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60話 ダンジョン最下層


そのまま進んだ3階層では、コックローチとバグズたちが襲いかかってきたが、どちらもゼンの活躍でことなきを得た。


ゼンは、最初はしぶっていたものの、ミコトにお願いされて、仕方なく炎を吐き散らかしていた。


しかし、最後は血が騒いだのか、2階層でも見せたブレスを、虫たちに思いっきりお見舞いしていたのである。


この階層では、イノチとミコトはあまり経験値を入手できなかったものの、特に問題もなく、一同はそのまま4階層へと足を進める。



4階層。


この階層の造りも、3階層と同じであった。


整った石造りの床や壁に、等間隔に並んだ黄色に灯る松明。


それを見れば、難易度も3階層と同じだとわかった。


この階層で出てきたのは、コックローチ、バグズの他、ゴブリンが加わっていた。


エレナやフレデリカも、虫への恐怖や嫌悪感より闘いの血が勝ったようで、大暴れの活躍だ。


二人とも目をギラつかせ、ダガーを振りまわし、魔法を爆撃のように放っていた。


それを見ていたイノチは、モンスターに対してもはや、憐れみと同情しか浮かばなかった。


4階層も無事にクリアできた。


経験値はけっこう手に入ったと思ったのだが、イノチは未だ『19』のまま、ミコトは『17』になっていた。


一同は最下層を目指す。





「遂にきたな。」



イノチは5階層への階段を降りると、そうつぶやいた。


今までの階層とは雰囲気がまるで違う。


薄暗く、空気が生温かい。


壁も天井も床も石造りではなく、何かの鉱石を削って造られており、大理石のようにきれいで滑らかだ。


そして、壁に灯る松明は赤色。



「明らかにダンジョンのボスの階って感じだな。」


「どんな奴らが出てこようが、切り刻んでやるわ!」


「オーッホッホッホッ!いいえ、わたくしの魔法でボッコボコですわ!!」


「ぬはははははっ!その意気である!」


「おっ…お前らなぁ…はぁ…」



横で眼をギラつかせている二人と一匹に、イノチはため息を吐きつつミコトに向き直る。



「ミコト、この階層で最後だ。気を引き締めて行こう!」


「うっ…うん!」


「ゼンさんもよろしく!」



ゼンはイノチの言葉に、無言でうなずいた。それを確認して、イノチはエレナたちへと向き直る。



「モンスターの気配は?」


「今のところ…いないわね。」


「…なら、先へ進もう!」



一同は陣形をとり、ゆっくりと進み始めた。



「ここ…なんだか気持ち悪いね…」


「そうだね…今までとは違って、生臭いし空気も重い…ミコトは、大丈夫?」


「…うん、イノチくんがいるから大丈夫だよ!」


「…え!俺…?いや…あっ…そうかな…」


「ゼンちゃんやエレナさんたちもいるし…私は頼ってばっかで、あまり役に立たないけど、みんなの事、信頼してるから!」


「そっ…そうだよね!!みんないるもんね!!あはっ…あはははは…」



ミコトの言葉に一瞬ドギマギしたイノチだったが、早とちりだったことに気づいて苦笑いする。


それを見たエレナとフレデリカも、おかしくて笑っているようだ。


イノチはひとつ咳払いをすると、気を取り直して前を向いた。


少しずつ、広間が近づいているのが見える。


最下層…気を引き締めねば。

そして、このダンジョンをクリアしたら、ミコトには真実を伝えなくてはならない。


ここはゲームの世界ではない、ということを…


ダンジョンをクリアして、自信のついたミコトなら、その事実を受け入れられるだろうか。


イノチにはそれが不安で堪らなかった。


何度か話そうとは思った。

しかし、彼女が落ち込む姿を想像すると、言葉が出なくなってしまう。


自分はなんとか乗り越えた。

いや、乗り越えたなんてかっこ良いものではない。


なんとか自分を保っているだけ。

エレナたちが居てくれるから、平然としていられるだけなのだ。


自分をただ、ごまかしているだけなのかもしれないが…



(ミコトがもし落ち込んでしまったら…俺らは彼女を支えてあげることができるかな…痛てっ)


