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1414 ジュニアの冒険:おくりびと

 ぎゃああああああああああッ!?

 振り返ったらヤツらがいた!?


 亡霊たちに囲まれてどこを進んでいいかわからない!?


「ナカマ……ナカマ……!」

「ミンナイッショ……ナカマ……!」

「ナカマ……ユキエ……!」


 違うわ、僕はお前らの仲間じゃない!!


 僕は現世に帰って、僕を信用してくれる人たちのためにまだまだ働かねばならないんだぁあああああッッ!?

 おるぅわあああああああああああああッッ!?


 とは言っても亡霊たちに捕まった時の対処がまったくわからない。

 ハデス神もわざわざメッセージ残すぐらいだから『困ったときは』一覧したためてくれてもよかったのに!!


 このピンチを独力で切り抜けよというのかッ!?


 くそッ、こうなったら伝家の宝刀、農場神拳で……!

 ……ダメだッ!?


 コイツらには触れられないから。


 農場神拳の屋台骨となる能力『究極の担い手』は触れてこそ真価を発揮する能力。

 それにたいして触れることのできない……亡霊たちには意味をなさない。


 触れられないからこそコイツらだって、精神的揺さぶり攻撃を唯一の手段としてきたんじゃん!


 ここに来て最悪の天敵に出会おうとは!?


 こうして振り向いて、ヤツらの術中に絡めとられても直接的なことは一切してこない。

 掴み取るとか拘束する溶かしてくれば、こっちだって掴み返して『究極の担い手』を発動できるというのに。


 ヤツらはただ僕の感覚に訴えかけ、感覚を狂わせて、森の中を彷徨わせようとする。

 永遠に。

 これでは森を出ること叶わず、いつしか肉体を失って亡霊の仲間入りをしてしまう。


 そんなのはダメだ。

 どうにかして亡霊の惑わしから逃げないといけないが……。


 そのためにどうすればいいのかわからない!


 手を振り乱しても、煙のように散っては戻ってくるだけ。

 亡霊の姿に遮られて方向感覚が狂わされる。こうなっては前も後ろもどちらがどっちかわからない。


 これはマジにピンチな気がしてきた。

 修行のために農場を旅立ってから最大級の……。


 僕の旅はここで終わってしまうのか?

 再び農場に帰ることなく。


 そう絶望しかけた瞬間。

 僕に向かって光が差してきた。


「アイエェエエエエエエエエエッッ!?」


 光に切り裂かれて亡霊たちが苦悶の声を上げる。

 そして切り刻まれるように亡霊たちの領域が散っていく。


 その向こうに現れたのは……。


 先生!?

 ノーライフキングの先生!?


 何故ここにアナタが!?


『迎えに来ましたぞジュニアくん』


 先生ぃいいいいいいいいいいッッ!?

 どんな時でも安心できる先生のお顔が、ここまで頼もしく見えたことはない!


 地獄に仏ならぬ冥府に先生!!

 もう助かったと思っていいくらい!!


 先生が何故ここに!?


『まずヴィールの阿呆から泣きつかれましてのう。ジュニアくんが竜の国から落ちたんで何とかしてくれ、と』


 そう言えばヴィールとは竜の国で別れたきりだった。

 唐突に分断されたんでたしかに心配の種ではあったが、先生からの話を聞く限り元気そうでよかった。


『その後、ハデス神からも通信が入りまして、ジュニアくんの所在も確認できて一安心しておりました。ハデス神とも示しを合わせて、こうして出口でお待ちしていたのですぞ』


 それでこんなに都合よく助けに来てくれたんですね。

 ありがとう先生!

 ありがとうハデス神!


『少々過保護かとも思いましたが、やはりスタンバッておいて正解でしたの。ジュニアくんが森の罠にかかるとは、よもやよもや……』


 うぐぐ……ッ!?


『まあ、亡霊たちのやり口は精神攻撃オンリーですから、むしろジュニアくんのような若者ほど術中に落ちやすいですかのう。搦め手ですから』


 面目次第もありません。

 でも先生が来てくれたからには、もう勝ったも同然ですよね!


 僕は生きて現世に帰れるんだ!

