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44話 権謀術数(けんぼうじゅっすう)


「あ〜楽しかったね♪」


「まっ、こんなもんよね!」



熊と鹿の剥製を元に戻すと、エレナとアレックスは満足気に席についた。



「だいぶ楽しんでたな…」


「最初はちょっと恥ずかしかったけど、やってみると面白かったわ!」


「あの人たち、あんまり強くなかったねぇ♪フフフ♪」


「やっぱり姉御たちだったんですね!」


「ありがと…ございます…」



トヌスの仲間たちも、エレナとアレックスにお礼を伝える。


二人はロドとボウというらしい。

ヘスネビに殴られた方がボウで、助けに入ったのがロドだ。


笑い合っていると店主のガムルが、飲み物を持ってきてくれた。



「ガムルの親父もすまなかった…面倒なことに巻き込んじまったかも…」



ロドが頭を下げるが、ガムルは無言で首を振り、飲み物を配り終えると戻っていった。

おそらくは問題ないと言っていたのだろう。



「やっぱりヘスネビの奴、仕返しに戻ってくるかな?」


「おそらくですけどね…奴はスネク商会の幹部なんです。スネク商会ってのは、この『トウト』の街で幅をきかせている組織でして…この辺の地区はスネク商会のナワバリで、みんな、奴らにみかじめ料を払って商売をやってるんです。」


「あ〜ヤクザみたいなもんか。だからガムルさんにも強気だったんだな。」


「はい…ガムルの親父は、もとスネク商会で傭兵として雇われてたんですが、子供ができたのを機に、足を洗ってこの店を開いたんです。」


「へぇ〜、確かに強そうだもんな。でも、そんな簡単に辞めれるもんなのか?俺のイメージだと、その…小指とかさ…」


「小指ですか?よくわかんないすけど、傭兵時代の親父はかなり強くて、当時の会長だったナコンダのお気に入りだったんです。だから、最初はかなり反対されたそうですが、親父も頑固ですからね。最後には会長が折れ、この店を用意までしてくれたと聞いてます。」


「その会長って、義理堅い人なのね。」


「えぇ、当時のスネク商会は義理と人情で動く、弱い者の味方でしたから…それが今じゃ暴力、略奪、やりたい放題でして…」



うつむくロドに、イノチがたずねる。



「え…国は何やってんの?そんなことも見過ごすほどの腐敗国家なの?あまりそんな感じしないんだけど。」


「いえ、国王はとても良い方です。国軍や他の官吏の方も……」


「なら、なんで国はスネク商会をほったらかしにしてるのかしら?うまく隠しているようには見えないけど…」


「スネク商会の初代会長は、現国王の古くからのご友人でしたから。おそらく国王は、スネク商会がそんなことするはずないと信じ切っているんです。だから、官吏の方たちも簡単には手出しできない…」


「なるほどなぁ…じゃあ、スネク商会を潰したりすると、王の怒りに触れる可能性があるのか。」



イノチは腕を組んでため息をついた。

そして、ふとあることが頭をよぎる。



「そういえばさ、ヘスネビの奴、トヌスのこと知ってるみたいだったけど…。スネク商会の情報網ってそんなにすごいのか?トヌスは『タカハ』の商人を殺した容疑をかけられてるんだよな?」


「いえ、スネク商会は『トウト』でのみ活動してますから。しかし、確かにそうですね。あの時は興奮していて気づかなかったけど…なぜヘスネビは知ってたんでしょうか。罪人の情報は基本的に審判庁しかしらないはず…」


「…ですだ。」



イノチとロド、ボウはそれぞれ考えを巡らせる。

エレナは興味なさ気に欠伸をしていたが、オレンジジュースを飲み終えたアレックスが、満足気な声を上げて口を開いた。



「そんなの簡単だよぉ♪審判庁の人がヘスネビたちに言ったんじゃないの♪?」


「アレックス嬢…それはそうかもなんですけど…」


「…ん、いや…待てよ…そうか!アレックス、ナイスだ!」



イノチはそう言って指を鳴らしてアレックスを指さす。

アレックスはとても嬉しそうにニコニコしている。



「え…?どういうことですか?」


「あぁ、ごめんごめん。たぶんさ、アレックスの言うとおりなんだよ。審判庁の情報をスネク商会はなんらかの方法で知ることができるのさ。だから、ヘスネビはトヌスのことを知っている。」


