誰かからいい作戦をいただければいいんだけれど……!」
よし来た。
つまりここで僕の出番というわけだな。この戦闘経験豊かな僕がトレーナーとして戦術を授け、勝利へと導いていくのがエピソードというわけだな。
了解した、僕の完璧なタクティクスを……。
「エヌ様~、アドバイスくださ~い!」
ドミノクラウンさんは応援席へ駆け出して行った。
そうなるよな。
ノリトの設立した秘密組織の一員であるドミノクラウンさんならそりゃ真っ先にノリトを頼るよな!
僕なんかとは信頼度が段違いだもんな!!
くそッ、お嬢様軍団から救援して少しは信頼度上がったかと思ったのに、ノリトが積み上げてきたものに比べれば砂山ぐらいのものよ。
敗北感が染みわたってくる……!
* * *
「な、なにぃッ!? 炎の中に投げ込んだ剣がブーメランのように戻ってきて!?」
「いまだ、くらえ必殺タイガーバームガーデン!!」
凄いぞ!
ドミノクラウンさんが乙女塾の代表選手を撃破した!
敵の意表を突く、見事な奇策!
あんなの誰が思いついたんだ!? ノリトか!?
試合直前にアドバイスを聞きに行ったんだから、情報源は察して知るべきだよな、チクショウ!
とにかくやっと一矢報いたマーメイドウィッチアカデミア。
対戦ひょうに名を残すのはドミノクラウンさんとシュリンプさん、そして乙女塾側の代表二名。
奇しくもマーメイドウィッチアカデミアと乙女塾の両勢が真っ二つに分かれての対抗戦となった……!







