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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
余談『いつか誰かの物語』

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新米女神の神様稼業:ラスボス編


 七姉妹プラス女神の新体制で始まった世界は順調そのもの。

 地球との交流についても多くの人々が前向きに捉えており、世界中が明るい活気に包まれていました。ここまでの過程は非常に困難なものでしたが、数々のトラブルに苦労してきた甲斐があったというものです。


 が、しかし。


 そうした良い影響は、あくまであの世界に限ってのもの。範囲を広げても、せいぜい地球や魔界といった近場の異世界までの範囲内でしょうか。無限・無数の異世界の中には、当然ながら未だ平和とは程遠いトラブルに塗れた世界も多々あるのです。


 それ自体は仕方のないこととはいえ、大抵の厄介事というのはその世界の内側のみで完結するのが普通。『彼女』の地元世界ではたまに見かけたとはいえ、本来ならば違う異世界の厄災が世界間の壁を破って訪れるなど、そうそうあることではないはずなのです。



『くかかっ、弱い、弱すぎるぞ! ほれ、もっと気合を入れて悪を愉しませてみんか!』


『まあまあ、仕方ないさ。それよりせっかく初めての世界に来たんだし、ケンカは程々のところで切り上げてご当地グルメ巡りでもしようじゃあないか』



 まあ、いくらレアケースとはいえ来てしまったものは仕方がありません。

 あの様々な意味で悪夢のようなラストバトルを経て、一切の反省も後悔もしていない悪神ラメンティアおよびレンリの人格を宿した運命剣。彼女達は今日も元気にどこかの世界で、地元の軍隊を一方的に蹂躙しておりました。




 ◆◆◆




 キッカケはほんの些細なことだったのです。

 事前情報なしで適当な異世界に遊びにきたラメンティア達に、現地の治安維持組織と思しき男達が声をかけてきました。例えるなら騎士団や警察のようなものだったのでしょうが、残念ながらこの世界のそういった組織はずいぶんと腐敗が進んでいた様子。


 誰彼構わずに因縁を付けて賄賂を支払えなければ牢屋送り。

 非合法組織と裏で手を組み、捜査情報や押収物を横流しするのも当たり前。

 まあ大体こんな感じの、面白みと倫理観のない連中です。そんな連中が頭にツノを生やした不審な女を見かけたらどうするでしょうか。性格はともかく、ラメンティアの見た目だけは絶世の美女であるわけで、それは当然良からぬことの一つや二つくらい思いつくでしょう。



『まあ普通にボコったが』



 そうして下っ端連中を叩きのめして迷惑料として懐の財布をカツアゲしていたら、今度はそいつらと付き合いのある裏社会っぽい連中だとか、上役っぽい軍人が十数人ほどの部下を引き連れてやってきました。こちらも戦闘とすら言えない一方的な暴力で全員叩きのめしましたが。



『ほら、電子ゲームとかだと雑魚キャラを倒して資金を稼ぐのは定番だからね。さっきの彼らは分類としてはスライムとかゴブリンとかと同類ってことでいいんじゃない?』


『ふむ、そういうものか。簡単に倒せるのはよいが、いちいち懐を漁るのも面倒になってきたな。おい、そこで見ている野次馬ども。手間賃として幾らか分けてやるから、そこで倒れている連中の財布を抜き取って悪に献上するがよい。逆らっても、そこで倒れている奴らの仲間入りをするだけだからな。素直に聞いておくのが利口だぞ』



 その回収を待っている間に、また何度かさっき倒した連中の仲間らしき男達がやってきましたが、ロクに話を聞く前に殴り倒してしまったので詳しいことは分かりません。ただただ財布の山だけが積みあがっていきました。



『ほう、この国は隣国と戦争をしておるのか』



 彼女達が僅かなりとも現地情勢を把握したのは、なんとこの国に来てから丸三日も経ってからのことでした。カツアゲした金銭を惜しげもなく使って豪遊している最中、何やら意を決した様子の近隣住民からそんな訴えを聞かされたのです。


 治安や景気の悪化も元を辿れば戦争のせいだ、と。

 まあ言っているのは政治の内情など知りようもない一般の人々ですし、両国家の上層部にはまた別の思惑があるのかもしれませんが。ともあれ、そんな話を聞かされたラメンティアが黙っているはずもありません。



『おのれっ、悪のいない所でそんな愉しそうなことをするとは許しがたい!』



 異常なまでに人間離れした戦闘力を持っているらしいラメンティアに英雄として立ち上がってもらい、戦争を止めて世の中を平和に導いて欲しい……あたりが、話をした人々の狙いだったようなのですが、もちろん恐怖のラスボスがそんな殊勝なことを考えるはずもなし。