「確かにそうかもしれませんが…審判庁はジパン国きっての精鋭部隊なんですよ?いくら王の友人が立ち上げた商会といえども、機密事項を簡単に教えることなんて…」



ロドは訝しげな表情を浮かべる。

横ではボウもよくわからなさそうな顔をしている。



「難しく考えないでさ、要はスネク商会もしくはヘスネビが、国の誰かと繋がっているってことだろ?その誰かはある程度の権力を持っていて、おそらくはトヌスに濡れ衣を被せた黒幕なんじゃないか?」


「なるほど…確かにそれはあり得ます。」



ロドはそれを聞くと、深く考えるようにあごに手を置いた。

そして、何かを思いついたように顔を上げる。



「一人だけ…一人だけ考えられる奴がいます。」


「ほんとか?いったい誰なんだ?」



ロドは大きく息を吐くと、イノチたちを見回してその名を告げる。



「この国の財務を担っている男…オオクラという男です。」





「ハァハァ…ちくしょう!なんなんだ、あの変な奴らは!」



路地裏まで逃げてきたヘスネビは、肩で息をしながら悪態をつく。



「今に見てやがれ…仲間を集めて仕返しだぁ。ガムルの奴も一緒にぶっ潰してやる!」



ヘスネビは壁を叩き、怒りを露わにする。

すると、どこからともなく声が聞こえてきた。



「おやおや、ヘスネビ殿…なにやらお困りのようですなぁ」


「…その声は…キンシャ殿か!」



キョロキョロとあたりを見回すヘスネビ。

自分の後ろに気配を感じて、振り返った。


そこにはフードを被った人物が立っていて、口元しか見えないが、小さな笑みを浮かべている。


ヘスネビはキンシャと呼ぶ者に、事情を説明した。



「…そうですか。オオクラ様にお伝えしましょうか?」


「いっ…いや、待ってくれ!それではこの失態が会長に知られてしまう!」


「…なら、私がお手伝いしましょうか?」


「貴殿がか!?それは心強い…!!」



キンシャと呼ばれた者は、さらに口元の笑みを深める。



「…では、少しお話しをしましょう。あの罪人のことも公にされるのは良くないですからね。」


「そうだな!で…では、私の事務所へ参ろう!こっ…こちらへ!」



ヘスネビに案内され、キンシャはその後に続く。


事務所に到着し、ヘスネビは部下に指示を出すと応接の間へとキンシャを案内した。



「相変わらず、趣味の悪い部屋ですね…」



ソファに腰を下ろすキンシャは、部屋の中を一瞥してぽつりと呟いた。



「へへへ…これも全て、オオクラ殿とキンシャ殿のおかげですよ。」



いやらしい笑みを浮かべながら、対面のソファに座るヘスネビに対し、キンシャはどう思っているかはわからないが、小さくため息をついた。



「あなたへの指示は一つだけです。あの罪人の部下たちを捕らえておいてください。」


「奴らをですか?大した力もないかと思いますが…」


「余計なことを吹聴されるとめんどくさいですからね。芽は摘んでおくに越したことはないですよ。後のことは任せてください。」


「確かに…かしこまりました。」



ヘスネビが頭を下げてニヤリと笑うと、タイミングよく彼の部下が紅茶と菓子を持ってきて、テーブルへと並べる。



「リシア帝国のスイーツ工房"アマト"から取り寄せたお菓子です。なかなか手に入らない逸品ですので、オオクラ殿にもどうぞご献上ください。」



そう言って、ヘスネビは笑みを深めるのであった。

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