 やったー! やったー! ヤッターマン!!


 そうは問屋が卸さない!?


「うわぁッ!?」


 僕と先生の周囲を、亡霊たちが再び取り囲む。

 凄まじい濃度と勢いで。


「ナカマ……ナカマ……!」

「ナカマママママママママママママママママ……ッ!」

「ナカマ……チダイ……!?」


 何だこの亡霊たち!?

 先生が現れてすっかり怯んだと思ったのに、むしろこの死者の王ノーライフキングに対してすら、まったく怯まぬかまえ。


『亡霊とはこういうものです。未練や執着に囚われて、恐れの心すら忘れてしまった。だから飽くこともせずに仲間を引き込もうとする』


 相手がどれだけ強大だろうと、怯まず諦めずにただひたすら……現世の魂を自分たちの仲間に引きずり込むために……。

 これが亡霊の恐ろしさ。


『ふむ……』


 先生が手のひらをかざし、そこから眩い閃光を放つ。

 アンデッドでありながら光属性をも自在に操るのが先生の物凄いところだ。


 悪霊には光属性こそがフェイバリット。

 先生の浄光をくらって霧散していく亡霊たちだが、すぐさま勢いを盛り返して僕たちを取り囲む。

 これではキリがない。


『やはり力押しでは押し切れませんな。ヤツらは、みずから慰め合える仲間を求めている』


 先生の手がむんずと、僕の手首を掴んだ。

 先生!?


『ヤツらは仲間が欲しいだけです。誰かがこの場に残っておれば、去る者を殊更に追いはしますまい。ジュニアくん、キミは若い。既に人としての死を済ませたワシよりも多くのやり残したことがある』


 先生、まさかこのまま……?


『ここはワシに任せて、先に現世に戻りなさい。まだまだキミがこの世でやるべき楽しいことや大変なことが待っておりますぞ』


 先生が噴出する魔力の勢いに押されて、僕は吹っ飛ばされる。

 先生の姿が見る見るうちに小さくなって、そして消えていった。


「先生!? 先生―――――ッ!?」


 地面にぶつかって、ゴロゴロ転がっていくうちに勢いが減衰されていく。

 やっと止まって顔を上げると、そこは何もない平原だった。


 現世に戻ってきた……とわかる。

 気配だけで冥府や、その狭間にある森とは別のところだとわかった。


 でも、今の僕には帰って来れたという安心はない。


「先生! 先生!」


 呼びかけても声は虚空に掻き消えていくだけだった。

 戻ろうとしても、その順路さえわからない。本来死後の世界とは、まっとうな繋がり方をしていないのだから。


 先生は、僕の身代わりになって亡霊たちの下に残った。

 僕には未来があって、先生は既に死を経験しているから?

 そんな違いなんて関係ないはずだ。


 僕が不注意で冥府なんかに落っこちなければ……!

 先生……!

 先生ぇえええええええええええええッッ!!


『はい』

「うるひょわぁああああああああああああッッ!?」


 ビックリした!

 先生いる! いるじゃん!?


 僕の身代わりになって亡霊に囚われたのじゃなかったの!?


『彼らは寂しいだけですからなあ。いくらか愚痴を聞いてやれば満足して冥府へ行くのですよ。彼らとていつまでも狭間の森に留まっているわけにもいきませんから、ああして定期的に送り出してやらねば』


 先生、普通に亡霊を浄化させていただけだった!?


 さすが千年以上生きてきた不死の王。

 亡霊にどうにかできるような存在じゃなかった。そして僕自身も先生の物凄さを把握しきれていなかった。


『まあでも時間はかかりそうだったんで、先にジュニアくんには現世に戻っていただいたんですぞ。乱暴な運び方で申し訳なかったですなあ』


 いえいえ、お気遣いなく。

 だからって僕が現世帰還してからと先生が追いついたの時間的に誤差ぐらいしかなかったですが?


 もしや……あっちで時間操作していた!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
つまり先生は菩薩様だったんですね?(違うか)
すでに神の領域に片足を突っ込んでいる?
さす先! いや本当に何でもありだな……知ってたけども!!
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