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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
三章『境界調律迷宮』

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ルカとウルとゴゴ


 病院からの帰り道、ルカは二人一緒にいたウルとゴゴに出会いました。

 渡せなかった見舞いの品の処分に困っていたのですが、ハラペコ幼女たちにかかれば菓子箱の一つや二つは軽い物です。


 ちなみに、ルカとしては先日の一件のことでゴゴに対して幾分の気まずさを覚えているのですが、ゴゴがルグに怪我をさせたのは事実ですし、それについてはお互い様。幸い丸く収まったことですし、もう済んだ話として遺恨を流すのが吉でしょう。


 三人は道沿いの屋台でお茶やジュースを購入し、近くの公園のベンチで一緒にオヤツを頂くことにしました。

 いつの間にやら夏の一番暑い盛りも過ぎ去り、だんだんと秋の足音が聞こえてきました。春と並んで、一年でも特に過ごしやすい頃合。日差しもポカポカと心地良く、美味しいオヤツもあるとなると、自然とお喋りにも興が乗ってくるものです。



『そこでルグさんがグイッと肩を抱き寄せて言ったんですよ。俺を嫌いでもいい――――(中略)――――だから、お前もお前自身を嫌わないでくれ……みたいな感じのことを』


『おお、情熱的なの!』


『いやぁ、見てるこっちまでときめいてしまいそうでしたよ。というか、アレってもう実質口説いてるようなものですよね』


『あのお兄さん、チビっこい割に意外とやるのね。見直したの!』



 それはもう大いに盛り上がっていました。

 もっとも、楽しんでいるのはウルとゴゴだけですが。


 

「や、やめ……やめてぇ……」



 先日の一件はルカからしてみれば人生最大の黒歴史。

 それを目の前で詳細に語られるのは恥辱以外の何物でもありません。

 二人の会話を切ろうと出来る限りの努力は試みたのですが、元々の声の小ささと度胸の無さが災いして話に割り込めず、結局は最後まで止められませんでした。


 いえ、厳密には最後ではありません。

 ここまでは所詮話の枕。

 ここからの話題こそがルカにとっての本番となりました。


 

『で、どうなのかしら?』


「ウルちゃん、ど、どう……って?」



 妙にニヤニヤしながらウルが質問をしてきました。

 最初、ルカは何のことだか分からなかったのですが、 



『ふふふ、あんな風に言われて何も思わないはずありませんよね? というか、ぶっちゃけ惚れましたよね?』


「えぇ……っ、な、なん……!?」



 いきなりの直球が飛んできました。

 


「ち、ちがっ、いや、違わないけど……あ、そうじゃなくて……っ!?」


『うふふ、それで隠してるつもりなのかしら? ラブの匂いがプンプンするのよ』


『聞いておいてなんですけど、誤魔化すの下手すぎますね』


「うぅ……も、もうっ」



 もう少し口が上手く回れば誤魔化すこともできたかもしれませんが、ルカにその手の才覚は全く期待できません。良くも悪くも全く隠し事に向いていない性分なのです。

 隠していたつもりが、雑なヤマ掛けに引っかかって一瞬でバレてしまいました。よっぽど恥ずかしいのか、ルカは真っ赤に染まった顔を俯かせて両手で覆っています。



『ははは、すいません、少し調子に乗りすぎました』


『ごめんなさいね。あ、そうだ! お詫びに我らが恋のお手伝いをするのはどうかしら?』


『グッドアイデアです、姉さん。大変面白そ……いえ、お詫びとして』



 ですが、物事の転機というのはどこに転がっているのか分からないものです。



「お、お手伝い……?」


『ええ、差し出がましいかもしれませんが』


『一人で悩むより我たちが味方したほうが絶対いいと思うのよ?』 



 ルカも自分の性格は重々承知しています。

 知識も人生経験も欠けているルカが一人でウジウジと悩んでいても、良い考えが浮かぶとは到底思えません。それなら、いっそ事情を知っている味方を作って頼るというのも悪い案ではなさそうです。まあ、このお子様二人にしても、恋愛方面に熟達しているとはとても言えませんが。



