訪問3
お母様や執事に見送られ、公爵家の家紋が入っていない馬車に乗って出発。
家紋が入っていなくても護衛騎士がいっぱいだから、外から見れば大体どこの家の馬車かはわかってしまうのよね。
このままフェスタ先生の別邸にお邪魔していいのかしら。
先生はどうでもいいけれど、お兄様は歓迎してくださるのかしら……。
「ファラーラっ、ど、どうかしたの? 馬車に酔った? チェーリオ殿にお会いするのを楽しみにしていたんだよね?」
「私……お兄様に嫌われているかもしれません。それなのに、こうして会いに行くなんてすごく迷惑ですよね……」
急に不安になってしまった私を殿下が気遣ってくださる。
だけど考えれば考えるほど、落ち込んでしまうわ。
自分で言うのも変だけれど、今の私は以前よりかなりいい子になったと思うのよ。
シアラもお母様も戸惑いつつも受け入れてくれていたから何も考えていなかったし、知り合いに対してはどうでもよかったから気にしていなかったけれど、お兄様たちはどう思っていらっしゃるの?
お父様はいつでも私のことを可愛がってくださっているわ。
だけどお兄様たちとは……ほとんどお会いしていないわ!
まさか、避けられている? 可愛がってくださっていると思っていたのは傲慢な私の勘違い?
「ああ、それなら心配はいらないんじゃないかな。チェーリオ殿は間違いなく歓迎してくれるよ」
「……そう思われます?」
「うん。以前お会いしたときのチェーリオ殿は何があったのか、「ファラーラに嫌われた……」とすごく落ち込んでいらしたし、他のお二人にしても「私の妹は世界一!」と自慢していらしたくらいだったからね。あれほど優秀な方々がどうして妹君のことになると……えっと……変わるのかなって不思議に思っていたから、よく覚えているよ」
「……それなら安心しました。ありがとうございます」
殿下、かなり言葉に詰まりましたよね?
うっかり何を言いそうになったのか、よくわかりますよ。
私、最近は名探偵並みに勘もよくなりましたから。
事件だって解決してみせる自信があるわ。
だけど名探偵ファラーラ・ファッジンの出番はないようね。
それよりも、婚約者はつらいよ。の時間だわ。
先ほどの殿下の言葉からもわかるように、私は嫌われていたのよ。
そんな私と婚約しないといけなかった殿下はさぞおつらかったでしょう。
わかるわ、わかる。そのお気持ち。
とはいえ、今はつらそうには見えないのよね。
まさかサラ・トルヴィーニへの嫌がらせの演技で本当に殿下の気になる存在になってしまったんじゃ……。
それ、間違いですから!
罠にはまっちゃダメです、殿下。
一部の女性は悲しくなくても泣けるし、好きでなくても好きなふりができるんです。
しかも普段から素直な女の子よりも、いつも傲慢な私が素直に気持ちを打ち明けたんだからぐっとくると思うわ。
だけどあれ、演技でしたから!
ジェネジオにダメ出しされた演技力でさえ信じてしまう殿下が心配になってくるわ。
素直すぎるのも問題ね。
やっぱりジェネジオやフェスタ先生のように――は無理でも、少しくらい疑うことを覚えてください。
「……今日はリベリオ様は何をされているのでしょうか?」
「リベリオ? どうして?」
「い、いえ。その……また突然現れたりなんてことは……」
「ああ、そういうことか。うん、それなら大丈夫だよ」
おかしいわね。
ちょっとだけ殿下の声の調子が変わったような気がしたけれど……まさか、リベリオ様に嫉妬されたってことはないわよね。
残念な方向に成長してしまっているリベリオ様だけれど、殿下は信頼なさっているのよね。
それよりもどうしてそこまではっきり大丈夫だと言い切れるのかのほうが気になるわ。
突然の出現はなくて安心だけれど、リベリオ様は大丈夫なのかしら。
まあ、どうでもいいわ。
リベリオ様が出現されないってことは、サラ・トルヴィーニも出現しないわよね?
もし単独でも出現したなら、その心意気は尊敬に値するけれど。
それにしても、以前は婚約してから一度も一緒に出かけたことなどなかったのに不思議。
何も変わっていない、変わったのは私の態度だけなのに。
私は自分を破滅から守りたい。
それだけの気持ちで、自分しか見ていなかった目を周囲に向けるようにしたわ。
たったそれだけで、たくさんのものが見えるようになったものね。
友達ができたわ。
不労所得の計画も順調だわ。
あとは殿下との友情を築いて婚約を円満解消するのよ。




