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36話 トヌス、スネク商会を訪ねる


トウトの街の一画には一際大きな敷地がある。

広さでいえば東京ドームほどはあるその敷地は、何を隠そうスネク商会の本部だ。


トヌスとヘスネビはその正面の入口の前に立っていた。



「おっ…おい。やっぱりやめようぜ。俺は怖くなってきた…」


「肝っ玉小さい奴だな!!シャキッとしろよ、シャキッと!!」



ビビるヘスネビに喝を入れると、トヌスは入口に近づいていき、門番のうちの一人に声をかけた。



「よう!」


「……」



トヌスの声に表情を変えず、視線だけ向ける大きな体躯の男。



「俺はトヌスってんだが、今日は会長はいるかい?ちょっと用があって来たんだが…」


「お前みたいなアホに会長は会わん。」



男はそう一喝する。



「おっと…こりゃご丁寧にどうも。でもよ、ちゃんと繋いどかねぇとお前が後でドヤされることになるが大丈夫か?」


「口の減らねぇ奴だ…痛い目を見ねぇとわかんねぇのか?」



トヌスはその言葉に方をすくめた。



「良いから一回繋いでみろって。」


「断る!痛い目に会いたくないならさっさと消えろ。」



小蝿を払うような仕草をする門番の男を見ると、トヌスは諦めてヘスネビのところに戻ってきた。



「ほら見ろ!!言っただろ!?会長には簡単には会えねぇんだ。別の方法を考えよう!!」


「そう焦んなって。大丈夫だ…もう少ししたら入れるようになるからよ。」


「もう少ししたらって…お前何考えて…」



唖然とするヘスネビを横目に、トヌスは目の前の通りを静かに見つめていた。


多くの人や馬車が行き交う通り。

ジパン最大の街というだけあって、人の多さは尋常じゃない。


まぁ、元の世界の東京ほどではないが…

それでも多いと言っていい。


綺麗にデザインされた馬車が目の前を通過する。

その反対側には荷を高く積み上げた商人の馬車がすれ違う。


忙しそうに歩いて行く商人らしき男や優雅に歩く淑女たち。

スマートに杖を振る紳士や家族連れなど、たくさんの人がその喧騒を生んでいる。


いつのまにか静かになったヘスネビとその喧騒を眺めていたトヌスだが、遠くに一際きれいな馬車が見えた瞬間にスッと立ち上がった。



「どうしたんだ?」


「来たぞ…見覚えあるだろ?あの馬車に。」


「馬車…?って、あれは会長の馬車じゃねぇか!!」


「そうだ。さて、行くぞ。」


「いっ…行くって、おい!!いったい何する気だ!!」


「別に襲うわけじゃねぇんだ。落ち着けよ。」



トヌスはそうヘスネビに告げると、再び門番のところへと駆けて行く。


門番の男は再び視界に映るトヌスを見て怪訝な表情を浮かべた。



「また、てめぇか。」


「おう、また俺だ。そろそろ会わせてくれる気になったかと思ってな。」


「なるわけねぇだろ!!さっさと消えろ!!俺は忙しいんだ!」


「忙しいって…立ってるだけだろ?何が忙しいんだ?」


「なんだとぉ…?」



トヌスの言葉に男は怒りの視線を向けた。

…が、何かに気づくとすぐにその視線は別の方へと向いた。



「邪魔だ!どいてろ!」



門番はトヌスにそう言い放ち、目の前に止まった馬車に敬礼する。



「お前たち、ご苦労さま。」



馬車の窓が開くと、中から優しげな労いの声が聞こえてくる。


窓から覗いたのは鋭くも凛々しい目つきに、聡明さを感じさせる口ひげを携えた男性だった。



「ボア会長、おかえりなさいませ。」


「特に変わりはないかな?」



この男こそボア=ワイルド…スネク商会の現会長であり、スネク商会を統べ、トウトの商業の頂点に立つ男である。


門番の男は会長に声をかけられて嬉しそうな顔をしている。

それから察するに人望は厚い人物のようだ。


トヌスも彼に会うのは今回が初めてだが、顔を一目見ただけでそう感じられたくらいだ。


門番の男は気分を良くして返事をしようとする。


しかし、それを遮るようにトヌスが再び声をかけた。



