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87話 狙われた仲間たち


ソウタたちがたどり着く少し前。



「ぐっ…なっ…なんという重く早い拳だ…これが覚醒体…」



勢いよく吹き飛ばされたゼンは、何とかその勢いを殺して踏み留まり、頬をおさえる。


今までの攻撃など比べものにはならないほど、八岐大蛇の力は向上している。


力もスピードも技術も、何もかもがウォタと同等…いやそれ以上かもしれない。


たった一撃を受けただけで、ゼンはそう悟ったのだ。



(これでは勝ち目がない…しかし、この違和感はなんだ…)



その反面で、その強さに違和感も感じていた。


ウォタの強さとは違う…どこか異質な感覚。

どう例えて良いかわからないが、奴の拳には芯がないというか…


ウォタのように積み重ねてきた物の重みを感じなかったのだ。


それは同じ竜種であり、ウォタを超えるために努力を重ね、何度もウォタへ挑んでは返り討ちにあってきたゼンだからこそ感じられたのかもしれない。


ふらふらと首を上げると、ゆっくりと歩いて近づいてくる八岐大蛇の姿がある。


右腕をぐるぐると回し、首をコキコキと鳴らす。



「おーよく耐えたじゃねぇか。まぁ、今ので気を失われちゃつまんねぇけどな。」



ヘラヘラと笑いながら近づいてくる八岐大蛇へ、ゼンが問いかけた。



「一つ聞いて良いか…?」


「あん?なんだ?」


「お前…どうやって覚醒体へと至ったんだ?お前の中へと入っていったという光…いったい誰からの加護なのだ?」



その言葉を聞いた八岐大蛇の顔から笑顔が消えた。

しかし、なおもゼンは続ける。



「お前は覚醒して確かに強くなった。今のお前はウォタを超えているかもしれないな。だが、さっきの拳…あれからは痛みしか感じなかったぞ。ウォタの拳に比べて、芯がない気がするのだ。もう一度聞く…"誰の"加護を受けた?」



その問いに八岐大蛇は答えなかった。

いつの間にか下を向いて、肩を震わせている。



「覚醒体は竜種としての生き様を表すと言われている。だが、お前の拳をからはお前自身のことがまったく伝わってこなかった。」


「…るせぇ」


「力だけが強くなっても意味がないことは知っているだろう?我らは魂を磨いてこそ…」


「うるせぇって言ってんだ!少し黙れ!!」



八岐大蛇は叫び、顔を上げてゼンを睨みつけた。


その顔には怒りが滲んでいる。

しかし、その中に悲しみや悔しさが混在しているように感じられた。


真っ直ぐ睨みつけてくる八岐大蛇の視線に対し、ゼンは目を離すことなく八岐大蛇を静かに見据える。



「誰の加護をもらうかなんて関係ねぇ!俺は覚醒体になったんだ!今は俺が最強!ウォタは死んだ!その事実は変わらねぇ!」


「だが、御方の加護でなく別の方の加護を貰うというのは…聞いたことがないし、どうなるか…」


「どうもならねぇんだよ!このまま俺が最強!てめぇらをここで始末して、俺は最強を名乗るんだ!!」



いつの間にか心理的な立場は逆転していた。

冷静に八岐大蛇を見つめるゼンと、肩で息をしながらゼンを睨みつける八岐大蛇。


少しの間、睨み合う両者であったが、八岐大蛇が何かに気づいて大きくため息をついた、



「…そろそろおしゃべりはやめようぜ…飽きてきた。で、どうするんだ、ゼン?いくら大層な言葉を並べても、この状況は変わらない。お前は今から俺に負けることには変わりはないぜ。」