 とはいえ、平和に興味はなくとも戦争については関心を抱いたようです。

 思い立ったが吉日とばかりに、その三分後には両国の軍が対峙する戦場のど真ん中にまでやってきて、周囲の兵士や兵器を手当たり次第に破壊し始めました。



「な、なんだ、あの女は!?」


「わ、分かりませ……ぎゃあっ」



 自らの『奇跡』に行動を縛られるせいで、ラメンティアが人を殺せないのだけが一応の救いでしょうか。とはいえ、殺す以外の制限はないので重傷者は見るみる間に増えていきますし、高価な戦車や銃火器は一つ残らずスクラップに。この世界の技術レベルは二十世紀前半の地球相当はあるようですが、その程度の兵器ではラメンティアに痛みを感じさせることすら難しいでしょう。




『やれやれ、せっかく遊びに来てやったというのに誰も強い奴がおらんな。つまらぬ』


『ははは、それはしょうがないさ。手応えを求めるなら、地元でウル君達と組手でもするほうが良いんじゃない?』



 無闇やたらと戦闘力のインフレが進みすぎた地元でもなければ、マトモな戦闘を成立させることすら困難。途中から争っていたはずの両軍が一時休戦して共闘してまで、戦場に乱入してきた頭のおかしい女を狙い始めましたが、まるで相手にもなっていません。



『これこれ、ヘタクソがやたらめったら乱射するでない。いちいち流れ弾を止めてやるのも面倒なのだぞ』



 殺人禁止の縛りには『見殺し』も含まれるのか、狙いを外れた弾丸がラメンティア以外の誰かに飛んで行くのを見てから止めるほうが、破壊活動そのものよりも忙しかったくらいです。そうなってくると、彼女も次第にこの状況に飽き始めてきました。



「ひぃっ、だ、誰だ! 余を誰だと思っ……ぐぎゃ!?」


『いや、知らんが? なあ、運命剣よ。陣地の奥のほうから適当に攫って来たコイツがどこの誰だかは知らんが、なんか雰囲気が偉そうだし身代金とか取れそうではないか?』


『そうだね。片方の国だけだとバランスが悪いから、後でもう一方の陣営からも同じようにゲストをお招きするとしようか』



 一応はラメンティアのストッパーを自認している運命剣としては、片方の軍団だけに人的・資金的な大打撃を与えると後が悲惨なことになりそうだとでも考えたのでしょう。

 そもそも保有している武器・兵器のほとんどをこの短い時間で喪失しているわけですが、こうして念を入れて両方の軍隊を財政的にも平等に壊滅させておけば、これ以上戦争を続けたくても続けられません。なんという冷静で的確な判断力でしょうか。



『やれやれ、ケンカ相手としてはつまらん連中だったが、この世界のメシの味はそれなりだったからな。とりあえず、稼いだカネを使い切るまでは居てやるとするか。ほれ、平身低頭して感謝するがよいぞ?』


「「は、ははーっ!」」



 戦場から引き返した次の日にはもう両国の王城を単純な暴力で制圧。

 自らは玉座に腰かけて国王達に料理や酒を運ばせ、優雅に寛いでいる有様です。今更ではありますが、もうありとあらゆる意味で戦争どころではありません。国家の存続すらも危ういでしょう。



『ははは、王様達ってばそう硬くならずにリラックスしたまえよ。私達なら、そんな長くかからずに飽きてどこか行くことになると思うから』



 まあ運命剣が言うように、ラメンティアは別に王様になりたいわけではありません。支配など面倒臭いだけ。玉座に座っているのは単にそこが国で一番目立つからであって、それにも遠からず飽きて放り出すはずです 


 そして、実際そのようになりました。

 この世界の人々には結局詳しいことは分からず仕舞いではあったのですが、まあそれでも断片的な情報から頑張って納得しやすいストーリーを組み立てたのでしょう。『人々が戦争に明け暮れていた時、どこからともなく降臨した神がその暴威を以て世を正した』というような具合です。


 そうした神話がこの世界では末永く語り継がれることになったりもしたのですが、そんな事情は当のラメンティアの知ったことではありません。今日も、明日も、その先も、この恐るべきラスボスはどこかの世界で気の向くままに暴れ続けることでしょう。


ひとまずアカデミアの番外編は今回で一区切りということで。

他の子達についてのお話は、また気長にお待ち下さいませ。

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