21話 エレナの絶望
「イノチくん、無事で何よりだ。仲間の命も救ってもらって…」
レンジはイノチに手を差し出した。
「いえ…俺はできることをしたまでで。それよりも皆さんが無事でよかった。」
「そんなことはない。君のおかげで、我々は仲間を…目的を失わずに済んだんだ…本当に感謝する。」
イノチが差し出された手を取ると、レンジはグッと両手で握りしめ、目を閉じた。
アカニシたちが逃げた後、スタンと合流して皆が避難した場所へと向かうと、そこにはレンジの姿があった。
皆の治療なども一通り落ち着き、改めてレンジからお礼を言われる。
その周りでは、レジスタンスの仲間たちが喜びの声を上げている。
「皆に改めて君のことを紹介したいんだけど…いいかな?」
「そうですね。今日はそのつもりでいたので…よろしくお願いします。」
イノチの言葉に、レンジは嬉しそうな顔で「最高の紹介になるな。」とつぶやくと、仲間たちへ向き直った。
「みんな、聞いてくれ!!」
喧騒が静まり返り、皆の視線がレンジへと向いていく。
「まずは、みんな!今日はすまなかった。まさか、国の犬に集会の情報が漏れるなんて…どこで漏れたのかわからないが、これについては僕が直接調査をするから、安心してほしい。」
仲間たちは皆、あれやこれやと話し始める。
レンジは、その喧騒を静めるように手を上げた。
「次に、みんなに紹介したい人がいるんだ!」
仲間たちの注目が、再び正面に集まる。
皆、待ちきれないとばかりの表情で前を向いているが、その視線はもちろん、イノチに向いていた。
「みんな、待ちきれないみたいだね!ハハハ、ではイノチくん、前へいいかい?」
うなずいて前に出るイノチを見て、レンジは声を大きくした。
「彼がイノチくん、そして、後ろにいるのは彼の仲間だ!!皆も知っての通り、彼らが今日『創血の牙』の凶刃から我々を救ってくれた英雄たちだ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」
思いもよらないほどの歓声が、目の前から飛び上がった。
声の波が押し寄せて、体中を震わせる。
イノチはその歓声に、恥ずかしそうに手を振って応えた。
「彼らは今日を以って、我々『回天の器』の仲間となる!この国を我々の手に…この国を国民にとって良い国にするために、ともに戦ってくれるんだ!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」
再び大きな歓声が上がった。
たくさんの拍手が鳴り響き、皆がイノチたちを歓迎していることがわかった。
「ハハハ、みんな受け入れてくれたみたいだ。まぁ、そりゃそうだよね。この国の者で、『創血の牙』の連中を知らない者はいない。それを子供扱いできる強い仲間が入ってくれたんだからね。」
「あいつらって、そんなに有名なんですか?」
レンジはうなずきながら、イノチとエレナたちを別の部屋へ移動するように促した。
歓声を背に、イノチたちはレンジについていく。
「あいつらはいつだったか…この国に突然現れた連中でね。いつの間にか、国直属の組織になったんだ。それからは、国王レオパルの悪政に、一役を買っているってわけなんだ。」
(なるほどな…あのじいさんの言ったとおり、プレイヤーが国に入り込んでいるってのは本当だったな。だけど、何のためにそんなことを…)
歩きながら考える様子のイノチを見ながら、レンジは話を続ける。
「奴らはかなり強くてね…この世界の人間とは思えないほどにね。僕らじゃ、なかなか太刀打ちできないんだ。でも、君たちもかなり強いよね。奴らを倒しちゃうんだから。」
「それに関しては…まぁ…なんというか…」
「あぁ〜ごめんごめん。誰にだって言いたくないことはあるよね!気にしないでくれ。君たちが仲間になってくれたことだけで、僕らは十分さ!」