「えと……じゃあ、お願い、します」


『うん、大船に乗ったつもりで安心するといいの』



 迷った末にルカは二人に協力してもらうことにしました。

 そもそも、例え断ったとしても既に色々知られてしまっているのです。下手に野放しにするよりは、目の届くところにいてもらったほうが少しはマシでしょう。



『うふふ、おままごとで磨いた我のテクが唸るのよ!』


『自信満々ですね、姉さん』


「…………」



 ルカは僅か十秒で直前の決断を後悔しそうになりましたが、言いたいことをグッと堪えました。少なくとも、この二人がルカより弁が立つのは確かです。全人類の九割九分以上はその範囲に入りそうですが。

 もしかしたらルグと仲良くなる話題でも提案してくれる可能性も……まあ、ちょっとくらいはあるかもしれません。



『さあ、この恋愛マスターの我に何でもご相談してみるがいいの』



 そんな風にウルが言うものですし、ルカはダメ元で質問してみることにしました。

 というか、何か聞かないことには解放してもらえなさそうだったので。



「えっと、ルグ君と……な、仲良くなりたいんだけど……どうしたらいいか、分からなくて……」



 どうすれば今以上に仲良くなれるか。

 まあ、結局のところ悩みの本質はそこでしょう。



『ふっ、そんな簡単なことで悩んでいたのね』


『おや、姉さんには何か妙案が?』



 ルカとしては正直そこまで期待はしていなかったのですが、意外と言うべきか、ウルは見るからに自信有り気な様子です。



『どうしたら仲良くなれるか? そんなの決まってるの。告白よ!』


「なるほど、告は……え? こここく……こここここ、こここここ……っ!?」



 まあ、やっぱりと言うべきか、あまりアテになりそうなアイデアではありませんでした。それが出来たら最初から悩んでいません。

 凄まじいまでの奥手ぶりです。

 「告白」という言葉を聞いただけで、ルカは大きく取り乱していました。



「ここここ、ここ……ここここ……っ」


『ほら、飲み物でも飲んで落ち着くの。ニワトリみたいになってるのよ』


『チキンも美味しいですよね。今度、フライドチキンでも食べにいきましょうか』



 ひたすら告白の「こ」の字を連呼するだけの愉快な生き物になっていたルカですが、飲み物を口にしてどうにか落ち着きを取り戻しました。

 大きく深呼吸をして息を整え、それから再度要望を伝えます。



「出来れば……その、もっとゆっくり、少しずつ仲良くなれたら、いいなぁって……あの」


『ふむ……まあ、確かにまだ時期尚早の感はありますね。もっと時間をかけて……例えばルグさんの好みの女性のタイプをそれとなく聞いてみたり、ルカさんの髪型や服装を工夫してみたりとか。そういうのなら我々も協力できると思いますし』


「う、うん。そう……そういうの、いいと、思う」


 

 ゴゴからの意見は、意外にもマトモなものでした。

 今度はルカも動揺せずに、落ち着いて聞き入れています。



『ああ、そうです。迷宮に入る時にお弁当を作ってきて、さりげなく手料理をご馳走するとかはどうですか? 一般論ですが、料理の上手い女性はモテるそうですよ』


「手料理……それ、いいかも」



 これまでにも、迷宮内で狩った獲物をルカが調理して食べてもらったことは何度もあります。ですが、迷宮での調理方法は基本的に肉を焼くか炒めるか、時々水に余裕があれば煮るかするくらいで、あまり凝ったモノは作れません。

 基本的に味よりも栄養優先ですし、調理に使える時間や調味料も限られます。

 肝心の味についても、その時々の獲物の質に左右される部分が多いので、たしかに美味しいは美味しくとも、個性を出しにくいのは否めません。あの手の大雑把な料理だと、極端に失敗しない限りは誰が作っても仕上がりに大差はないでしょう。


