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商談

 

 せっかく可愛い生徒が相談しようと職員室に行ったのに、テスト作成中だからと追い返されてしまったわ。

 そんなことがあっていいの?

 次の日の休み時間や放課後はエルダたちと杖を使っての魔法技の復習をしたから私に時間がなくて断念。

 そうして私の悩みは解決しないままお休みに突入。



「――というわけで、うちわよ」

「どういうわけかも〝うちわ〟もわかりません、お嬢様」

「仕方ないわね。それでは一から私が説明してあげるわ」



 博識と有名のジェネジオ・テノンがうちわを知らないなんて、と絵に描いて説明してあげる。

 遠い国の扇のようなもので、風を起こして暑さをしのぐということも付け加えておくわ。

 すると、似たようなものは見たことがあるらしく、そこから話は早かったのよね。

 ジェネジオは学園を卒業してから何年も商隊と一緒に外国を回ったとか。

 ちょっと羨ましいわ。


 ただ話が早かったのは〝うちわ〟についてだけ。

 なぜそれに装飾を施すのか、そんなものを憧れの人物に振って見せて何になるのかを理解してくれない。



「だから、憧れの人にうちわを振ることによって、自分の存在をアピールしつつ、応援していると伝えたいの。要するに自己満足よ」

「それは相手にとって迷惑ではないですか? 勝手に応援されて、気持ちを押し付けられるようなものでしょう?」

「あら、それは人それぞれよ。だけど少なくとも生徒会の人たちは積極的に協力してくれることはあっても拒否することはないわ」

「なぜそう言い切れるのです?」

「生徒会だからよ」



 きっぱり断言してもジェネジオは意味がわからないって顔で眉を寄せた。

 こんなに簡単なことなのに、どうしてわからないのかしら。



「ジェネジオ、生徒会のメンバーは先代からの指名制だって知っているかしら? もちろん拒否権はあるけれど、逆に入りたくても指名されなければ入れないのよ」

「はい、それは存じております」

「生徒会のメンバーになれるということは、色々な意味で優れた人物だと認められたということ。そして卒業までの間、多くの人に注目され、憧れを抱かれる存在になるのよ。その立場を引き受けたということは、そういうことよ」

「どういうことですか?」

「簡単に言えば、自分大好きってこと。そんな人たちにとって、女生徒から騒がれて応援されることは嬉しいものよ。それに慈善事業にもなるとなれば、引き受けないわけがないわ。もちろん学園内に限るなどのルールは必要だけれどね」



 ちょっと偉そうに説明したけれど、本当はフェスタ先生に聞いたことと、ここ最近生徒会を観察した私の考察。

 お兄様は断ったそうだけど、以前の私が男子だったなら絶対引き受けたわね。

 私が王太子殿下との婚約を望んだのも似たようなものだもの。

 みんなが私を特別扱いしてくれるのよ。



「もし注目されるのが嫌なら生徒会には入らないでしょうし、今のように総回診――じゃなくて、取り巻きの女の子たちを連れていないでしょう? 注意しているはずよ」

「ああ、あれな……。廊下ですれ違うときとか邪魔だったよなあ……」



 ジェネジオは昔を懐かしむというより嫌な思い出のように呟いた。

 わかるわ。確かにちょっと邪魔よね。

 まあ、私を見ればみんなすぐに避けてくれるからそれほど気にはならないけれどね。

 ふふん。



「ですが、女子生徒のほうがそんなものを持って恥ずかしくはないんですかね?」



 思い出から戻ってきたジェネジオは、まだ半信半疑で質問してくる。

 今の時点で金魚のフンのようにぞろぞろついて歩いている彼女たちに、〝公式〟を与えて喜ばないわけがないじゃない。

 そう答えようとした私よりも先に、シアラがすごい勢いで答えた。



「いいえ! 欲しいに決まっているわ! むしろ私はファラーラ様のものが今欲しいもの! でも学園内に限られるなら諦めるしかないけれど、当時それがあれば私は……」

「……誰のがほしかったんだ?」

「それは秘密よ。一般生徒の私がお近づきになっていいような方ではなかったもの。だけどもし〝うちわ〟があれば……。ファラーラ様、一般生徒も購入は可能になるのでしょうか?」

「そうね……。値段設定を良心的にして、きっちりルールに身分の貴賤は問わないとすればいいかしら」



 私のうちわをシアラはいったいどうするつもりなのかしら……なんてことは触れないでおきましょう。

 シアラが当時誰に憧れていたのかは知らないけれど、ジェネジオでないことは確かね。

 ドンマイ。

 思わず心の中で慰めてしまうくらいジェネジオはショックを受けているけれど、話を進めるわ。



「生徒会や学園内での販売許可などの交渉はジェネジオに任せるわね。あと細かいルールの制定も任せるわ」

「いや、それ、全部ですよね」

「せっかく学園長や生徒会のメンバーと顔つなぎができたんだから利用しないと。というわけで、マージンは5%でいいわ」

「それでマージンまで取ると」



 ジェネジオはいちいち文句が多いわね。

 だけどいつもの調子に戻ったからよしとしましょう。



「さて、それでは今日の本題に入るわね」

「まだ厄介事があるんですか……」

「ジェネジオ、先ほどからファラーラ様に失礼よ」



 先ほどじゃなくて最近ずっとだけど、大目に見てあげるわ。

 ジェネジオにはまだまだ協力してもらわないといけないことがあるものね。





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― 新着の感想 ―
[一言] 貴族令嬢がよく持ってる扇子も日本発祥でヨーロッパに広まったものなのに団扇は広まらなかったのかー。 てか異世界だから日本じゃない日本的な国が極東にでもあるのでしょうけど。いや大昔の転生者がパッ…
[一言] うちわ…本気だったのか(笑)
[良い点] ジェネジオ、好きな人は振り向いてもらうどころかその主人にメロメロ、さらにその恋敵にはこき使われて、1番の苦労人ですね(笑)
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