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46話 紳士と竜娘


「連絡が遅いな…」



書斎の椅子に座ったまま、クリスはそう呟いた。足を小刻みにゆする様からは、苛立ちが窺える。


その理由は簡単だ。

侵入してきた賊を片付けたら、すぐにクロノスから連絡が来る手筈だったのにも関わらず、あれから数刻経っても何の音沙汰もないのだ。



(あの方たちに限って、人に負けるなどということは絶対にあり得ないのだが…)



あり得ない推測に頭を横に振るクリス。そんな彼の中で、一つの疑念が生まれた。


ーーー裏切られた?


しかし、その考えを彼はすぐに否定した。


気まぐれなお方たちだ。その可能性もなくはない。だが、裏切るというよりは"飽きられた"…そっちの方が正しいかもしれないなと、クリスは考えを改める。


そんなことを考えていると、執事の一人がノックをして部屋へと入ってきた。



「旦那さま…失礼いたします。」



平然とした態度にも見えるが、クリスは彼が少し動揺していることに気づく。



「何か…あったな。」


「はっ…屋敷西側よりに侵入者が…入り込みまして…」


「侵入者か…」



それを聞いたクリスは、自分の推測が当たったことを確信してため息をついた。


任せろと言っておきながら、何と気まぐれな…尻拭いはご自分でやってほしいと、いつも申しておるのに。


おおかた、アヌビス神が目の敵にしていた人間を排除したところで興味を無くし、神界へと戻ったのであろう。


そこまで考えて、クリスはゆっくりと立ち上がり、執事の男に現状を問う。



「賊はそれだけか?」


「はい…今のところは…」



だが、次の瞬間、今度はメイドが慌ただしく部屋へと飛び込んできた。その様子に怪訝な顔を向けるクリスだが、メイドは慌てた態度で報告する。



「お騒がせして申し訳ございません。屋敷の正面により賊が侵入してございます!」


「正面…からもだと?何ゆえに真正面から…。はぁ…まったく御方々は何をしておられるのか。気まぐれにも程がある!」



クリスはそう言うと、壁にかけてあった細く透き通った輝きを放つ双剣を取り上げて、それを執事に渡した。そして、自分は専用のベルトを締めると、再び執事から双剣を受け取って両腰に差す。



「狙いはエレナだろうが、どちらかは囮であろう…お前たちはこれを皆に伝え、西側の鎮圧に向かえ。私は正面のネズミを始末してくる。」



執事とメイドは「はっ!」とお辞儀をすると、素早い動作で部屋を出ていった。それを見送ったクリスは、再びため息をつく。



「毎度のことながら、お戯れが過ぎて困る…だが、神に仕える一族として…これも我慢するしかないか。」



そこまで告げると、クリスは窓から見える外の景色ををチラリと窺った。そして、ゆっくりと部屋を後にしたのだ。





「ここからで…いいんだよね…」



ミコトが恐る恐る尋ねると、メイがそれに答えた。



「はい…西側にこの門はありませんので、この柵を飛び越えます。」



メイはそういうと高く飛び上がり、3メートルはあろうかという柵を軽々と飛び越え、敷地の中へと入り込んだ。それを見ていたミコトは、感心した視線を彼女に向けるが…



「さっ、ミコトさまも早くこちらへ…」


「えっ!?」



メイにそう言われて、一瞬あたふたとなるミコト。


しかし、よく考えればゼンと融合した時は、宙返りやら側転やらものすごい高さでアクロバティックな動きをしていたのだ。


それを思い出せば、こんな高さの柵など怖いとは感じなかった。すぐに自身に身体強化魔法をかけ、タンッと飛び上がると、ミコトの横に音を立てないよう綺麗に着地する。


「お見事です。」と言ってくれたメイの言葉が嬉しかった。


だが、そんな安堵も束の間に、ゼンが顔を出して二人に告げる。



「さて…やはり嗅ぎつけられたな。二人とも、準備はいいな?」



その言葉に、二人は大きく頷いた。





フレデリカとアレックスは屋敷の正面に到着し、作戦決行の準備を行なっていた。正門の両脇にある柱に身を隠し、辺りの様子を窺ってみるが、人の気配はなさそうだ。


そこでふと、アレックスがフレデリカへ疑問を投げかける。



「そういえばフレデリカさん…ぼくたち、どうして隠れてるの♪?」



大きな門の横にある柱の影に隠れたアレックスは、反対側の柱の影に背を預けるフレデリカへそう問いかけた。それに対して、フレデリカは「ふむ…」とあごに手を置いて考えると、すぐに手を打ってこう呟く。



「確かにそうですわ。陽動なんだし、侵入が目的ではありませんでしたですわね。わたくしとしたことが…つい…」



フレデリカは自分にあきれたように肩をすくめた。アレックスも、それにはクスクスと笑っている。


二人はゆっくりと柱の影から姿を現すと、そのまま正門をくぐってランドール家の敷地内へと足を踏み入れていく。


途中、綺麗に整えられた植栽の間を通り過ぎると、少し開けた場所に出た。。フレデリカとアレックスは、そこでふと足を止める。


すると、それに合わせるように今度は植栽の裏から、一人の男が姿を現したのだ。


腕を組み、腰には双剣を携えた初老の男…



「あら…これはなかなか…良い男ですわ。」



フレデリカの戯れに男が静かに口を開く。



「何の断りもなく我が敷地に入るとは…お客様とは言え、少し失礼が過ぎませんか?」


「フフッ…人攫い相手に失礼もクソもないでしょうに…」


「クククッ…あれは私の娘でね。それを人攫いとは…その評価は心外ですな。」



男はフレデリカの挑発にクツクツと笑っていた。



「あなたは、エレナの父クリス=ランドールですわね?」



フレデリカがそう問いかけると、クリスは綺麗に腰を折り、丁寧に貴族らしくお辞儀をする。



「いかにも…私がランドール家の当主であるクリス=ランドールだ。お嬢さん方の名前を聞いても…?」



逆に問いかけられたフレデリカは、クスリと不敵な笑みを浮かべてこう告げた。



「お生憎様ですが…人攫いに名乗る名は持ち合わせておりませんので…」



その瞬間、クリスとフレデリカの間に、ヒリついた空気が流れ始める。だが、その横にいるアレックスはというと、クリスの態度を見てなんと紳士的な人だろうと純粋に考えていた。


侵入者に対して、こんな礼儀正しく対応する人がどこにいるだろうか。この人は紳士…さすがは貴族…そう考えていたのだ。


だからこそ、アレックスは自分なりの丁寧さでクリスに向かってこう告げた。



「僕は、アレックス=アンダーソンです♪」



ニコニコとした笑みを浮かべるアレックスに対し、フレデリカはあきれたように小さくため息をついた。


だが、勘違いしてほしくないのは、アレックスは本当に純粋にそう考えているだけであって、決して油断しているわけではない。


その証拠に…



「よろしくねぇ♪」



そう言って、クリスとの間合いを瞬時に詰めたのだ。


「ほう…」と声を漏らして少し驚くクリス。

だが、いつの間にか抜剣していた双剣でアレックスに斬撃を放つ。


鈍い音がして、アレックスの体が吹き飛ばされると同時に、すでに竜化を終え、クリスの真横に回り込んでいたフレデリカが今度は拳を放った。


クリスは素早く前転してそれをかわし、着地と同時にカウンター気味にフレデリカへ斬りかかる。


しかし、フレデリカもそれに遅れることなく反応し、笑みを浮かべながらオーラを纏った拳をクリスに向けた。



その瞬間、互いに浮かべた笑みがぶつかり合った。

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