病気3
予約投稿に失敗して昨夜も更新してます。
話数に注意してください(*´∀`*)ノ
「ほら、ファラーラ! 素晴らしいだろう?」
「……っ、お兄様! なんて素敵な光景でしょう!」
「そうだろう? お前が喜ぶだろうと思って、一生懸命研究したんだ。味も保証するぞ」
「これ……いただいてもよろしいのでしょうか? フェスタ先生は……」
「ブルーノは気にしないよ。もともとお前のためだと言ってここを借りたんだし、さあ」
そう言ってお兄様は私をようやく下ろしてくださった。
いったいどこに向かうのかと思ったら、フェスタ先生のお屋敷の廊下をずんずん進んで、たどり着いたのは建物に繋がった温室。
そこにはイチゴ菜園が広がっていて、私の心は弾んだ。
だって、もうイチゴの時期は過ぎているのよ?
寒い時期に温室栽培されたイチゴはよく食べるけれど、これから暑い季節になろうというのにイチゴが食べられるなんて。
「我が家の菜園のように直接地面に植えているわけではないんですね?」
「ああ、土がつかなくていいだろう? ほら、洗わなくてもこのまま食べられるぞ」
「まあ!」
すごいわ。
お行儀が悪い気もするけれど、イチゴだしいいわよね。
お兄様から手渡されたイチゴを頬張ると、じゅわっと甘い汁が出てきてお口の中に幸せが広がる。
このつぶつぶな感触も大好きなのよね。
「すごいです、お兄様! まさか、お兄様がこれを栽培されたのですか?」
「実際、手入れをしたのは私ではないが、この時期に食べられるように考え、システムを構築したのは私だよ」
「そうなんですね! ……って、お兄様はご病気の研究や治療法を探されて旅に出られたのではありませんでしたか?」
目の前に広がるイチゴが嬉しくて興奮してしまったけれど、お兄様は何をしていたんですか。
お母様に伺った話と違うんですけど。
「いや、もちろん旅に出ていたよ。それで様々な病気を知ることもできたし、私の知らなかった治療法などを学ぶこともできた。とても有意義な旅だったよ。だがな……」
「はい」
私のツッコミにお兄様は慌てて説明してくださった。
ちゃんと治癒師兼医師としての旅はされていたのね。
エルダのお父様ともお会いしたはずだものね。
どんな旅だったのか訊きたかったけれど、お兄様の声が急に深刻なものになったので心配になる。
何かあったのかしら。
まさかお兄様までご病気になってしまって、私たちに心配をかけないためにこのお屋敷で療養を?
「ファラーラ。お前は以前、イチゴの旬の時期が過ぎてしまったというのに、食べたいと泣いていただろう?」
「へ? あ、はい」
そんなこともありましたね。
ですが、あれは子供の我が儘ですよ。
イチゴジャムや氷魔法で凍らせたイチゴのシャーベットでは納得しなくて、ずいぶん……ええ、ひどい癇癪を起したのよ。
思い出したくない記憶だわ。
まさかとは思うけれど、それを今この場で口にするということは……?
「旅の途中でまるで天啓を得たかのように閃いたんだ。温室を温めるのではなく、冷やすことによってイチゴの旬の時期をずらせるのではないかと。それからはさらに改良できる箇所はないか考え、旅先からブルーノに手紙を書いて協力してもらっていたんだ。あいつは土魔法が得意だからな。そもそも何でも得意だが。とにかく、ブルーノからの手紙で、もうすぐイチゴが熟しそうだと知らされて、帰ってきたんだ」
お兄様、その逆転の発想は素晴らしいですし、この技術はすごいことだと思います。
ですがお兄様は治癒師兼医師で、人々を救うための治療法などを研究するために旅をされていたわけで。
「約束した『すごい病気の発見』も『すごいお薬の開発』もできなかったが、これならファラーラに喜んでもらえると思ってな。近々屋敷に帰ろうと思っていたから、今日はファラーラから会いにきてくれて本当に嬉しいよ」
「お兄様……」
どうしよう。
お兄様が馬鹿すぎて泣きそう。
チェーリオお兄様は兄馬鹿ではなくて、大がつく馬鹿兄なのね。
そして殿下に言われた嫌み――約束を果たせていないってところを根に持っていたのかも。
それで先ほどの暴挙でしたか。そうですか。
我が家系の人は根に持つタイプのようだわ。
もちろんイチゴがいつでも生で食べられるのは嬉しいけれど。
こうして甘やかされた私は五年後には驚くほど我が儘で傲慢で意地悪に育つのよ。
お兄様たちには気をつけないと。
だけどこれはひょっとして……。
「――お兄様、これは素晴らしい技術ですわ」
「そうだろう? お前が喜ぶと思って――」
「だって、この技術があれば鮮度が大切な一定の時期しか手に入れられない薬草だって栽培できるってことですよね?」
「そ、そうか! そういう応用もできるな! もちろん簡単にはいかないだろうが……。さすがファラーラだ! 素晴らしい目の付け所だよ!」
まずはお兄様が気付いてください。
それから私を抱き上げてくるくる回るのはやめてください。
ちょっと気分が……うぷ。
それで結局、お父様のご病気の予防法はどうなったの?