 ですが、あらかじめお弁当を作って持ち込めば、ある程度凝ったモノも食べてもらえます。これまでも市販のサンドイッチなどを持っていくことはありましたし、自作の弁当を用意したとしても、それほど不自然ではありません。

 あとは、その弁当の感想を聞いたり、ルグが好きな料理を入れておけば自然な形で話題も広がることでしょう。



『男の人を捕まえるには胃袋を掴むのがいいって我も聞いたことあるの。必殺の“すとまっくくろー”をお見舞いするのよ!』


「それは、何か違う気がするけど……お料理は、良さそう。あ、でも……」



 ただ、問題がないワケでもありません。ルグはまだ入院中ですし、退院してからもしばらくは安静にしていないといけないのです。

 二人の雇用主であるレンリも、しばらく研究に集中したいということで、当分は迷宮に行く予定がありません。すなわち、しばらくの間は自然な形で料理を口にしてもらう口実がないということです。


 お見舞いの手土産として渡すのは、つい先程失敗したばかり。

 退院してしまったら更にチャンスがなくなってしまいます。


 かといって、ルグの住まいに料理を作りに行ったり、反対にルカの家の食事に招いたりするのは更にハードルが上がります。ちょっと前までならすごく頑張れば出来たかもしれませんが、一度異性として意識してしまった今となっては到底不可能。

 

 全く自慢になりませんが、ルカの奥手ぶりは並ではありません。

 そんな勇気があれば、今日だって問題なく手土産を渡せていたでしょう。今更ですが、この問題において一番の敵となるのは、ルカ自身の臆病さなのかもしれません。



『そうですね。料理以外で仲良くなる、何か話題のキッカケになりそうなモノというと……おや?』


『うにゅ? どうかしたの、ゴゴ?』



 途中で言葉を切ったゴゴの視線の先には、南街と東街の間にそびえる学都でも有数の巨大建造物、それは見事な劇場がありました。今三人がいる公園からは少し距離がありますが、建物自体が大きいのでとても目立っています。

 ゴゴが目を留めたのは劇場壁面に掲げられた宣伝の旗。

 どうやら、来週から世界的に有名な歌姫を擁する歌劇団の公演が始まるということで、今のうちから前売り券の販売をしているようです。


 


「あ、あれ……わたしも、観たかったの」



 ここ一年以上はご無沙汰でしたが、観劇はルカの数少ない趣味の一つです。最近は経済的にも幾分余裕が出来たので、件の公演にも家族を誘って行くつもりでした。



『なるほど、それはちょうど良かった』


「え、ちょうど……いい、って?」


『ええ、ああいう催しにルグさんを誘ってみてはどうです? こう、たまたまチケットが余ったとか言って。なんならカモフラージュ役に他の人を誘ってもいいですけど、席が隣同士になるようにすれば実質二人きりみたいなものですしね。観劇デートなんて、いかにもムードが出そうじゃないですか?』


「で、デー……っ!?」


『あ、目を回しちゃったの』



 どうやら、「デート」という言葉はルカにはまだ刺激が強すぎたようです。

 ベンチに座ったまま目を回してしまいました。

 







 ◆◆◆








 ――――だから、その後の会話をルカが聞くことはありませんでした。



『ふぅ、わざわざ偶然を装って会いにきたのはいいですけど……やれやれ、先が思いやられます』


『ねぇねぇ、我はあんな感じで良かったの? ほとんど普通にお喋りしてただけなのよ?』


『ええ、ご協力ありがとうございました、姉さん。我の為にも(・・・・・)、ルカさんにはルグさんと上手くいって貰わないと困りますからね』



 

三章はこれにてお仕舞い。

長々とお付き合い頂きありがとうございました。

来週あたりから番外編としてシモンとライムの迷宮都市編。今回の続きの四章は恐らく年明け以降になると思いますので、もうしばしお待ちくださいませ。


ここまでのご意見・ご感想など頂ければ幸いで御座います。

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