「BOSS…そろそろですわ。気を引き締めなさい。」



イノチは、皆が立ち止まったことに気づかず、前を歩くフレデリカの背中にぶつかってしまう。



「ごっ…ごめん!広間に着いたのか?」


「えぇ…でも妙なのよ…まったくと言っていいほど、モンスターの気配がない。」


「ですわ…わたくしの索敵にも何もかからない…」



一同は、広間の入り口で目を凝らし、警戒したまま辺りを見回すが、均等に並ぶ赤い松明以外、何もない空間がそこには広がっている。


すると、ウォタが突然顔を出した。



「気をつけろ…誰かおるぞ。」


「あぁ…いるな。しかも強い…」



ウォタの言葉に、ゼンも相槌を打ちながら顔を出す。



「いっ…いるってどこに?」


「そうよ…ここには誰もいな……っ!?」


「どうした…エッ…エレナ?」



突然、エレナは黙り込み、イノチの問いかけには答えない。

ジィッと前を見据えたまま、その額には汗が滲んでいる。


フレデリカも同じだ。

まったく話さなくなり、前だけ見据えているのだ。


二人ともいつものギラついた眼ではなく、その眼には少し焦りがにじんでいるようだった。


イノチはその視線の先へ顔を向ける。


赤い光が届かない中央の真っ黒な空間。

そこには暗闇しか見えない。


ジッと目を凝らしてみる。

すると、薄らとだが人影があることに気づいた。


それはゆっくりと暗闇から姿を現していく。


出てきたのは…体格からするとおそらく男だろう。真っ黒なフードで顔を隠しており、口元しかわからない。



「人型の…モンスター…ではないよな。」



イノチの疑問には誰も答えなかった。

エレナもフレデリカも、男の雰囲気に恐れを抱いているように見える。


すると、男はニヤリと笑って、イノチたちに話しかけてきた。



「お前たち…プレイヤーだろ?」


「なっ…なんでそれを!!」



イノチは男の言葉に驚愕する。

なぜ、男から『プレイヤー』という言葉が出てきたのか。


理解できずにいるイノチをよそに、男は話を続ける。



「そこの女…よく逃げられたな。助けてくれたのは、そのナイト様か?」



その言葉には、誰も答えない。

男は訝しげにミコトを指差すと、再び口を開いた。



「お前だ、お前。赤いチャイナ服の女!もう忘れちまったのか?」


「え…え…」


「くっ…黒いフード…!?そうか!もしかしてお前、この子を襲ったやつか!?なんでそんなことを!!」


「ハァ…お前に話してねぇんだけど。まぁいい…理由か?そんなもんはねぇよ。同じプレイヤーと知って、とりあえず殺しとこうと思っただけだ…これからに備えてな…」


「これからに備える?なっ…何を言ってる…どういう意味だ!」



男は肩をすくめ、ため息をつきながら、腰に備え付けたダガーを抜き出した。

真っ黒な刀身だが、吸い込まれそうなほど透き通っている。



「別に話に来たわけじゃねえ…お前らにはここで死んでもらう。」



男はゆっくりと歩き出した。


手に持つダガーを上に放り投げ、クルクルと回転して落ちてくるそれを受け取り、また放り投げる。


曲芸のようにダガーを扱いながら、ある程度のところまで近づいてくると、パシッとダガーを受け止めて男は告げた。



「まずは…お前からだ!!」



その瞬間、男はイノチに向かって一直線に飛びかかった。



「うっ…うわっ…!」


「ちぃ…っ!」

「くっ…!」



一瞬でイノチの数メートル手前に迫る男。


男の予想外の速さに、エレナたちの反応が少し遅れる。


フレデリカが、イノチの前で庇う体勢をとる。それと同時に、エレナが男とイノチの対角線上に体を滑り込ませた。


対して、男は特に問題にする様子もなく、突進しながらエレナに向かって、左手に持ったダガーを下から上に振り抜いた。


エレナは、持っていた2本のダガーを抜いて、それを防ごうと構えたが…


キンッ!


乾いた金属音が響き、真っ赤な鮮血がイノチやフレデリカ、そしてミコトの体に飛び散る。


それに気づいたミコトの叫び声が、広間中に響き渡った。

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