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67話 絶望へのカウントダウン


「あてて…てめぇ、ヴェー。何も殴ることはねぇだろ。」


「ヴィリ、ごめん。」



無表情のままテヘペロと舌を出してウインクするのは、薄紫色のツインテールを揺らすヴェー。


それに対して、頭を抑えながら不満そうな顔をする青い短髪の男がヴィリである。


歩く二人の後ろには、タケルたちから奪われたいくつものお酒の樽がふよふよと浮かんでいる。



「ったくよぉ…俺の楽しみを奪いやがって。」


「ヴィリ、それは違う…」



ヴィリの言葉に、今度はヴェーは頬を膨らまして不満を露わにした。



「あのままだとヴィリは絶対にあいつらを殺してた…それだとランク戦への参加権利を剥奪されて兄様に怒られる。ヴィリだけ怒られるならいいけど私まで…それは許されない。」


「そっ…そんなことはしねぇよ!俺だって兄貴に怒られるのは嫌だからな!」


「嘘…そう言ってこれまで何度も騙されてきた…今回は信用しない。」


「うっ…」



ジト目を向けるヴェーに対して、ヴィリは少したじろいだ様子を見せたが、すぐに頭の後ろをかきながら小さくため息をついた。



「わかったよ。今回はお前に従う…約束するよ。」


「素直は…良いこと。」



ヴェーは少し満足げに笑うと正面を向く。



「見えてきた…あれが北の祠…あそこにお酒を…置けばいい。」


「しっかし、あんな小さな祠になぁ…よく考えれば、オロチのやつも可哀想なやつだよなぁ。」



ヴィリの言葉にヴェーはうなずいた。


遠目に見える祠の高さはヴェーの背丈程度で、決して大きいとは言い難いし、低い台座に置かれた社は質素なデザインで装飾などまったくない。


風を受けて揺れる広い草はらの真ん中にポツンと腰を据える祠。


そんな小さく寂しい祠に『八岐大蛇』が封印されているのだ。



「それには同意。ユニークモンスターなのに…この世界で自由を許されていない唯一の存在…だけど、その制約のおかげで力は強い…」


「確かに…アマテラスんとこの神獣とタイマン張れるくらいなんだろ?まぁ、今となってはどっちが上か決めようがないけどな。」



ヴィリはカカカッと大きく笑った。


二人はそのまま歩いて近づくと、浮かんでいたいくつもの酒樽を祠の目の前にドカドカと降ろした。



「おいおい…ヴェー!そんな置き方でいいのかよ。」


「わからない…置き方なんて特に決めてないし…それにオロチの場合、近くに酒があれば勝手に起きる…」


「まぁ…そうかもしれないけどよぉ。」



二人がそんな風に話していると、祠の奥から小さくうめき声が聞こえてきた。



「おっ!相変わらず酒の匂いには敏感だな。」


「仕方がない…オロチから酒を取ったら何も残らない…」


「そっ…それは言い過ぎなのでは…?あいつ怒るぜ?」



その瞬間、ヴェーはおぞましい雰囲気を体にまとわせて、目を光らせて口を歪めた。



「怒る…?オロチが…?誰に…?」


「おいおい、ヴェー!落ち着けよ、オーラが漏れてるぞ。」


「あ…いけないいけない…失敗…」



ヴィリの言葉にハッと気づいて、ヴェーはまたもや無表情のままテヘペロと舌を出す。


そんなヴェーの態度にあきれてため息をつくヴィリ。


そんな中、今度は祠の中からはっきりと声が聞こえてきた。



「ガハハハ!お前ら、なんの話をしているんだ?!」


「おっ!起きたみたいだな。」


「ん…酒飲みが起きた…」



祠から大笑いするのはオロチ…そう『八岐大蛇』である。



「まぁ、なんの話でもいいか。それよりもこんな大量の酒、いったいどこで手に入れたのだ!予想以上過ぎるぞ!ククク、今回は久々に楽しめそうだなぁ!」


「おいおい…オロチ。目的を間違えんなよ?今回は好き勝手していいわけじゃねぇ。てめぇの仕事は…」


「わかっている!この街を潰せばいいのだろう?プレイヤーと共に!」


「あぁ、わかってりゃいいんだがよ…」


「ガハハハ!!任せておけ!今回は前と違って酒がこんなにあるんだ!これだけあれば、だいぶ行動時間が確保できるからな!プレイヤーの奴らを一人ずつ食べていくのも一興だ!グァッハハハハハ!!」



声だけではあるが、明らかに調子に乗っていることがわかるほど笑っている八岐大蛇。


ヴィリは頭を振りながら、ため息をついている。


しかし、それ以上に…



「…オロチ…なんか…調子に乗ってない…?」


「ガハハハッ…ハッ…?」


「ヤベッ!」



突然の言葉に祠から笑い声が止んだ。

ヴィリも少し青ざめた顔を引きつらせている。


もちろん、その理由はヴェーである。


歪んだオーラがツインテールをゆらゆらと揺らしており、目を光らせ、口を大きく歪ませているヴェーの雰囲気は、オロチを黙らせるには十分だった。



「…オロチ?わかって…る?」


「うっ…!!わっ…わかっておる!!わかっておるぞ!!」


「ん〜、わかって…お…る?」


「ひぃぃぃ!!わかっています!わかっております!タカハの街の殲滅です!!気を抜きません!!油断しません!!ちゃんとやります!!」



その瞬間、ヴェーの顔が元に戻った。

相変わらず無表情であるが、おそらく笑っているようだ。



「なら…いい。兄様のために…三人で頑張ろ…」


「はい!はいはい!頑張りましょう!!頑張りましょう!!!」



焦った声で叫ぶ祠…の中の八岐大蛇。


その横でため息をつきながら頭をかくヴィリと、無表情で腕を高らかにエイエイオーをするヴェー。



「はぁ〜、もういいか?そろそろ始めんぞ!」


「はい!お願いします!お願いします!!」



必死に懇願する八岐大蛇の言葉にうなずいて、ヴィリは置いてあった酒樽へ手をかざし、ふわりと浮かせて祠の真上に移動させた。



「おら!ヴェー、準備できたぜ!」


「うん…まかせて…」



ヴィリの言葉に、今度はヴェーが両手を酒樽に向ける。

そして、彼女は聞きなれない言葉を口ずさんだ。



「※※※※※※」



その瞬間、酒樽たちが一斉に紫色に輝き出し、それら全ては祠の中へと吸い込まれていったのだ。



「よぉし!これであと数時間後には復活できるぜ!」


「オロチ…今回は…お酒いっぱい用意した…失敗は…許されない。」


「グハハハハハッ!!お任せあれぇぇぇ!!」



先ほどまで怯えていた様子から一変。

オロチはすでにやる気と自信を取り戻しており、祠の中から大きく高らかに笑い上げた。


全ての酒樽を吸い込んだ祠からは紫色の禍々しいオーラが立ち上り、それと同時にヴェーが少し大きめの端末を手元に発現させる。



『八岐大蛇、出現まであと《7:29:45》』



端末の画面にはそう表示されている。

絶望へのカウントダウンが始まった瞬間だった。

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