病気2
「えっと、私の語学の成績はどうでもよくて、今は病気のことです。お兄様はご存じなのですか?」
「あ、ああ。まあ、心当たりがないわけではないよ。ただ色々と腑に落ちなくて……。ファラーラはいったいいつどこで――」
「いつ、どこで、私が、何を見たかはどうでもいいんです。大事なことは病気について。ご存じならさっさと白状してください。治療法はあるんですか? 予防法は? 前兆は?」
お互い立ったままだったから、誤魔化しついでに勢いよくお兄様に詰め寄る。
するとお兄様は後退して壁に背をつけたわ。
もう逃がさないんだから。
私はお兄様の腰のあたりの壁にドンッと片手をついて睨み上げた。
これでは別の意味のオオカミみたいだわ。ガオー!
って、そうではなくて早く答えてください。
お兄様、なぜ目を逸らすのですか。
まさかひょっとして……。
「お兄様、私が楽しみにしていたイチゴ菜園を怪しい蔦の侵食でダメにしたことはもう怒っていません。今年はあの倍の広さのイチゴ菜園を作らせ、完全防壁魔法を施してイチゴを守りましたから私は満足しております。失敗は成功のもと。ですから、素直に白状してください」
「そのことは母さんから聞いたよ。防壁魔法に気付かなかった庭師が怪我をしたって」
「あれは完全な事故です。アルバーノお兄様がすぐに治癒魔法を施してくださり、庭師は元気に今はモモを育てております。そもそもベルトロお兄様が防壁魔法を施されるときに庭師を免除者にしていなかったのが原因です。免除者といえば、私のことも対象にしてくださらなかったので、イチゴ菜園に入れなかったんですよ。酷いですよね?」
「それなら、今年は菜園でイチゴを食べてしまう可愛い妖精さんは現れなかったわけだ。そして無事にみんなが食べることができたんだな」
「そんな、ひどっ――!?」
チェーリオお兄様はそう言って私を急に抱き上げた。
びっくりして思わずお兄様に抱きつく。
「なあ、そこのバカップル。いちゃつくのはやめて本題に入ったほうがよくないか?」
「もちろんです。お兄様、イチゴで話を逸らしても無駄ですからね? ご存じならちゃんと教えてください」
「話を逸らしたのはファッジン君だよな」
「……先生は先ほどからうるさいです。邪魔をなさるなら出ていってください」
「ここは私の屋敷なんだがな」
さっきからフェスタ先生の横やりがうるさいんですけど。
危うくイチゴが私の大好物だとばれるところだったわ。
さて、うっかり話が逸れてしまったけれど、お父様の病気についてよ。
お兄様がご存じならお父様を助けられるはず。
今度は上からお兄様をじっと見下ろすと、さらに下から殿下の声が聞こえてきた。
「病気のことならやはり王宮の侍医が一番ではないかな。チェーリオ殿も師事していたくらいなんだから。僕が紹介するよ」
「殿下……」
「エヴィだよ」
「あ、はい。エヴィ殿下……」
またまた失敗したわ。
うっかりてっきり殿下の存在を忘れていたなんて。
そもそもお兄様が大きすぎるのよ。
お兄様の腕をぽんぽんと叩いて下ろしてくれるように合図を送る。
あら? あらら?
ぽんぽん叩いても叩いても下ろしてくれない。
「お兄様? おろ――」
「そうだ! ファラーラに見せたいものがあるんだ! それでは殿下、少々失礼いたします!」
「え? お兄っ……!」
「ファラーラ!」
下ろしてと頼もうとしたのに、お兄様は私を抱えたままずんずん歩き出した。
意味がわからなくて抗議しようとしたけれど、ダメ。
揺れが酷くて舌を噛んでしまいそうだわ。
憧れの
お姫様抱っこ
実は危険
って、一句詠んでいる場合じゃなくて。
殿下が私を呼ぶ声が聞こえたけれど、答えることもできないわ。
申し訳ございません、殿下。
フェスタ先生と男同士の会話を楽しんでいてください。
それで、チェーリオお兄様の見せたいものって何かしら。
くだらないことだったら絶対に許さないんだから。
あと、早く病気の予防法、対処法そのほかを教えてくれないと。
お兄様のお父様のことでもあるんですからね!




