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43話 ファイア オブ 顔面


「あいかわらず活気があるなぁ…」



イノチが立ち直った次の日。

メイに館の仕事を任せて、イノチたち三人はギルド総館を訪れた。


もちろん、ギルマスであるアキルドからの依頼の結果報告をするためだ。


ギルド総館のドアを開けて中に入ると、イノチたちに気づいたタラクが足早に近づいてくる。



「イノチさま!ようこそです。今日は何の御用でしょうか!!」


「えっ…あ…タラク…さんですっけ。」



突然、声をかけられ動揺するイノチ。

前回とまったく違うタラクの態度を不審に思ったが、次にタラクから発せられた言葉に納得する。



「そうです!この前はすみませんでした…あの後、ギルマスにこっぴどく叱られまして…」


「…あぁ、なるほど。それはご愁傷様さまです…ハハハ…ところで、今日はそのギルマスはいます?」


「ギルマスにご用事で?それでしたら、リンさんに伝えましょう!こちらへ!」



タラクはそう言うと、イノチたちをリンの元へ案内する。



「リンさん!お客さま…イノチさまです!」


「あら…イノチさん!一昨日ぶりかしらね!今日は…もしかして報告かしら?」



タラクの声に振り向き、イノチたちを見て、リンは笑顔で声をかけた。


ちなみにリンにもアキルドにも「様」付けはやめるようにお願いしている。理由はイノチがやりにくいためだ。


そんな呼ばれ方、今までした事ないし…


二人とも察して、快く了承してくれたが、アキンドだけはなぜかやめてくれなかった。


命の恩人にそんな真似はできないと、頑なに拒否されたのだ。



「そうです。とりあえずこれを納品したくて…あと、他の4つの依頼も全て終わりました。」



イノチはリンの前にあるカウンターに、ソフトボールほどの大きさに膨らんだ布袋と、アキルドが特別に斡旋してくれた依頼の品を並べた。



「さすがの早さですね!えぇっと…この布袋はギルマスに直接お渡しください。先にこちらの4品目を納品させてもらいますね。」



リンはそう言うと、布袋以外の品を引き取り、報酬のゴールドを赤い紐のついた皮袋に入れて、イノチの前に差し出した。



「はい!報酬は合計で26,500ゴールドです。仕事が早くて、本当に助かります!」



イノチはなんとなく変な気分になる。

リンに会うのは2回目なのに、この信頼度は何なのだろうか。


まぁ、原因はアキンドで、彼に何か吹き込まれたことは容易に想像できるのだが…


お礼を言って皮袋を受け取ると、リンが奥へと案内してくれる。



「ギルマスは今、来客中なんです。応接の間で少しお待ちいただけますか?」


「全然構いません。こちらもアポなしですから、待たせていただきます。」



そのままリンに案内され、応接の間に入ると、イノチは中心にあるイスに腰掛けた。


エレナとフレデリカも、思い思いの場所に座る。リンが部屋のドアを閉めていなくなると、エレナが口を開いた。



「来客って誰かしら…」


「誰かしらって言われても…俺にはわかんないよ。なんか気になるの?」


「いぇ…ちょっと気になっただけ…」


「それよりも報酬ですわ!『ダリア』は全部で600近くあります…これを換金したらいったいいくらになるのでしょう…クフフフ!」



フレデリカは目を輝かせて、鼻息を荒くする。彼女が興奮する理由は、金額ではないことをイノチは知っているため、敢えて何も言わないようにする。


少しするとリンが飲み物を持ってきてくれた。



「ごめんなさいね…話がまだ終わらないみたいで。」


「気にしないでください!俺らも別に急いでいるわけじゃないし…でも、もし差し支えなければ教えてもらいたいんですけど、誰がきてるんですか?」



その問いに、リンは少し考えるように顎に手を置いたが、すぐに笑顔になって教えてくれた。



「まぁ、イノチさんたちになら教えても大丈夫か…実は今、国都からの使者がきてるんです。」


(だから何なんだよ、その信頼感は…やりにくいなぁ。まぁ、聞いた俺も俺だけどさ…)



