発案2
週明け、学園に登校したら、知らない人からたくさん声をかけられて驚いたわ。
みんな私に気安すぎない?
いくらお礼が言いたかったからって、あまり近づかないでほしいわ。
私はファラーラ・ファッジンよ?
そのせいで騎士たちもピリピリしているのよね。
だから「面倒をかけるわね」って声をかけたら、「大したことではありません」って返ってきたのよ。
私が驚いたのは護衛として当然のその返答ではなく、あの強面が笑顔だったこと。
彼らって笑うこともあるのね。びっくりだわ。
「ファラ、おはよう。そして、ありがとう!」
「おはよう、エルダ。みんな勘違いしているけれど、私は何もしていないんだからお礼なんていらないわ」
「もう、そんなこと言っても知ってるんだからね! ファラが生徒会に提案してくれて、私たちに杖を支給されるようにしてくれたこと!」
「だからそれは私ではなく殿下だわ。殿下が生徒会に――」
「ファラーラ嬢の案で間違いないよ。しかも資金は自分が出すとまで先生に交渉していたんだよね?」
殿下、ここは一年のクラスです。
しかも黄色い声がいつも以上に多いと思ったら、後ろには生徒会全員そろっているではないですか。
廊下には観客が――いえ、上級生女子がたくさんいるんですけど。
何これ、怖い。
「おはよう、ファッジン君。今日から一年生は杖を使った授業が始まるんだろう?」
「――おはようございます。スペトリーノ会長、生徒会の皆様。おっしゃるとおり、本日より杖での魔法技の授業が始まります。生徒会の皆様がご配慮くださったおかげで、心置きなく授業を受けることができます。本当にありがとうございます」
爽やかに微笑まれる会長にお行儀よく制服のスカートを摘まんで軽く膝を折る。
するとクラスのみんなも慌てて私に倣ってお辞儀をしたみたい。
まあ、はっきり言って私が生徒会にお礼を言う義理も何もないけれど、ファラーラ・ファッジンは空気を読める子ですからね。
「いやいや、それらは全てファッジン君の提案だろう? 僕たちは特待生のみんなに余計な気苦労をかけていたことを謝罪に来たんだ。悪かったね」
かるっ!
こんなに軽い謝罪を聞いたのは初めてなんですけど。
でもみんなは――エルダや他の特待生の子たちは「謝罪の必要などございません!」とか「お心遣いに感謝しております!」なんて涙ぐんでいるわ。
おかしいわね。
私に対してとちょっと態度が違うんじゃないかしら。
別に感謝してほしいわけじゃないのよ。
だけどほら、私はファラーラ・ファッジンなのに。
「それでは、今日からの魔法技の授業で君たちの力がしっかり出せるよう応援しているよ」
そう言って会長や生徒会メンバーは去っていった。――けれど、リベリオ様は私を睨んだ?
ふふん。やる気なら受けて立つわ。
そっちが邪気眼ならこっちは杖から鳩よ。
鳩は平和の象徴なんだから。オリーブの枝だってつけるわ。
って、どうして殿下はまだ残ってるの?
私をまっすぐに見るから思わず目を逸らしてしまったわ。
あ、窓の外に鳩が……。
「それじゃ、またね」
「は、はい」
って、返事をしてしまったけれど、何が「また」なの?
私、何か約束していました?
殿下に視線を戻せば嬉しそうに微笑んでいらっしゃったけれど、さっぱり思い出せない。
悩みつつもポレッティ先輩以上の総回診な生徒会メンバーと殿下を見送る。
ミーラ様やレジーナ様もきゃっきゃとはしゃいでいて、エルダたち特待生は信じられないといった様子でぼうっとしているわ。
これは、ひょっとして、ビジネスチャーンス!
殿下の「また」はまた考えるとして、この女生徒たちの浮かれ様。
これはやっぱりキラキラうちわよ!
ジェネジオにイメージを伝えてキラキラモールに代替できるものを用意してもらって、蝶子の世界の〝うちわ〟を作ってもらうのよ。
それから写真はないけれど肖像画を……精密なのは無理でしょうから簡易的な量産できるものを用意しないと。
もちろん肖像権の問題――ではなく、不敬罪にならないように本人には了承を得る。
要するに公式グッズね。
偽物を作らないためにも、公式だという証拠にもなるように、本人にサインを入れてもらって、売上の数%を支払う。
原価とテノン商会と当然私へのマージン等を引いた利益は慈善団体に寄付すると言えば皆さん了承してくださるんじゃないかしら。
それからルールは必要ね。
お触り禁止、本人の生活の邪魔をしない。
私たちはただ愛でるだけ。
あとの細かいところはジェネジオに任せましょう。
学園外の活動は禁止にして、メンバーが卒業すれば活動は終了。
だけど生徒会は永遠なり。
ふふふ。
先輩たちが卒業しても新たな生徒会メンバーにこの慈善事業を継続するように仕向ければいいのよ。
国外生活に向けた不労所得プロジェクト第二弾!
さっそくこの週末にでもまたジェネジオを呼んで相談しないとね。
それと、殿下は生徒会ではないけれど、人気度は高いからこのプロジェクトに参加してもらいましょう。
それでは一番に婚約者の私が殿下のキラキラうちわを持つべきね。




