ジェネジオ2
問われた化粧水の成分を答えれば、お嬢様はわかったようなわかっていないような表情をしていた。
考えていることが顔に出るのは変わってないな。
だがやはり性格というよりも頭の中身が大きく変わった気がする。
まさか頭がよくなる薬でもチェーリオ様が開発されたのだろうか?
いや、それはあまりにも現実離れしすぎているが……。
「失礼ながら申し上げてよろしいでしょうか?」
「え、ええ、何かしら?」
「お噂では伺っておりましたが、お嬢様はずいぶんお変わりになられましたね?」
「へい?」
「ご婦人方がかなりお噂をされておりましたので、何度も耳にしておりましたが、本日実際にお会いしてお噂が真実なのだと悟りました。いったい何があったのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
お咎めを覚悟で訊ねても、いつものように癇癪を起す気配はない。
それどころかシアラが俺の質問に驚いているのはどういうことだ?
俺が質問したことというよりも、意外な質問内容だとでも言いたげなんだが、これだけ変わったお嬢様のことを不思議に思わないわけないだろ?
「ジェネジオ! 失礼よ!」
「いいのよ、シアラ。実は今日、先生にも言われたばかりなの。人が変わったようだって」
シアラが怒るのはもっともだ。
自分の主人に対して俺が身分も顧みず不躾な質問をしたのだから。
わからないのはこの寛大なお嬢様の言葉だ。
なんてどうでもいいことを考えているうちに、お嬢様はまた意外な言葉を口にした。
要するに取引を持ちかけてきたのだ。
化粧水の開発者が誰かなんて今まで訊かれたことがなかっただけで、特に隠しているわけではない。
だから別に知られてもいいのだが、こちらとしてはお嬢様の変わり様の理由を知りたい。
「知りたいことを交換するだけですわ」
今、笑ったか?
あの傲慢お嬢様が? 俺に?
俺はひょっとして夢でも見ているんじゃないだろうか。
「ちょっと、ジェネジオ! 先ほどから失礼よ! ファラーラ様のお顔があまりに可愛らしいからって、そんなに見つめるなんて信じられない! ファラーラ様は常にご身分にふさわしく凛とされておりました! だから、ファラーラ様は何もお変わりになってなどおりません! 王太子殿下とご婚約され、そのお立場にふさわしくなろうと努力なされているのです! 今まではほんの少し我が儘が過ぎるところもございましたが、それもこんなにも小さくお可愛らしいのですもの。仕方ありませんわ!」
いや、夢を見ているのはシアラじゃないか?
シアラはいったいお嬢様の何が見えているんだ。大丈夫か?
「あの、私が変わった――変わろうと努力している理由はシアラが言ってくれたんだから、開発者が誰なのか教えてちょうだい」
「へ? あ、ああ。そうでした。開発者のことでしたね……」
俺としたことがまたまた商売中に集中力を欠くなんて。
そこからは自分の失態を取り戻そうと全神経を集中した。――というより、集中せざるを得なかった。
まさかこのお嬢様が俺に本気で取引を持ちかけてくるなんて思いもしなかったからな。
しかもその内容が面白い。
化粧水だけでは満足できず、さらに〝乳液〟なるものやそのほか、色々な案を出してきたんだから。
久しぶりに開発者としてわくわくしてきてしまう。
その気持ちを表には出さずお嬢様を見ると、明らかに何かよからぬことを考えているようだった。
「お嬢様、とても悪い笑顔を浮かべていらっしゃいますよ」
「え……」
「ジェネジオ! あなたの目は節穴なの!? ファラーラ様はこんなに愛らしいのに、馬鹿なことを言わないで!」
思わず本音が漏れてしまったが、お嬢様はやはり怒ることなくショックを受けたようだった。
それよりもシアラ、俺はお前が心配だよ。
だがまあ、お嬢様は今までの意地の悪い表情とは違うな。
俺の目が節穴だとは思わないが、確かに今は元々の人形みたいな愛らしい容貌が損なわれていない。
これが一過性の病気か何かに罹っているのではないのなら、これから社交界はかなり面白いことになりそうだ。
それとも誰かが裏で糸を引いているか……。
要観察だな。
ジェネジオ視点は朝晩更新します。
また今日はコミックPASH!にて武浦すぐる先生の『悪役令嬢、時々本気、のち聖女。』の最新話更新日です!
無料ですので、ぜひどうぞ~(*´∀`*)ノ