心の中でひとりツッコミつつ、リンに問いかける。



「国都…?からの使者ですか。」


「はい…私も詳しくは知りませんが、なんでも最近、商人の行路で野盗による強奪が多発しているみたいで…そのことで国都から使者が来たと、ギルマスからは聞いております。」


「ふ〜ん…国都から…ねぇ…」



イノチが首を傾げる横で、エレナが何やら考えにふけっている。



「なんだよ、エレナ…なんか気になってるみたいだけど…」



イノチがそこまで言うと、部屋のドアが開かれた。そして、アキルドが入ってくる。


その後ろには、全身鎧姿の人物が金属の擦れる音とともに姿を現した。


イノチは少し怪訝な表情を浮かべた。



「イノチさん…待たせてしまって申し訳ない。」


「いや…気にしないでください…というかその後ろの方は…」


「あぁ、彼は国都からやってきた使者で…」


「お初にお目にかかります。私はジパン国軍第一師団特別遊撃部隊所属シャシイ=コウセツと申します。以後お見知りおきを。」



その全身鎧姿は、兜をゆっくりと外すとそう名乗った。その兜の下から現れたのは、金色に輝く髪と淡い蒼色の瞳であった。



「あら…」


「イケメンですわ…」



エレナとフレデリカが後ろで女の声になったのを、イノチは少し引き気味に聞いていた。


これはデジャブだ…どこかでも同じようなことがあったな…。


イノチはため息をつく。


そんな中、アキルドがイノチの前に歩いてきて、目の前のイスに座ると、それに続いてシャシイも隣に座る。


イノチの頭に嫌な予感が走る。


なんとなく…直感だが…だって、アキルドの横に国都の使者が座ったし…


明らかに…フラグ立ってるよね…これ。


アキルドさん…絶対一言目は「実はですね…」だよね…



「実はですね…今回、イノチ殿にお願いがあるのです。」



はい…フラグ回収いただきました!

はぁ〜また指名依頼って…このギルドで変な地位を確立してるな、俺。


『ダリア』の換金に来ただけなのに…


んで、次はたぶん「最近、周辺で野盗が出没しているのは」的な話がくるんだろ…さっきリンさんが話してたしな。



「最近、ここ『イセ』の周辺で、野盗の被害が多発しておりましてな…物流が滞ることを懸念した国都から、討伐の依頼が届いたのです。」



ほらきた…そして最後は「野盗の討伐を俺に依頼したい」だろ…


なんか少しイライラしてきたな…なんで俺がめんどくさいことばかり受けなきゃなんないんだ?この際、バシッと言ってやるか!バシッと!!



「先ほどまで、このシャシイ殿と討伐に関する策を練っていたのですが、イノチ殿にはひとつお願いがあるのです。」


「要はその野盗の討伐ですね…はぁ…」


「あっ…いや…そうでは…」



イノチの言葉に、アキルドは訂正しようとするが、イノチは話し続ける。



「いいんですけどね…そもそも今日は『ダリア』の換金に来たんです。これはアキルドさんからの依頼なんだから、まずはそちらが先じゃないんですか?」



ふぅ、言ってやったぜ…アキルドさんには少し悪い気もするけど、こう毎回、ギルドに来るたびに依頼を押し付けられちゃたまんないからな!申し訳ないが、言いたいことは言わせてもらったぜ!



「…いや、ごもっとも…」



アキルドは頭をかいて申し訳なさそうにしている。それを見たエレナが後ろからイノチに声をかけてきた。



「BOSS、たぶん勘違いしてるわよ。」


「え…何がだよ…」


「アキルドのお願いはそれじゃないわ。」



その横でフレデリカも頷いている。

なんで二人にそんなことがわかるんだと言った表情のイノチに、アキルドが苦笑いを浮かべ、再び口を開いた。



「いやいや、イノチ殿のおっしゃる通りですな…まずはそちらの話が先でした。」



そう言って深々と頭を下げた。


え…なにこれ…俺の勘違いってこと?

何が?何を勘違いしたの、俺…うわぁ、恥ずかしい!!やばい、顔から火が出るってこう言うことか!!


イノチの顔から炎系魔法が放たれた。

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