「おいおい!ボア会長が目の前にいるんだぜ。ニヤけてないで、俺が来てることをちゃんと繋いでくれよな!」


「てっ…てめぇ、よほど痛い目にあいたいみたいだな!」



トヌスの行動に門番の男は顔を赤くしたが、突然ボアが声を大きくして馬車から飛び出してきた。



「あっ…あなたは、もしやトヌス殿ではないか!?」


「いかにも、俺がトヌスだ。会長、お初にお目にかかりますね。」


「なんという事だ…やっとお会いできた!!今日までどれだけあなたを探したことか!!あなたには悔やんでも悔やみ切れないほど酷いことを…本当に深くお詫びさせてくれ。」



そう言って頭を下げるボアを見て唖然とする門番。

トヌスは彼にウィンクすると、ボアに対して声をかけた。



「私の方こそすみません。あれから色々あってイセの街に行っていたのですよ。とりあえずは頭を上げて…さぁ。」


「…ありがとう。そうだな、ここではなんだからまずは屋敷へ行こう。ささ、馬車に乗ってくれ。」


「そうですね…と言いたいところですが、まずは一人紹介してもいいですか?」



その言葉に疑問を浮かべるボアを待たせて、トヌスはヘスネビに声をかける。


そして、頭を必死に横に振って拒否するヘスネビを無理矢理引っ張って、ボアの前に連れてきたのだ。



「…ヘスネビ、貴様。」


「かっ…会長…」



その姿を見た瞬間、顔をしかめるボア。

二人の間に気まずい雰囲気が漂い始めるが、トヌスがそれを破るように口を開いた。



「こいつは今、俺の仲間なんです。一緒に連れていきたいんだが…」



トヌスの言葉にボアは不満げだったが、トヌスの頼みには逆らえなかったようだ。


「仕方ないですな。」とつぶやくと二人に馬車に乗るように促した。



「トヌス殿に感謝するのだ、ヘスネビ。」



重い声色でそうつぶやくボアを直視できず、ヘスネビは終始馬車の中で下を向いていた。





「トヌス殿、まずは改めてお詫び申し上げます。」



ボアはトヌスに深々と頭を下げた。

その後ろには副会長のハーブもいて、同じように頭を下げている。


トヌスとヘスネビは屋敷に入るとそのまま応接の間に案内されたのだが、ボアが準備を整えて部屋に入ってくると、後ろにはハーブがおり、副会長だと紹介されて今に至る。



「もういいので頭を上げていただけますか?」



トヌスがそう言うと二人は頭を上げたが、ハーブが顔を真っ赤にしてヘスネビを罵り始めた。



「もういいなどと言うことはありません!こやつのバカな行いのせいで我々スネク商会はもう少しで…あなた様に至っては一歩間違えばこの世には…まったく、恩を仇で返すようなことを!!どの面下げて帰ってきたのだ!!」



ハーブと言う男は、小さな背丈に前が少し禿げ上がった初老の男だが副会長というだけあって威厳を感じさせる佇まいがあった。


と言っても、今は真っ赤な顔をしたタコみたいで威厳など一つも感じられないが。


ヘスネビは立ったままうつむき、その言葉を全身に浴びている。



「まぁそうかもしれませんが、俺のことについては俺自身が許してるんで。それにこいつは今、俺の仲間としてここにいます。俺が無理言って連れてきたんです。」


「…そうですか、わかりました。ハーブ、少し落ち着け。トヌス殿がこう仰っているのだ。我々はそれを受け入れる義務がある。」


「それはそうですが…」



不服そうにヘスネビを睨みつけるハーブ。

しかし、ボアはハーブに仕事に戻るよう指示を出す。


最後まで不満げにヘスネビを見つめながら、ハーブは応接の間から出ていった。



「さて、まずはどちらの話から始めますか?」



ボアはトヌスたちに座るように促すと、自分もソファに腰かける。



「それなら、俺の方からいいですか?」



うなずいたボアを見て、トヌスは静かに口を開いた。



「今日はスネク商会へお願いがあって来ました。」


「お願いですか…して、それは?」



ボアの言葉にトヌスは一呼吸置くと、こう告げた。



「この街を…ジパンを守るために協力してほしい。」

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