40話 威勢だけは…
「モオォォォォ!!!」
ミノタウロスが咆哮とともに大きな斧を振り下ろす。
それはセイドの頭めがけて一直線に向かっていったが、セイドは素早く横にステップするとその斧をかわした。
大きな音を立てて地面にめり込む斧は、周りの土を隆起させて亀裂を四方に走らせる。
「ひょお〜!食らったらひとたまりもねぇなぁ!!」
楽しげな声を上げるセイド。
しかし、ミノタウロスは彼の予想を遥かに上回る動きを見せた。
「のわぁ!!」
今度は自分の首めがけて襲いかかってくる斧をしゃがんでかわす。
頭の上を風圧が横薙ぎにかすめていった。
「こいつ!どんな筋力してやがんだ!!うおっ!!」
異常な速さで繰り出される斧の斬撃をセイドは難なくかわしているものの、ミノタウロスの多数の多さに攻撃に転じることができない。
「おりゃぁぁぁぁぁぁだミノォォォォォォォォ!!!」
ミノタウロスの渾身の一撃は空を切ったが、大きな衝撃波を生み出しながら再び地面を大きくえぐり取った。
「こいつ、見かけによらず速えじゃんっ!!」
ミノタウロスから距離を取りつつ、そう漏らすセイド。
そんな彼を見ながら、ミノタウロスは地面にめり込んだ斧をゆっくりと担ぎ上げて振り返ると、大きく鼻息を吐いた。
「ちょこまかとうざったい奴ミノね!!」
「こいつ…ちょっとナメてたかも。副団長は大丈夫か…」
チラリと視線を向ければ、ケンタウロスの猛攻をなんとか防いでいるアカニシの姿がうかがえる。
「…ありゃ〜けっこう劣勢だな、こりゃ。」
「おい、お前!どこ見てるミノ!!よそ見するなミノ!!」
ミノタウロスは斧を地面に突き刺すと、大きな声でそう叫ぶ。
そして、眼を赤く光らせながら体を震わせ始めた。
「そろ…そろ…本気で…いくミノ…ノオォォォォォォ!!」
「おいおい…うそだろ。マジかよ…」
巨大化していくミノタウロスを見て、唖然とするセイド。
ミノタウロスは再び大きく鼻息を吐き出してこう告げる。
「これで終わらすミノォォォ!!!」
一方で、アカニシはケンタウロスの速さについていけず、その攻撃をなんとか防ぐことで精一杯だった。
「ほれほれ!こっちだ!」
「ぐっ!」
「今度はこっちな!そりゃ!」
「がぁっ!」
「へいへい!兄ちゃん!どうしたよ!!」
「くっ…くそっ!!」
イラ立ちながら剣を振るうがケンタウロスは最も簡単にそれをかわす。
「どこ切ってんだ!?遅せぇよ!!ハハハ!!」
「てっ…てめぇ、ちょこまかとっ…!!」
肩で息をするアカニシをよそに、ケンタウロスは少し距離をとったところに着地する。
そして、小さくため息をついてつぶやいた。
「ふぅ…ちょっと飽きてきたな。なぁ、お前…もうちょっと本気出せねぇの?」
「…なにぃ!?…ハァハァ…」
「その様子だとそれが限界かぁ…つまんねぇな。だけどまぁ、遊んでるとBOSSに怒られちまうからな。ミノタも本気でやってるみたいだし、ここは俺の本気も見せとくかな!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえぞ!ハァハァ…俺の本気はこんなもんじゃ…」
「威勢だけはいいんだな!本気じゃねぇってなら、次の攻撃を受けてみてくれよ…ハァァァァァァァァ…!」
そう告げたケンタウロスの目が赤く輝く。
そして、大きく息を吐くと体の周りに魔力のオーラが漂い始め、その体が少し変化し始めたのだ。
腕や足の筋肉が膨張し、その後から肌の色が変化を始める。
アカニシはその様子を息を飲んで見据えていた。
数秒もすれば、全身は光沢のある銀色に変わり、サイズもひと回り大きくなっていて、右腕からは大きな剣のような長い刃物を生やすケンタウロスの姿が現れたのだ。
「さてと…待たせたな。ここからは本気で行くぜ。」
その言葉を聞いたアカニシは震えが止まらなかった。
剣を交えぬともケンタウロスの強さがヒシヒシと伝わってくるのがわかったからだ。
なめていた…
ユニークモンスターの力を…