「…く」



八岐大蛇の言うとおりだった。

心理的に優位に立っても、状況はまったく変わっていない。


現状、ゼン一人で八岐大蛇の相手をしても負けは必然だろう。


いろいろと考えを巡らせるゼンを見て、八岐大蛇はニヤリと笑う。


そして、再び口を開いた。



「お前を殺した後で、ザコどもを痛ぶろうと思ってたけどよ。気が変わったぜ!お前の仲間を先に殺したら、お前はどんな顔をするんだろうな。」


「なっ…!?」



その言葉に驚愕するゼンに対して、八岐大蛇は笑みを深めるとゼンの目の前に瞬時に移動し、頭を鷲掴みにして地面へと叩きつけた。



「ガッハッ…」


「そこで見てろ…!」



強烈な一撃に動けなくなったゼンを残し、そのままある方向へと駆け出す八岐大蛇。


ゼンの視界にはその背中と、その先にいるソウタたちが映し出されていた。



「オロチ…やめろぉ…!!」



叫び声を背に笑みを浮かべる八岐大蛇が、駆けながら右手を上に掲げると、その手からは紫色のオーラの球が現れ、真上に放たれる。


そして、放たれたオーラの球はタケルが発動していたスキル『カンヤライ』が創り出した障壁に当たり、そのまま突き破ったのだ。


そこから一斉に障壁にヒビが走り、割れたガラスのように崩れ落ちていく。


崩れた障壁の欠片たちは、小さく輝くと静かに霧散していった。



驚いたのはソウタたちだ。


今まで自分達を遮っていた障壁がなくなり、タケルたちの加勢に向かおうとしていた矢先、見知らぬ男がこちらに向かってものすごい勢いで駆けてくるのが見えたのだから。



「おっ…おい!あいつ、こっちに向かって来てるぜ?」



カヅチがそう呟く傍らで、いち早くその男の危険性に気づいたソウタが剣を抜き放ち大きく叫ぶ。



「みんな!!気をつけろ!"あれ"はヤバい!」



男の笑う顔が目に入る。

仲間たちもそれに気づいて臨戦体勢を取り始める。


ふと、男の姿が消えた。

ソウタは焦り、その姿を探すが見つからない。



(ど…どこだ…)



その時だった。



「がっ…ふっ…」



後ろから呻き声が聞こえ、そちらに目を向けたソウタは愕然とした。



「んだよ…柔らかすぎんだろ。」



あきれたようにそうつぶやく男の前で、胸を貫かれて血を吐き出すオサノの姿があったのだ。



「オサ…ノ…」



信じられずそうこぼしたソウタの横で、誰よりも真っ先にキレたのはシェリーだった。



「お前えぇぇぇ!!何しやがんだぁぁぁ!!」



そう叫ぶ彼女は姿形を変えていく。


筋肉をこれでもかと言うほど膨張させたその体は、筋骨隆々のボディビルダーの如くであり、先ほどまでクネクネさせていた細い体はどこにも見当たらない。


これは彼女のスキル『バルクアップ』の効果で、自らの筋肉を肥大化させ、その力を数倍に跳ね上げるものである。


一見、パワーを向上させるだけと思われがちなスキルだが、実はこのスキルの最大の特徴は"基礎能力の肥大化"だ。


要は体力、力、素早さなど、基礎的な能力が一時的に全て向上するという意外にも優れたスキルなのである。


そのスキルにより大きく変化したシェリーは、握りしめた拳を男へと放った。


シェリーの大きな拳が男の頬を捉え、バキッという鈍い音がする。


…が、男は意に介することもなく、オサノを貫いていた腕を彼の胸部から抜くとシェリーに視線だけを向けた。



「まぁまぁなパンチだ。だがな、本物の拳はこういうもんだぜ。」



崩れゆくオサノを前に男がそうつぶやいた瞬間、シェリーは腹部に強烈な衝撃を受けて言葉を失ってしまう。



「か…か…か…」



呼吸さえ困難なほどの衝撃に耐え切れず、その場に膝から崩れ落ちていくシェリー。



「くそぉ!!」



その様子に焦り、抜いた剣を振り上げて飛びかかるソウタ。

カヅチもそれに合わせて槍による刺突を男に放つ。


しかし、男はソウタの剣を左手で、カヅチの槍を右手でいとも簡単に受け止めてしまったのだ。



「なんだよ…もう少しやれると思ったのに…拍子抜けだぜ。」



欠伸をしながらそうこぼす男の両脇で、必死にその手から自分の武器を取り返そうともがくソウタとカヅチ。



「なっ…なんて力だ…」


「離し…やがれ!」


「はぁ…ちょっと掴んでるだけじゃねぇか…まじかよ。」



そんな二人を見て、ため息をつく男にソウタが問いかける。



「お…お前何者だ…グググ…なんで…こんなことを…」


「俺か?なんだ忘れちまったのかよ…まぁこの姿じゃしかたねぇか。俺様は八岐大蛇だ!よろしくなぁ!」


「なっ…八岐…大蛇…だって?」


「マジ…かよ…ググ…」



必死に抵抗しながらも驚く二人の顔を見て、ニンマリと笑った八岐大蛇。


突然、掴んでいた二人の武器を握り潰し、その拍子に体勢を崩したソウタの両腕両脚を一瞬でへし折ると、すぐさまカヅチの頭を鷲掴みにする。



「さてと…女ぁ、てめぇにはゼンの前で鳴いてもらうぜ。」


「カヅ…チ!!」


「離しやがれぇ…がぁぁぁ!!」



横たわり悔しそうに叫ぶソウタの目の前で、必死に抵抗するカヅチの頭を締めつけながら、八岐大蛇は醜悪な笑みを浮かべるのであった。

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