呼び出し2
「実は……先輩たちの教室に呼び出されて、私……何か恐ろしいことを言われるのかと思ったのですけど、そんなことはなかったのです」
「ファッジン君、正直に話せばいいんだよ。君はまだ入学したばかりだというのに、君の行動は多くの生徒を助けている。だから次は僕たちが君を守るよ」
あ、たぶん胸キュン。
その顔でそのセリフを言われたら、女子の心臓を止めますよね。
これは早くうちわ制作に取りかからないといけないわ。
うちわを振ることによって、この熱を冷ますのよ。
ほらほら、ミーラ様とレジーナ様が腰を抜かしているわ。
エルダ、介抱がてら騎士とともにこの場から二人を離してちょうだい。
それから先輩方も胸を押さえて深呼吸している場合じゃありませんよ。
スペトリーノ先輩はあなたたちから私を守るとおっしゃっているんです。
敵認定されていますよ。
それとも、それさえもありですか。そうですか。
「その……お恥ずかしい話ですが、先輩たちは私に婚約祝いのお言葉を贈ってくださったのです。それも私を驚かせようとして、このような状況にされたそうで……。ですよね、ストラキオ先輩?」
「……ええ。私たち、その、ファラーラ様を……お祝いしたくて、でも悪ふざけが過ぎてこのような騒動になってしまって、申し訳ございません。ファラーラ様、改めましてこのたびはおめでとうございます」
このファラーラ・ファッジンを囲む会なんて、あなたたちにはまだ早いのよ!
おほほほ!
ストラキオ先輩の言葉に続いて、皆さん生徒会への謝罪と私への婚約祝いの言葉を次々口にしているわ。
ええ、どうぞ遠慮なく祝ってちょうだ……って、祝っちゃダメよ!
つい調子に乗ってしまったけれど、この婚約は間違いなんだから!
「確か、君たちはサラの友人だったな。このことをサラは知っているのか?」
私が内心で焦っていると、副会長のリベリオ様がナントカ先輩たちに思いがけない質問をした。
まさかのリベリオ様からの援護射撃だわ。
「あ、いえ、その……」
「サラ様は……」
「まあ、皆さんお揃いでどうされたのですか?」
出たな、魔王。
配下がうっかりミスをしないようにフォローしに出てきたのね。
だけどこういうのを飛んで火にいる夏の虫っていうのよ。
それでは私の長年の(数日だけど)恨みをはらすためにも、サラ・トルヴィーニに痛手を与えましょう。
あの気付け薬の恨み、忘れてなんていないんだから。
「トルヴィーニ先輩、皆様方は私と殿下の婚約を祝福してくださるために、こうして集まってくださったそうです。それで、リベリオ様とトルヴィーニ先輩の婚約のお話はまだなのですか?」
「は?」
「なっ、あるわけないでしょう!」
首をこてんと傾け、無邪気を装って質問。
ファラーラ・ファッジン会心の一撃。
サラ・トルヴィーニは焦りのあまり素を出した。
顔を真っ赤にして否定するサラ・トルヴィーニは怖い顔で睨んでくる。
だけどリベリオ様はわけがわからないって顔をしていらっしゃる。
まさか噂をご存じないのかしら。
「やっぱりあなたね? 私とリベリオが密会していたなんて噂を流したのは」
「いいえ、そのようなことは申しておりません。私はただ、殿下と湖畔でのことを友達に訊かれたので、リベリオ様とトルヴィーニ先輩にお会いしたと話しただけですわ」
「ああ、そういえば僕もそのような噂は聞いたな。なんだ、リベリオとサラ嬢はついに婚約するのかと思ったが違うのか?」
「ち、違います」
「その予定はありませんね」
どうやらスペトリーノ会長は噂をご存じだったようで、ダメ押しの質問をされたわ。
さすがに会長相手にはサラもおとなしく否定して、リベリオ様は無頓着に否定された。
中二病なリベリオ様は噂を知らないというより、どうでもいいようね。
「スペトリーノ会長、生徒会の皆様、このたびは私事でお騒がせしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
ひとまずこの騒ぎに決着をつけようと生徒会の方たちに謝罪して頭を下げた。
すると、会長は笑いながら横に手を振る。
「いやいや、いいよ。何も問題はなかったんだから。それよりも、僕からもまだお祝いを言っていなかったね。ファッジン君、ご婚約おめでとう」
「……ありがとうございます」
まさかの次期スペトリーノ侯爵からお祝いの言葉をもらってしまったわ。
これは想定外。
しかもリベリオ様以外の生徒会の皆様方までお祝いの言葉をくださるなんて。
だけど今回はかまわないわ。
だって、サラ・トルヴィーニの悔しそうな顔を見ることができたんですもの。
これは痛み分けね。
復讐とは痛みをともなうものだって、よくわかったわ。