ここまで強いとは…完全に侮っていた。
空気が震えている。
その振動は鎧を通り抜け、自分の肌に直接伝わってくる。
ーーーこいつはヤバい…
その言葉が頭の中をぐるぐると回っていたが、ふと団長の言葉が頭をよぎる。
『やつらにはまだ手を出すな…』
その言葉はアカニシにとって、忠告から後悔に変わっていた。
「おい…大丈夫かよ。震えてんぜ?」
「うっ…うるせぇ!さっさ…サッサとかかってきやがれ!」
今のアカニシには虚勢を張る以外にできることはなかった。
目に涙を浮かべつつ、震えるりょう手で剣を構える。
鎧が小刻みに音を立て、その剣先がケンタウロスを捉えることは叶わない。
死を感じている彼の中には絶望が渦巻いていた。
「お〜い、大丈夫かねぇ。死んでもらっちゃ困るんだが…しかしまぁ、それも含めて俺らのテストって事なんだろうなぁ。」
ケンタウロスが何を言っているのか、もはやアカニシには理解できなかったが、ケンタウロスの右手にある大きな剣が自分に向けられると大きく声を上げた。
「俺はぁぁぁ!!クラン『創血の牙』副団長のぉぉぉ!!アカニシ様だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なんだぁ?突然意味不明なことを…」
アカニシはそう叫ぶと、驚くケンタウロスに向かって剣を振り上げて駆け出した。
それを見たケンタウロスも口元でニヤリと笑みをこぼす。
「いいねぇ!そうこなくっちゃ!!もし死んだら恨んでくれるなよぉ!!」
同じく駆け出すケンタウロス。
声を上げ、剣を振りかぶるアカニシ。
肘を引き、右手の剣を構えながら4本の足を力強く踏み抜くケンタウロス。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「ハハハハハハハハっ!!!」
両者の剣が今、火花を大きく散らした。
・
「副団長…大丈夫っすか?」
声が聞こえて目を開けると、薄っすらと見覚えのある兜が映る。
「セッ…セイドか…うぐっ!」
「無理しちゃダメっすよ。今ポーションで治しますんで…」
横たわるアカニシには向かってセイドはそう言うと、アイテムボックスを操作し始めた。
…が、アカニシがその手を止めた。
驚いてアカニシを再び目を向けるセイド。
「…いい…自分でやる…ぐっ…」
「そうっすか…」
アカニシはセイドの手を離すと自分で上半身を起こした。
「…くっ…どうなったんだ…?」
アカニシの問いかけに、セイドも腰を下ろして答える。
「俺も副団長も奴ら…ユニークモンスターに負けたんすよ。」
「…そうか。しかし、俺らはなんで生きているんだ…」
「それはよくわかんねぇっす…」
セイドは肩をすくめて話を続ける。
「副団長はあの4本足に吹き飛ばされ、壁に突っ込んで気を失っちまったんですよ。俺もでっけぇ牛にやられちまって…でも、気づいたらあいつら帰っていったんですよ。」
「帰って…いった?」
うなずくセイド。
アカニシはポーションを取り出すと、それを一飲みにして瓶を放り投げた。
「はぁ…くそぉ!!なんでこうも上手くいかねぇんだ!!」
悔しさを吐き出すアカニシは、何度も何度も地面を殴っていく。
そんな彼を見て、セイドが小さくこぼした。
「副団長…この事はクランには内緒ですよね?」
「あ"ぁ"!?当たり前だろが!こんな事、団長に言えねぇよ!」
「ですよね。なら、副団長は先にクランへ帰ってもらえます?けっこう時間経っちゃてるから、そろそろ帰らないと怪しまれますし…」
「てめぇはどうするんだ…」
「俺はもう少しこの洞窟を調べてみます…ほら、俺だけなら奴らをうまく交わして探索するのは簡単だ。副団長もよく知ってるでしょ?」
アカニシはセイドをジッと見据えていたが、一言「わかった。」と言って立ち上がった。
「その代わり、分かったことはすぐに教えろ。内密に、だ。」
「もちのろんですよ!」
セイドはそう言うと、兜の下で小さく笑うのだった。




