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幽霊伯爵の婚約譚  作者: みづき
二章 望むもの
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<2>

 一方、ヴェルミオンは食堂でくつろいでいた。

 木製の椅子は硬く、座り心地がいいとは言えぬ代物であるが温かみを感じるものだ。

 それに腰かけていたヴェルミオンは、リゼルが少女たちに連行された方向を見やる。

 他の子どもたちはヴェルミオンに遊べと催促するも、遊んでくれないとわかったのか各々に散って行った。

「フレッディ様。お茶はいかがですか?」

 マギーが琥珀色の紅茶を注いだカップを差し出す。

 礼を言って受け取ったヴェルミオンは、またすぐに先ほどと同じ場所に視線を移した。

 遊ぶと言って食堂を出て行った彼女が戻ってくる気配はなく、聞こえてくるのはかすかな笑い声。軽やかな声が楽しげで、けれど笑っているはずのリゼルの姿は見えない。

 じっと視線を向けているヴェルミオンにマギーが柔らかく微笑む。

「いつご婚約されたのですか?」

「……ついこの間で、正式な結婚が一年後。今は僕の屋敷で一緒に暮らしている」

 あら、とマギーが目を丸くし、そしてすぐに優しい笑みを浮かべた。

「おめでとうございます」

 心からの祝言を述べた女はふいに視線を外し、驚いたように目を見開いた。その視線の先を辿ったヴェルミオンは思わず息を呑む。

 満足そうな顔をした少女たちに手を引かれ、囲まれているのはリゼルであった。

 少し恥ずかしそうに俯く彼女は先ほどと違い、下ろされていた艶やかな鳶色の髪が結われていた。

 ゆるく編まれた髪がリボンで飾られ、残りは腰まで流されている。リボンは淡いピンク色で、縁にレースがついており可愛らしい。

「ね、可愛いでしょ!?」

「お姫様みたいだよねー!!」

 ねー、と顔を見合わせて笑う少女たちに、リゼルが赤くなりながら控えめに笑む。

 そんな彼女をヴェルミオンは凝視し、どこか呆気にとられたような表情で椅子から腰を上げた。リゼルの元まで歩み寄ると、恥ずかしそうな視線で見上げられる。

 とくり、と心臓の奥で小さな音がした。

「……すごく、可愛い」

 率直な感想にリゼルの頬がぼっと音を立てて真っ赤に染まる。体を反転させようとしたリゼルの腕を掴み、ヴェルミオンは言葉を紡ぐ。

「そのドレス、僕が買ったものだよね?」

「……そ、そうです」

 消え入りそうな声で頷くリゼルは耳まで赤い。

「すごく似合ってる」

 ヴェルミオンはふわりと微笑する。

 リゼルが屋敷に来る前に揃えたドレスの中から彼女が選んだのは、綺麗な色合いをしたピンクのドレスであった。

 胸元には白い布で作られた花が飾られ、胸元にはレースが縫い付けられている。柔らかく広がる裾にも惜しげもなくレースがつけられ、同じ白い花が鮮やかに見せた。

 ドレスも髪飾りも――肌までもがピンクに染まった彼女。

 まるで花のようだと、ヴェルミオンは思う。

 壊れぬように、散らさぬようにとヴェルミオンがそっと手を伸ばし、髪に触れようとするとリゼルはさっと身を翻した。

 小さくごめんなさい、との声が聞こえ、リゼルが一目散に談話室へと戻っていく。

 取り残されたヴェルミオンは、不思議そうな少女たちの視線に耐えかねて体をテーブルに向けると、今度はマギーと目が合う。

 微笑ましいものを見るような眼差しに、ヴェルミオンは何も言わず席に着いた。

 そして紅茶を一口飲み、己の手に目を落とす。

 伸ばしかけた手が届くことはなかった。触れる直前で彼女は離れ、この手は空を掻いた。

 触れぬ方がよかったのか。

 それとも、自分は触れたかったのか。

 一輪の花のように感じたリゼルの姿を思い出し、ヴェルミオンは双眸を閉じる。

 〝正解〟はどちらだったのか――目を閉じてもなお、鮮やかな色が眼裏にちらついていた。

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