レンジは、部屋のドアを開けながらそう笑った。
真ん中に4つのソファー。
両サイドに2つずつのドアがある。
「今日は遅いし、ここで休んでくれ。部屋は4つあるから、好きな部屋を使ってね。明日、サザナミに送るから。」
「ありがとうございます。でも、サザナミに戻るつもりはありません。」
「え…?そうなのかい?」
その言葉にレンジは驚いたが、もっと驚いていたのはエレナだった。
「ちょっ…ちょっと待ってよ、BOSS!!なんで戻らないの!?」
「だって、考えてもみろよ。俺たち、あいつらに顔見られちゃったじゃん。このまま、サザナミの街に留まっても、アキナイさんたちに迷惑をかけちゃうだろ?」
「確かにそうですわね。」
「うん♪バッチリ見られちゃってるよね♪」
いつの間にかソファーに座り、くつろいでいるフレデリカとアレックス。
「あいつらって…『創血の牙』のこと?」
「…そうです。緊急だったから、顔を隠すの忘すれてたんで。まぁ、そもそもあの街に長居する気はなかったからいいんですけどね。」
「でもでもでも!!あの食事は!?温泉は!?あの旅館はぁぁぁぁ」
「あきらめろよ、エレナ。新しい拠点を探すまでの辛抱だからさ。」
「そうですわ。お風呂くらい我慢なさいな。」
「エレナさんはお風呂LOVEだもんねぇ♪」
涙目で悔しそうな顔を浮かべているエレナの気持ちなどつゆ知らず。フレデリカもアレックスも、用意されたお菓子をつまんでいる。
「あたしのお風呂がぁぁぁぁぁ!!うそでしょぉぉぉぉぉ!!」
しゃがみ込み、泣き叫ぶエレナ。
その怨嗟の言葉は、廊下を通り抜け、建物内に大きくこだましたのであった。
・
「よう、アカニシ。」
「…ロノス団長。」
治療しているアカニシの下へ、ロノスと呼ばれた漆黒の鎧をまとった男がやってきて、そばにあったイスにドカッと座り込む。
アカニシはうつむき、黙ったままだ。
「…してやられたみたいだな。」
「…すみません。」
「相手はプレイヤーじゃなかったんだって?」
「…」
再び口を閉ざすアカニシだが、ロノスは言葉を待つように彼を眺めている。
「…プレイヤーネームは、確かにありませんでした。」
「聞いたよ。しかし、『キャラクター』だったらそれがないことは知ってるな?」
「もちろんです。しかし、あの四人がキャラクターだとしても、奴らを所有するプレイヤーがあそこで出てこないのは考えにくいです。相手にとって、あの状況は完全に…」
「勝ちが確定していたから、か。確かにその状況なら姿を現す方が自然かな。それでも隠れていたとしたら、相当な臆病者だろう。」
悔しそうに言葉に詰まったアカニシの代わりに、ロノスが言葉を綴る。
「まぁいいさ。今回はこちらにも被害はない。しかし、誰も殺さはいとは、相手は余程の甘ちゃんみたいだな。」
「あっ…あの…団長…!」
「…なんだい?」
顔を上げ、ぐしゃぐしゃな表情を見せるアカニシに、ロノスは静かに応える。
「俺…俺は…」
「安心しろよ。お前は"まだ"副団長だ。ハーデもメテルも降格はない。今回は俺が指示してやらせたことだからな。責任は俺にある。」
少しホッとした表情を浮かべるアカニシだが、その目には強い意思が燃えているのがわかる。
「…雪辱を果たしたいか?」
「もちろんです!」
間髪入れずに答えるアカニシを見て、ロノスは天井を見上げた。
そして、少しだけ間をあけて口を開く。
「いいだろう…しかし、一つ条件がある。」
「なんでも聞きます!言ってください!あいつらにかかされた恥をそそげるなら、俺はなんだってやる!!」
「ハハハ、お前のやる気が出てくれて嬉しいよ。」
ロノスは笑う素振りを見せた。
そして、鎧を鳴らしながら立ち上がると、アカニシにこう告げる。
「その『プレイヤー』を見つけたら、必ず俺の前に連れてこい。もちろん、殺さずにな。」




