1416 ジュニアの冒険:思考の死角
パンケーキ、パンケーキ、パンケーキッ!!
心躍るパンケーキッ!
パンケーキが食えると聞いて喜ばない者がおろうか!
甘くて美味しい!
日常のおやつにもなれば、特別なお店でアイスとか生クリームとか季節のフルーツとかを載せられて豪勢なご馳走にもなりうるパンケーキ!
しかも今日は、わざわざ評判の名店を訪ねていくんでしょう?
そんなん最高の思い出になるに決まっているじゃないですか!
「行きましょう! 是非行きましょう!! せっかく冥界から帰ってこれたんだから、生きましょう!!」
「はははジュニアよ、テンション上がりすぎてGOとLIFEが混じってるのだー」
そういうヴィールだって口角上がりまくってるじゃん!
ヴィールが甘いものを前にしてハッピーハッピーハッピーにならないわけがないもんな!
『評判のお店と聞きますからワシの期待度もMAXですぞ。では早速、話題の中心へと突入しようではありませぬかッ』
先生まで心なしか浮ついている模様。
パンケーキは老若男女怪力乱神もテンションアゲアゲする効力がある。
「なあなあ話題のスィーツ店というからには、それなりに箔づけというか、大仰な肩書きがついてるもんじゃえか? たとえば貪れログ星五とか……」
「魅修羅乱ガイド掲載とか?」
ヘルナンデスで紹介されたお店とか?
いやー、想像すればするほど期待が膨らむねえ!
でもそんなに話題が広がっているならよほどの人気店じゃないのか?
飛び込みで入っても大丈夫?
到着した時には既に満席で大行列ができて二時間待ちです、限定○○食完売です、本日は強制閉店です、またのご利用を待ちしています。
ってならない?
それでもお腹は減っているものだから仕方なくその辺の、何の変哲もないラーメン屋に入って空腹を満たすためだけの醤油ラーメンを食うハメにならない?
『ふっふっふっふ……、手抜かりはありませんぞジュニアくん。既に、……予約済みです』
おおおおおおおッ!
さすが先生!
二手三手先を読んだ行動! ノーライフキングが知恵ある最強者であるということを如実に示す、完璧!
「ぬおおおおおッ! 予約まで完璧なんて、もはや約束された勝利のパンケーキなのだ! もうお腹の音が鳴りまくりだぁああ!」
『では一刻も早くパンケーキ店へと急ぎましょうぞ! しかし、ここで一つ問題がある!』
はい?
なんです問題って?
『予約の時間まで、あと二時間ある』
楽しみで気が逸って早く来すぎてしまったケース!?
約束された勝利の予約の先に潜む落とし穴!?
* * *
仕方がないので二時間、待たざるを得なくなった僕たち。
幸いながら当地の市街は発達していて、周囲のお店を見て回るだけで充分に時間潰しができた。
若干、逸る気持ちを抑えきれない輩もいたが……。
「なあ、もう二時間経ったか? 経ったろもう?」
「まだ一分しか経過していません」
という感じで。
しかし待った甲斐もあって二時間過ぎた。
いよいよパンケーキの話の時間だコラァ!!
そして到着したパンケーキのお店は、いかにも人気という感じのオシャレで綺麗な店構えだった。
「おおー、やっぱり名店は入る前から違いが判るなー」
『設備の清潔さも大事なポイントですからの。店の前に立つだけで食欲が湧いてくるのは好ポイントです』
たしかに先生の言う通り。
『ノーライフキングの先生で予約した者ですが……』
「はい三名様ですね、こちらです」
ノーライフキングを前にしても態度を崩さないプロ根性。
そして通された卓席も広々としていて快適だ。
「うおおおー、パンケーキだパンケーキ、パンケーキー!」
ヴィールも待たされ続けてテンションマキシマムドライヴ。
「よぉし、おれ様はイチゴ盛り盛りのパンケーキを頼むぞー、パンケーキと言えばやっぱりイチゴなのだー」
ヴィールのヤツ案外と女の子なチョイスするな。
「ジュニアは何を頼むのだ?」
そうだなー。
かくいう僕も完全にパンケーキの口になっているからな。
お腹も減ってきていることだし、限界ぶっちぎりで甘々なメニューがいいな。
チョコレートソースドバドバぶっかけパンケーキとかあるかな。
『ここのパンケーキ店は、他にないオリジナルメニューがあるのですぞ。そのお陰で人気店になっている模様ですな』
オリジナルメニュー!?
