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27話 ひとつの疑問


「やぁぁぁ!!」


「せいっ!」



エレナに体を真っ二つにされ、一つ目トロールは光の粒となって消えていく。


その横では、フレデリカの拳を受けたアイスゴーレムが、粉々に砕け散り、輝きながら霧散していく。


40階層。

ミコトたちもまた、この入り組んだ迷宮を踏破し、イノチたちと合流を目指していた。


ここまで、未だ『ウィングヘッド』は現れていない。



「モンスターだけなら何とかなりそうね。」


「そうだね…私がもっと戦えたらいいんだろうけど…」


「十分戦えているのですわ!現にランクも上がっているのでしょう?」



フレデリカの言葉に、ミコトは小さくうなずいた。

現在ミコトの『ランク』は80から83にまで上がっている。


どうやら、魔法でサポートを行うことでも経験値を得られるようだ。


そのため、モンスターと遭遇するたびにエレナたちにバフ系の魔法をかけているミコトは、今までのようにトドメを刺さずとも経験値を得ることができている。



「でもやっぱり、自分でやっつけた方がランクアップも早い気がするよ。」


「そんなに気を落とさなくてもいいんじゃない?」


「そうですわ。前に比べれば前進していると思いますわ。」


「…うん、二人ともありがとう!!」



ミコトは大きく笑みをこぼした。



「ところで、下の階層へ行く道は本当にこれであってるの?けっこう進んできたけど…まだ先なのかしら?」


「う〜ん…たぶんあってると思う。」



エレナの言葉に、ミコトは自分の上に浮かぶ青い光の球体を見上げた。


メイジであるミコトのスキルの一つ、支援魔法『誘導』。

この迷宮を進む際に気づいたスキルである。


説明によれば、迷宮や森などで迷った際に、使用者の行きたい場所へと誘導してくれるとても便利な魔法らしいが…



「初めて使う魔法だし、どこまで信用できるかわかんないからなぁ」


「マップも機能しないのですから、今は頼れるものに頼るしかないですわ。信じて進みましょう。」



その言葉にエレナもミコトもうなずいた。





しばらく進むと、三人は大きな広間にでた。

野球のグラウンドほどの広さで、壁際に並ぶ赤い松明が遠くで等間隔にに輝いている。


中央には大きな4本の柱が立ち、それぞれに取り付けられた一際大きな松明が、その足元を照らしている。



「この階のゴールですわ。」


「ミコト、やったわね!その魔法、役に立つじゃない!!」


「うん!これで次の階層も安心だね!」



喜ぶミコトとエレナ。

それをよそに、フレデリカは広間をゆっくりと眺めると口を開く。



「階層ボスの姿が見えないですわ。」


「確かにそうね。」


「ねぇ…二人とも、あれ…何かな…」



つまらなさそうに大きなため息をつくエレナの横で、何かを見つけたミコトが、怪訝な表情を浮かべて柱たちの真ん中を指差している。



「ん…なんかあるわね。」



言われて見れば、薄暗い広間の真ん中に確かに何かある。

遠目ではよくわからないが、黒いなにかの塊のようなものが、静かに佇んでいるのがうかがえた。



「とりあえず進みましょう。ここにいても何も起こらないならば進んで確かめてみるべきですわ。」



フレデリカはそう言うと、広間の中心へと進み始めた。

その後に続くエレナを見て、ミコトも焦るように二人を追いかける。


4本の柱に近づいていた三人は、そこにあるものが何かに気づいて絶句した。



「なによ…これ…」


「オーガの…死骸…?」


「うっ…うっぷ…」



そこにはバラバラに…否、ぐちゃぐちゃにされたという表現の方が正しいであろう、オーガと思われるモンスターの肉塊が転がっていたのだ。


その凄惨な状況を見て、顔をそらして嘔吐するミコト。

エレナはミコトの背中をさすりながら、フレデリカに声をかけた。



「こいつが階層ボスかしら…」


「そう考えるのが妥当ですわ…」


「ということは、これをやったのって…」


「おそらくは…」



少し落ち着きを取り戻したミコトに水を渡しながら、エレナは大きく周りを見渡した。


よく見れば、ところどころにその肉片が飛び散っている。


ミコトにそれを気付かせないように誘導しつつ、エレナはフレデリカに下への階段を目指すよう視線で合図した。


フレデリカも無言でうなずくと、ゆっくりと歩き出す。


すると、無言で歩く三人の沈黙を、ミコトが破った。



「…ご…ごめん、もう大丈夫。」



エレナにお礼を言って、自分の足だけで歩き出すミコト。



「本当に?無理しなくていいのよ?」


「うん…落ち着いたから。それよりもひとつ疑問なんだけど…」


「なにかしらですわ?」



足を止め、ミコトに振り返るフレデリカ。

ミコトは小さく肩で息をしながら、ゆっくり振り返ると、オーガの死骸を確認して口を開く。



「あのオーガ…なんで光の粒になって消えてないのかな。私たちが倒したモンスターはみんなそうやって消えちゃったのに。」


「…確かに、そうですわ。」


「そう言われるとそうね。」



三人は首を傾げるが、納得できる理由が見当たるわけでもない。



「今考えても答えは出ないですわ。とりあえず、先を急ぎ、BOSSとゼン様との合流を急ぎましょう。」



小さな疑問を残しつつ、三人は下の階層へとその足を進めたのであった。





「うっ…ここは?」



薄暗い通路の真ん中で、ゼンは意識を取り戻した。


意識を失ってからどれくらい経ったのかはわからない。

しかし、モンスターに襲われていないことなどから考えれば、そんなに時間は経っていないとゼンは推測した。


先ほどまで朦朧としていた意識は、すっかり元に戻っている。



「奴の『呪い』を受けたはずだが…死んではいないようだな。」



ゼンはそう言って魔力操作を試みたが、うまく練ることができない。体自体は特に異常はなさそうだが…



「力を封じられたか…そうしてなぶり殺す。奴らしいやり方だな。」



ゼンはそうつぶやくと目を閉じた。

最後に見たミコトたちの姿がまぶたの裏に浮かぶ。


無事であれば良い。

自分が生きていることを考えれば、ミコトはまだ無事のはずだから。



「しかし、私もまだまだだな…"成り損ない"に遅れをとるとは。」



悔しげな表情を浮かべるゼンだが、このままではまずいことも理解している。

今は悔しがっている場合ではないのだ。



「どれだけ落ちたかはわからんが、今は早くイノチたちかミコトたち、どちらかと合流せねばなるまい。」



そう言うと、ゼンは体を出来る限り小さく縮めて、移動を始めるのであった。

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