43話 ガチャの巻①
反抗勢力『回天の器』のアジトの一室。
イノチはベットに横になり、天井を見つめていた。
「とりあえず、ラビリスの神獣は仲間にできた…それにまさかの巨獣も…あとは生誕祭で作戦を決行するだけなんだけど…」
イノチはごろりと横を向く。
「セイド…『創血の牙』サザナミ支部長…か…どこまで信じていいものか。」
『ラビリスの大空洞』での一件で、予想以上の手駒が手に入った。
予定していた目的は達成できたが、まさか敵対するクランの支部長が仲間に加わるとは思っても見なかった。
彼がどこまで信用できるのかはまだわからないが、これを活用しない手はないとイノチは考えている。
しかし、まだ何か足りないような…
作戦がうまくいき過ぎていることがそう感じさせるのか。
何かしっくりきていない自分がいたのだ。
喪失感…物足りなさ…
心が満たされていない感覚。
これは一体何なんだろう…
しかし、イノチはその原因にすぐに気づいた。
そして、ベットから勢いよく起き上がると、ハンドコントローラーを起動させる。
キーボードの上で素早く手を走らせると、壁だった場所に人ひとりが通れるほどの空間が開いた。
「簡単なことじゃないか!なんでこれを忘れていたんだろう…俺としたことが。」
イノチはそう言うとニンマリと笑みを浮かべ、その空間の中に消えていった。
イノチが通り過ぎた後、その空間はスゥっと消え、元の壁に戻る。
「BOSS!いるぅ!?」
バンッと扉が開いて、エレナが入って来た。
しかし…
「あ…れ…?BOSS…?」
誰もいない部屋には、ベットの上のシワのついたシーツだけが佇んでいた。
・
「さてと…」
誰もいない部屋でイノチは一人、携帯端末を操作している。
「あった。これだよ、これ…何で忘れてたかな。」
イノチがそうつぶやきながら、アイテムボックスからあるものを取り出した。
『希少石(SR)』
初心者応援ガチャで獲得していた素晴らしいアイテム。
これを手に取ってイノチはニヤリと笑みを浮かべた。
「『UR』確定アイテムなんて重要なもの、忘れていたとかどうかしてるよ…まったく。」
そうこぼしながらも、内心では仕方ないかと感じているイノチ。
その理由は、ここまでいろいろなことがあり過ぎてガチャに意識を向ける時間が少なかったからだ。
今は重要な作戦中ではあるものの、仲間のレベルアップに加えて、自分自身がハンドコントローラーを使いこなせるようになったことで心に余裕ができたこともあり、体がガチャを欲し始めたのだ。
※ちなみにそれらしく書きはしたが、これはイノチが自分に都合よく解釈した内容です。だって彼、何度かガチャ引いてるし…
「それに加えて…」
イノチは携帯端末の『黄金石』所持数にも目を向けて、改めてニヤリとする。
『黄金石×201』
少しずつ貯めてきた黄金石は10連10回分にまで達していたのだ。
「やっぱりUR確定は最後かなぁ。いや…最初に引いて気分を上げておくのも良いよな。う〜ん…どうするか。…まぁ、引きたいタイミングで引くとしよう。どうせここじゃエレナには見つからないし、ゆっくり引けるからな!」
イノチはそう一人でつぶやくと手を前に掲げて定番の魔法を唱えた。すると、目の前にはいつも通りのガチャウィンドウが現れる。
「あれ?キャンペーン中だったのか。端末には何の通知もなかったけど…」
画面の端には『キャンペーン特設ページへGO!』というアイコンがあり、ついついイノチはそれをタップしてしまう。
「こっ…これは…!?」
画面を見たイノチは驚きを隠せない。
『新番組開始に併せて、ヒーローキャンペーンを開催します。今なら戦隊ヒーローのヘルメットが五色揃って排出率アップ!!』
「ヒーロー…キャンペーン…。なんとも激アツなキャンペーンだな!え〜っと、なになに…?」
『キャンペーン用ガチャでは、ピックアップアイテムの排出率が上昇中です。五色揃えて君たちもヒーローを体感しよう!※ピックアップアイテムはノーマルガチャでも排出されます。』
「ふむ…なら、せっかくだからキャンペーンガチャも何回か引こうっと。だけど、どれから引くか余計に迷っちゃうな、これは。」
腕を組んで少しの間悩むイノチだったが、そこはガチャ廃人の性が勝る。
イノチは好きなものから引くぞとばかりに、キャンペーンガチャのアイコンをタップした。
「さてさて〜っと、もちろん引くのは10連だよってね!」
ウキウキと10連ガチャのアイコンをタップすると、画面が切り替わり、いつもの白髪白ひげの男が現れた。
ここまで来るとその顔に違和感はないが、彼の服装を見たイノチは少し興奮気味だ。
「さすがヒーローキャンペーン!演出も凝ってるなぁ!」
男は黒いタイツを着ていて、悪役さながらなポーズを決めると砂時計を回し始める。
そして、落ちていく砂の中から輝く球がいくつも飛び出してきた。
「白、白、白、白、白…」
飛び出す球はどれも『白球』だ。
最後に飛び出した白い球を見て、イノチは小さくため息をつく。
「…まぁ、1回目はこんなもんか。次行こう。」
再び10連ガチャのアイコンをタップすると、黄金石の所持数が『181』から『161』へとマイナスカウントされる。
その様子をチラリと見た後に、切り替わる画面を注視すれば再び黒いタイツの男が現れて砂時計を回す。
「今度は頼むぜ…」
祈るように両手をすり合わせ、画面を見つめるイノチ。
すると5つ目に『虹』色に輝く球が飛び出してきた。
「お…『SR』か!」
驚きつつもあまり嬉しそうな表情を見せないイノチ。
なぜならば、彼の心はすでに『UR』以上でないと満たされなくなってしまっていたのである。
この世界に降り立ち、初めこそ『R』や『SR』で歓喜していたイノチだったが、このストイックさこそがガチャ廃人たる所以なのだ。
『SR』の結果は『ドラゴンキラー』というダガーでエレナ専用の武器だったが、イノチはそれをすぐにアイテムボックスへと仕舞い込んだ。
「キャンペーンガチャは次で終わりにしよ…」
そうつぶやくと、再び10連ガチャのアイコンに指を置いたイノチ。
しかし、画面を見ていたその表情には驚きの色がみるみる浮かび始める。
「なっ…!虹球…?しかも…5つも…」
1つ目から虹色に輝く球が飛び出してきたかと思えば、そのまま勢いよくいくつもの虹球が排出され、その結果、
『虹球』5つ
『金球』1つ
『白球』4つ
という今までで一番良い成果を遂げたのである。
「『UR』が1つ出るか、『SR』がたくさん出るか。どちらを喜ぶかは難しいところだよなぁ…」
そうこぼしつつ、結果を開いてまた驚いた。
「うっそ…これ、ヒーローコレクションじゃん…!まさかのコンプリートとは…!」
イノチがそう言って見つめる画面には、赤、青、緑、黄、桃色のヒーローマスクがきれいに並んでいたのである。
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「おい、聞いたか?」
「あぁ聞いてるよ。例の"天運"がまたやらかしたんだろ?」
「あぁ…今度はヒーローキャンペーンガチャで『ヒーローマスク(SR)』をコンプしたらしいぜ。」
「もう何を聞いても、"天運"って言葉を聞いたら納得してしまう自分が怖いわ。」
「俺もだよ…」
二人はそう言いながら、キーボードの上でカタカタと手を走らせていた。




