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2話 生誕祭、始まる


リシア帝国生誕祭、当日。

国をあげての行事とあって、街は大きな賑わいを見せていた。



「生誕祭だけあって、やっぱり人は多いなぁ。」


「国をあげてのお祭りですもの。皆、浮かれますですわ。」



そう話しながら、人混みをかき分けて通りを進むイノチとフレデリカ。


彼らはすでに、リシア帝国中央都市ザインへ潜入を果たしていた。


中央都市というだけあって、ザインの規模はかなり大きい。


今、イノチたちが進んでいるのは、両側に人が通る歩道があり、中央には馬車専用の道路が二車線もある中央通り。


かなり大きな通りで、歩道ですら道路と思わせるくらいの広さがあった。


しかも、そこには押し寄せるように人が溢れ、その流れを作っている。



「転移のスキルがあれば早いですのに…」


「わがまま言うなよ。今日だけは特段の注意を払わないといけないんだ。相手に勘付かれるようなことは極力控えないと…」


「わかってますわ。あぁ…それにしても人が多いですわね!」



フレデリカはそう言って、珍しく眉をひそめた。


意外にも、フレデリカは人混みが苦手なようで、高飛車な彼女の性格からは考え付かなかった弱点に、イノチは苦笑いする。


そんなイノチに対して、怪訝そうにフレデリカは口を開いた。



「BOSS…目的地はまだですの!?」


「ハハハ…ごめんごめん。もうすぐのはずだよ。この通りを抜ければ、目的の東門だ。」



イノチはそう言って前を向いた。


中央都市ザインは、レオパルがいる王宮を中心に円状に広がる大都市で、都市設計は街を城壁で囲んだ都城制を取り入れている。


王宮には正門、東門、西門の三つの門があり、その門からはそれぞれ大きな通りが街を走り抜け、ザインはその3本の通りを基盤に商業区、文学区、生活区など、機能によって区分けされて発展している。


ちなみに正門の反対側。

門がなく、まるで王宮から背を向けられたようにも感じられる地区には、背業区、言わば貧民街が広がっているのだ。


イノチは歩きながらその視線を少し上げる。

その先に、煌びやかで巨大な門が目に映し出された。



「あれだ…」



イノチの言葉にフレデリカも視線を上げた。



「趣味悪いですわね。」


「あぁ…あからさまな感じがテンプレだな。」


「テンプレ?なんですの?それは。」


「簡単に言えば、"ありきたり"ってとこかな。」


「なるほど…」



どう理解したのかはわからないが、フレデリカは納得したようにうなずいた。


それを見ていたイノチはクスリと笑い、再び前に視線を向ける。



「さて…時間もないことだし、さっさと準備して配置につこう。」


「YES Sirですわ。」





「うわぁぁぁ♪この防具、かっくいいねぇ♪」


「アレックス、道草食ってる暇はないわよ。」



一方、エレナとアレックスはイノチたちとは別に、西門を目指して大きな通りを進んでいた。



「だってエレナさん♪これ、ほんとカッコ良くない♪?」


「あんた、いつのまに試着なんかしてるのよ!」



店員に勧められて、ガントレットをガシャガシャと鳴らして、嬉しそうに装備しているアレックスに、エレナはあきれた顔を浮かべた。



「さっさと外しなさいな。もうすぐ目的の場所に着くわよ!」


「はぁい♪」



エレナの言葉にアレックスは素直に従い、店員にガントレットを返してお礼をする。


そのまま、前を進むエレナの元へ駆け寄るが、突然エレナが止まったために、アレックスはエレナの背中へぶつかってしまう。



「みゃふ!…うぅ、エレナさん、どうしたの♪?」



そう言いながら見上げると、立ち止まったままある方向を注視するエレナがいた。


しかも、その目はキラキラと輝いており、まるで夢に憧れる少女のようだ。



「エレナ…さん…♪」



アレックスがもう一度たずねた瞬間、エレナは飛びかかるようにとある商店へと駆け出した。


『アマト・スイーツショップ』


そう店の看板には書かれている。



「これは!!スイーツ職人アマトが手がけた『ロマン・ド・タルト』じゃない!!はぁぁぁ!こっちには『チーズテリア』!!そうよそうよそうよ!!!ここはリシア!!アマトの聖地!!なんでそれを忘れていたのかしら!!」


