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治療法1

 

「ほら、そこのバカップル。いい加減にしろよ」

「ブルーノ、聞いてくれ! ファラーラは天才なんだ!」

「それはすごいな」

「この温室を――いや、正確には冷室を応用すれば、寒冷地の薬草なども栽培できることを思いついたんだぞ!」

「ああ、そうだな」



 この二人の温度差。

 フェスタ先生とは相容れないと思っていた私だけれど、今心が通じ合った気がする。

 この馬鹿、どうにかしよう、と。


 おそらくフェスタ先生的にはこのイチゴ栽培は試作というか試運転のようなもので、お兄様に協力したんだと思うわ。

 私の記憶にあるチェーリオお兄様は素晴らしく優秀な方で、病気の治療だけでなくたくさんお薬を開発されていた方だったんだけれど。

 あまりお会いすることはできなくても、お会いするといつも優しく微笑んで、甘やかしてくれて……我が儘を聞いてくれていたわ。


 素晴らしい開発の動機が全て私のためだったとか、そんなことないわよね。

 いえいえいえ、まさかね。

 さすがに馬鹿兄でもそれはないわ、とフェスタ先生を見ると、私の考えを見透かしたように残念そうな表情で首を横に振った。

 まるで、蝶子が見ていたドラマの医師が『残念ですが、手の施しようがありません……』と言っていたみたい。

 もう疲れたわ。



「あの、殿下は――エヴィ殿下はどちらに?」

「ここにいるよ」

「殿下!」



 今度はちゃんと覚えていたんですよ。

 ただ視界が高すぎて殿下の存在に気付かなかっただけ。

 すごく失礼なことをしてしまっているのに、お兄様は気にした様子もないなんて。



「お兄様、下ろしてください。私は確かにお兄様に会いにきましたが、殿下と一緒にこちらにはお邪魔したのですから」

「そんな……」

「ファラーラ」



 これは夜会でもない昼間の訪問だけれど、やっぱりエスコートしてくれた殿下を無視してしまうのはよくないわ。

 お兄様の悲しそうなお顔も殿下の嬉しそうなお顔も気にしてはダメ。

 これはマナーの問題なんだから。

 しぶしぶ下ろしてくださったお兄様から離れて、殿下の差し出してくださった手を取る。



「それとお兄様、いい加減に質問に答えてくださらないのなら、私はもう帰ります」

「え? チェーリオ、まだ答えてなかったの? それはダメだろ」

「いや――」

「ファラーラ、王宮の侍医の許へ行こう。これからでもかまわないから」

「そ――」

「ちょっと待ったー! 先ほどの症状ならおそらく頭内部の病だろう。対策としては予防が一番だ。また発症したときに腕のいい治癒師が傍にいれば、どうにかなるかもしれないが、治癒に時間がかかれば後遺症が残ることもある。前兆としては呂律が回らなくなったり、手足など体の一部のしびれ、視界不良などだ。そして肝心の予防はどの病にも共通することだが、規則正しい生活と食生活、適度な運動にストレスのない生活を送ることだよ」

「えっ、と……」



 ちょっと何を言っているかわからないです。

 早く言ってとは思っていたけれど、早すぎます。



「要するに、予防法としては規則正しい生活に食事、適度な運動ということだよ。ファラーラが一番知りたかったことはそれだろう?」

「は、はい。そうなんです」

「また前兆としては手足など体のしびれ、呂律が回らなくなったりするらしい。治療法としては一刻も早く処置することが必要で、それには医師ではなく治癒師であることが必須のようだよ」

「なるほど! わかりました、殿下。ありがとうございます」



 すごいわ。

 今の早口の説明をちゃんと聞き取れたなんて。

 さすが殿下ね。



「いやいや、今のは私の言葉をなぞっただけだぞ? ファラーラ、答えたのは私だからな」

「ああ、はい。ありがとうございます、お兄様」

「ファラーラ? 何だかなおざりじゃないか?」

「そうですか? でも知りたいことはわかったので、もうそろそろお暇しようと思います。エヴィ殿下、よろしいでしょうか?」

「もちろんだよ」

「ファラーラ……」



 大好きだったお兄様だけれど、今はちょっと面倒くさいわ。

 イチゴはまた家の者に採取に来させるとして。

 私とチェーリオお兄様は傍にいないほうがお互いのためだと思うの。

 きっと傍にいると私は傲慢に、お兄様は馬鹿になってしまうわ。



「……お兄様、お願いがあります」

「うん、何だい?」

「この冷室で季節限定でしか手に入れることのできない薬草を栽培し、その薬効を研究してくださいませんか? 今、知られている以外の効能もあるかもしれませんもの。そしてそれを量産できるようになれば、きっとたくさんの人が助かりますよね?」



 そしてこの冷室をジェネジオに全国展開させてまたまた不労所得を得るのよ。

 この場合、フェスタ先生とも要相談ね。

 ふふふ。



「確かにファラーラの言うとおりだな。多くの人々を助けたいとは、なんて優しいんだ! やはり私の妹は天使だよ!」



 将来設計のためなら天使にでも悪魔にでもなるわ。

 だからお兄様、私のためにしっかり働いてくださいね。




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― 新着の感想 ―
[一言] 6時更新ありがとうございます。 肝心な、「ストレス」を聞きそびれたぞ…。 原因は病気だったか。毒じゃないようでなにより 結局帰るんか!殿下の授業は? ブルーノのもつ、一番質素な別荘ですか…
2020/03/04 17:08 退会済み
管理
[一言] まあ、適度な距離が必要と。
[良い点] この小説ほんと面白いわ
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