相談2
本当に自分以外に今まで興味がなかったことに反省。
お兄様が有名な治癒師なことは知っていたけれど(これも私の自慢の一つ)、病気の治療について研究していたことは知らなかったわ。
そういえば、悪夢の中でお父様が亡くなったときに一番取り乱していたのはチェーリオお兄様だった気がする。
あのときは遠くにいらっしゃって、戻られるのが遅くなったのよね。
もちろんみんな悲しんでいたけれど……あ、ダメ。
ちょっと思い出したくない記憶だわ。
とにかく、病名を知ることと予防策を講じることも大切だけれど、何よりお父様が無理をしないように気をつけないといけないわね。
体調が悪いときにはちゃんと申告してくれるようにお願いして、休んでもらわないと。
あとはあまり気苦労をかけないようにしないとダメね。……ということは、やっぱり婚約をなかったことにしたいなんて言えないわよねえ。
「――ファラ。……ねえ、ファラ?」
「どうしたの、エルダ。今は授業中よ?」
「その通りだ、ファラーラ・ファッジン。だからできれば私の話に集中してほしいんだがな」
あら、失礼。
そんなにぼんやりしていましたか。
フェスタ先生は手に持った杖をパシンパシンともう片方の手のひらに軽く打ちつけている。
いくら大切な杖を使った魔法技の授業中にぼんやりしていたからって体罰はダメですよ。
悪かったことは認めますけど。
だけど先生は私をじっと見てから大きくため息を吐いた。
「ファラーラ・ファッジン、放課後職員室に来なさい」
「はい、喜んで!」
ちょうど先生にはお兄様のことでお話があったのよね。
だから素直に返事をしたのに、フェスタ先生は盛大に顔をしかめた。
何なの?
この私を呼びつけるなんて、本当ならクビになってもおかしくないんだから。
だけど、チェーリオお兄様と学生時代に仲が良かったらしい先生なら、お兄様のことを何か知っているかもしれないから大目に見てあげるのよ。
お兄様にご相談したかったのに、お母様でさえ居場所がわからないとおっしゃるんだもの。
まさか旅に出ていらして所在不明だとは思わなかったわ。
そういえば最近お見かけしないと思ったのよね。
……最近というか、ここ一年ほどお見かけしていないわ。
誕生日のお祝いカードとプレゼントを贈ってはくれたけれど。
本当に本当に自分以外に興味がなかったのよね、私。
もしあの悪夢でもっと周囲に注意を向けていれば、せめてお父様がなぜ亡くなったのかを知ろうとしていれば、今こんなに苦労することなく対策が取れたのよ。
もちろん私が原因の一つだったのだから、できることはしないとね。
というわけで、これからは清く正しく美しく!
しているようにお父様を誤魔化せる方法を考えたわ。
まずは清く。
お父様やお兄様たち、ご先祖様のおかげである公爵家の財産を散財するようなことはせず、私自身の力で不労所得を得られるよう頑張るわ。
次に正しく。
以前のように取り巻きを使ってイジメをしたりせず、嫌いな人とは正々堂々と勝負するわ。
最後に美しく。
これは鏡の前で笑顔の練習が必要ね。
ここぞというときの笑顔になぜかみんな怯えるのよね。
可愛く笑えるようにならないと。
「――ファラーラ様、本当に今日の放課後、フェスタ先生の許へいらっしゃるのですか?」
「ええ、授業中にぼうっとしてしまったのは事実ですもの。きちんとお叱りを受けなければ」
「そんな! フェスタ先生はファラーラ様に少し厳しすぎる気がします。ほんの少しばかり呼びかけにお答えにならなかったからって」
「そうですわ」
フェスタ先生の授業が終わって休み時間、ミーラ様とレジーナ様が心配そうに私の許に来てくれた。
これで呼び出しを受けるのも三回目だものね。
「……ちなみに、フェスタ先生はどれくらい私のことを呼んでいたのかしら?」
「そうですねえ……五回、六回くらいでしょうか?」
「ええ、それくらいでしたわ」
「そうでしたの。私、考え事をすると夢中になる癖があるから、気をつけないといけないわね……」
うん。本当に気をつけましょう。
大切な魔法技の、しかも杖を使った授業中にぼうっとしていては危険だものね。
「ねえ、ファラ。何か心配事でもあるの? 私にできることなんてほとんどないけれど、話を聞くくらいはできるよ?」
「わ、私もお話を伺うことはできますわ!」
「ええ、もちろん私だって!」
隣の席からエルダが優しい言葉をかけてくれた。
すると、ミーラ様もレジーナ様も同調してくれる。
エルダはもちろんのこと、二人ともご機嫌取りでなく、本気で私を気遣ってくれているみたい。
どうしましょう。
こういうときは笑って「ありがとう」って言うべきなのはわかっているのに、何だか涙が出そうだわ。