何それ一番心躍る感じのヤツじゃないですか!
それを食べに来ているようなもの?
その人気誇るオリジナルメニューとは一体?
『ベーコンエッグパンケーキですな』
……。
へッ?
今、予想だにしえない単語と単語がくっついて混乱をもたらしたんだけれども?
ベーコンエッグパンケーキ?
ベーコンエッグと、パンケーキ?
同じ食べ物といえども、その二つは絡み合わない気がするのですが?
『だから意表を突くのでは?』
意表を突けば何でもいいわけじゃないが!?
パンケーキは甘いものでしょう!?
そしてベーコンエッグは基本塩辛!
甘いものとしょっぱいものは、食べ合わせとしては最悪に近いと思われるのですが。
その禁忌をあえて冒す?
どんな味になるのか想像がつかない!?
『だからこそ食べてみる価値があるのでしょうぞ。どんな味に出会えるのかワシも楽しみでなりませぬぞ』
「齢千歳を過ぎても冒険心で溢れかえっているのだー」
しかしヴィールも予想外の遭遇で鼻頭に皺が寄っている。
そりゃあ甘いものをメチャクチャ予想しながら、出てくるのがしょっぱいのか甘いのかよくわからないものが出てくるとなったら眉間に皺も刻まれるか。
本当に大丈夫なんですか?
そのベーコンエッグパンケーキとやらは?
『大丈夫でなければここまで繁盛せんでしょう。大船に乗ったつもりでドーンと待ちかまえましょうぞ、すみませーん、注文お願いしまーす』
そして普通に注文取りにくる店員さん。
ノーライフキング相手に、本当に教育が行き届いている店だ。
『このベーコンエッグパンケーキを三つお願いしますぞ』
「コーヒーデザートセットがお得となっておりますが」
『ではそれで』
「デザートはコーヒーゼリーとアイスクリームからお選びできます」
『ワシはコーヒーゼリーを』
待って。
僕の認識ではパンケーキがデザートカテゴリなんですけれど?
その認識だとデザートにデザートがついてくることになりませんか?
しかもコーヒーゼリーて。
ドリンクにコーヒー頼んでるから、コーヒーにコーヒーが被ることになるじゃないですか!?
デザートが被ってコーヒーが被って。
被り被りの三すくみが出来上がってるじゃないか!?
「おれはアイスクリームを頼むのだー」
ヴィールもその危険性を察知して、外してきた。
……僕もデザートはアイスで。
「どうするのだジュニア? 全然思ってもみない雲行きになってきたぞ?」
僕も戸惑いを隠しきれない。
ただパンケーキを食べて『甘い美味しい』を堪能したかっただけなのに、気づけば魔境に踏み込んでしまった気分だ。
ベーコンエッグ……すなわち目玉焼きにカリカリ焼きのベーコンを合わせたもの。
黄身が半熟でトロリと溢れ出たらサイコーだ。
しかしパンケーキ。
目玉焼きとベーコンとパンケーキ。
単体だと皆が喜ぶ鉄板メニューなのに、何故それらを一緒くたにしてしまったのか。
楽園が合わさることによって生まれる魔境……実在したんだな。
「今までの常識が通じない領域なのだー」
ヴィールもすっかり異境を進む探検家の顔になっている。
こんな僕らの下へと届けられるベーコンエッグパンケーキの味とは?
甘いものを堪能する気分だったのに、どうしてこんなに緊迫した展開になっているんだ!?