「エレナ…さん♪」


「アレックス!!待ってなさい!!あたしが極上のスイーツをご馳走してあげるから!!」


「あ…あのぉ…目的は…♪」


「大丈夫よ!そんなに時間はかからないから!!あぁぁ!!これは『ショコラ・パンデミック』!!どうしよう!選びきれない!!」



店外のショーウィンドウの前で、まるで大好きなおもちゃを前にした子供のようにはしゃぐエレナに、アレックスは仕方ないなといったようにニコニコと笑っていた。





「エレナさん、これ本当に美味しいよぉ♪」


「でしょ!アマトのスイーツは絶品なのよ!」



二人は、人混みの中をスイーツを頬張りながら歩いていく。


けっこうな人が流れる通りだが、ぶつかることなく余裕でスイーツを楽しむ二人の身のこなしはさすがである。



「でもさ、買すぎじゃない♪?」



アレックスがエレナの姿を見て言う。

それもそのはず…エレナの両手にはたくさんの袋が抱えられているからだ。


その全てに『アマト・スイーツショップ』のロゴが入っていることから、中身は何か誰にでもすぐにわかるだろう。



「そうかしら?アマトのスイーツって、なかなか食べられないのよ。だから、こういう時こそ出し惜しみせずに買っておかなきゃね!」


「そ…そうだね♪」



ーーーこの人は今から何をしようとしているのか、本当に理解しているのか…



寛容なアレックスでさえ、そう思ってしまうほど楽しげにスイーツを楽しむエレナ。


一つ食べ終えると、袋から別のスイーツを取り出して、再び口へと頬張るその様子に、周りの人たちも物珍しげな視線を送っている。


そうこうしているうちに、二人の視線の先に西門と同じく煌びやかで巨大な門が現れた。



「エレナさん、そろそろ東門に着くよぉ♪」


「もう?意外と早かったわね。作戦の決行はいつだっけ?」


「レオパル国王の演説が終わったらだよぉ♪」


「OK!なら、さっさと準備して、時間まではスイーツを楽しみましょ!」



エレナはそう言うと、持っていたスイーツをペロリと平らげて、楽しげに歩き始めた。





「国王さま、まもなく演説のお時間です。」


「うむ。」



宰相の言葉にレオパルはうなずくと、イスから腰をあげて演説用のバルコニーへと向かう。


後ろでは宰相を含む部下たちと、護衛のために付き従う軍の幹部らがそれを見守っている。


護衛の一人が先にバルコニーへと進み、問題がないことを確認してレオパルへ視線を向ければ、レオパルはそれにうなずき、ゆっくりとバルコニーから顔を出した。


その瞬間、王を讃える歓声が巻き起こる。



「「レオパルさまぁぁぁ!!」」


「「国王陛下、バンザァァァイ!!」」


「「リシア帝国!!バンザァァァイ!!」」



レオパルが見下ろす先は、王宮の正門前の広場。

そこには、喜ばしいこの日を国王と祝おうと、たくさんの帝国民たちが集まっていた。


ただし、集まっているのは中流貴族たちのみで、それより下の身分にある他の国民の姿は見られない。


上流階級にいる貴族たちは、この後行われるガーデンパーティーに参加するため、一足先に王宮内の庭園に集まり、そこで王の演説を聞くのである。



「ふむ…」



レオパルは体を打つその歓声に、満足げにニヤリと笑うと、一つ咳払いをした。


歓声が止み、静けさが辺りを覆う。


それを確認すると、彼は目の前にある拡声魔法を施された魔道具へと話し始めた。



「親愛なる帝国民の諸君…今日が何の日であるか、ここにいる者で知らないものはいないであろう。」



ゆっくりと、聞く者の感情に語りかけるようにレオパルは話していく。


そして、国民たちも皆、次の言葉が待ち遠しそうに固唾を飲んでその姿を見守っている。


生誕祭の始まりを告げる国王の演説が今、始まったのである。

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