24話 ラビリスの大空洞
この世界には神話級のモンスターが存在する。
彼らはこちらから害を与えなければ襲ってくることはないため、基本的には世界にとって無害である。
むしろ、国によっては彼らを神と崇める者すらいるほどだ。
例えば、代表的なのは、ジパン国の『竜種』だろう。
それと同じように、各国にも神話級のモンスターがいて、ここリシア帝国も例外ではない。
リシア帝国の各地には、迷宮や洞窟など未開の土地が多く点在しており、それらのいくつかには神話級のモンスターが住み着いているのである。
これらのモンスターは、プレイヤーたちの間で『ユニークモンスター』と呼ばれている。
そして、彼らを倒すと女神の像が手に入る。
この世界から逃れることができる唯一の方法であるのだが、そのことを知るプレイヤーは多くはない。
話が長くなったが、今イノチたちはとある迷宮を訪れていた。
『ラビリスの大空洞』
リシア帝国中央都市ザインと港湾都市サザナミのちょうど間に位置する大迷宮であり、突如現れるダンジョンとは違って、太鼓の昔から存在すると言われている自然の迷宮である。
「ここが『ラビリスの大空洞』か…しかし、でかい洞窟だなぁ。」
見上げたイノチは、陽の光りに眩しさを感じて手をかざした。
大きな崖の側面に空いた巨大な穴。
まるで、大きな巨人が開けた口のように見えるが、その奥には陽の光は届いていないようだ。
奥に続く暗闇は、闇の国への入り口のように感じる。
イノチが身震いしていると、エレナが意気揚々と口を開いた。
「さっそく入りましょう!」
「ですわね。あまり時間もありませんし…」
「どんな強いやつが出てるか♪楽しみだねぇ♪」
フレデリカもアレックスも、同じように楽しげな顔を浮かべている。
「お前らなぁ…遊びに来たんじゃないんだぞ。」
「わかってるわよ!でも、楽しみじゃない?あれからあたしたちも強くなったわけだし。アレックスは初めての『ユニークモンスター』でしょ?」
「うんうん♪『ユニークモンスター』なんてさ♪そそられるよね♪どんだけ強いんだろうねぇ♪」
イノチは大きくため息をついた。
・
「俺に一つ案があるんですけど…」
レンジと今後の計画について話した際に、イノチはひとつ提案を投げかけた。
レンジたちの話によれば、約1ヶ月後にある国王生誕祭で愚王レオパルの首を獲るために、各地に散った仲間たちが準備を進めているとのこと。
今のところは、なんとか『創血の牙』の目をかいくぐり、準備は順調に進んでいるらしい。
しかし、そこには問題がひとつあった。
生誕祭では王が民衆の前に立つ。
首を狙いやすくなることは確かであるが、その分警備も厳重になる。
帝国軍だけなら何とかなったのだろうが、『創血の牙』も各都市から集まり、生誕祭の警備に当たるため、レンジたちの純粋な戦力だけでは勝ち目が薄いと言うことだ。
無論、イノチはそれを知っていたから対策を考えており、レンジに提案したのである。
「なるほど…迷宮のモンスターを…。しかし、そううまくいくのだろうか。」
「やってみないとわかんないけど、やる価値はあると思います。上手くいけば『創血の牙』の意識をそっちに向けられるはずだし、そうなれば皆さんの作戦の成功率がぐんと上がりますよね?まぁ…成功の確率は7割くらいと高くはないんですけど…」
「…」
レンジは考えるように顎に手を置いた。
「…国の改革に神獣か…そうだな!それくらいぶっ飛んだ作戦じゃないと野望はなし得ないということだね!よし、わかった!君にはその作戦を任せるよ!」
「…え!?いいんですか?」
「いいさ!そもそも、その作戦を頼めるのは君だけだしね。」
あまりの即決ぶりに驚いたが、その言葉を聞いたイノチは小さく笑ってレンジが差し出した手を握った。
「なら、俺らはさっそく準備に取り掛かるりますね。その迷宮はどこにあるのか、詳しい位置を教えてもらえますか?」
「もちろんだ。それは『ラビリスの大空洞』と言って、ここ中央都市ザインから南東に進んだところにある…」
「ここだね。」と小さな地図上で指差すレンジ。
その位置を見て、イノチは顎に手を置いた。
「なるほどな…だいたい3日くらいの位置か…」
「そこは任せてくれ。行きはスタンに送ってもらえば一瞬さ。帰りは…その…あれだけど…」
「ハハハ…大丈夫ですよ!行きだけでも送ってもらえるならそれで十分です!」
苦笑いするレンジに、イノチは笑顔で応える。
「だけど、スタンさんの能力はかなり便利ですね。場所と場所をつなぐ転移魔法なんて…」
「本当だよ!彼女のおかげで、我々は国や創血の牙の目をかいくぐれているようなものさ!」
レンジは大きく笑ったのであった。
・
『ラビリスの大空洞』へ足を踏み入れたイノチたち。
初めは岩盤しかない暗い洞窟が続いていたが、少し進むときれいに整地された大きな通路が目の前に現れた。
通路といっても大空洞の広さそのままなので、上下左右がかなり広い空間であるが、不思議と明るい空間だった。
「こりゃ…すげぇな…」
松明や蝋燭もないのに、鮮明に見えるその視界にイノチは感嘆の声を上げた。
上下左右の全てに石材がぎっしりと詰め込まれていて、ところどころが緑に輝いているのだ。
イノチはぐるりと見渡すと、しゃがみ込んで自分の足下の石に触れる。
全ての石材の寸法は一律に整えられ、それらが寸分の狂いもなく並べられているその様相は、考古学者が見れば興奮して卒倒してしまうかもしれないほど、イノチの目にも魅力的に映っていた。
どうやってこれが造られたのか。
こんなものが元の世界で見つかれば、世紀の大発見になるだろう。
そんなことを考えていると、フレデリカが床についた緑色の物体を指で掬い取った。
「これは光苔ですわね。」
「光苔?名前からして光を発する苔ってところか?」
「まぁそんなところですわ。ただ…これはかなり貴重な植物で、わたくしが今手に取った量だけでも数万ゴールドの価値がある高価な代物。それがここまで群生しているとは…」
「そっ…そんなに高価なものなんだな。でも、それならなんでリシアの人たちは採りに来ないんだろう。」
「それはわたくしにはわかりません。」
自分の疑問をきっぱりとあしらわれ、苦笑いを浮かべたイノチは、フレデリカの横で目がゴールドになっているエレナに気づく。
「はぁ…エレナ!今回の目的は金儲けじゃないんだからな!勝手なことするなよ!」
「わっ…わかってるわよ!!…コホン。それにしてもBOSSの言うとおり、何でみんな採りに来ないのかしらね。金のなる木が目の前にあるっていうのに…」
「まぁ、神獣の住まう場所とされてますからね。恐れもあるのではないですか?」
「見て見て、BOSS♪♪こうするときれいだねぇ♪」
アレックスが横で楽しげに苔を両手で掬い取っている姿を見て、皆ほっこりとしたところでイノチは気を取り直した。
「よし!まずは奥に進んでいこう。引き続き、索敵は俺がするから、みんなよろしくね!」
「「「YES Sir!!!」」」
こうして始まったリシア反乱作戦であるが、このラビリスの大空洞で自分たちの身に起こる危険について、イノチたちはまだ、知る由もない。




