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王太子6

 

 これからどうやってファラーラ嬢と仲良くなっていけばいいだろうか。

 今までは彼女を嫌うあまり露骨に避けていたからなあ。



「――ねえ、エヴェラルド様、お聞きになりました?」

「……何を?」



 しまった。

 今はサラが遊びに来ているんだった。

 何か話があるとか言っていたけれど、一向に始まる気配がないからつい考えに耽ってしまっていた。

 だけどサラは気付いた様子もないようだ。

 よかった。

 また肝心の話に入る前に文句を言われなくて。


 ここ最近、気がつけばファラーラ嬢のことばかり考えているのに、当の彼女にはなかなか会えないんだよなあ。

 以前の彼女なら絶対に学園でもまとわりついてきただろうに。



「実は、よからぬ噂が流れているのです」

「噂? また?」



 サラは女性たちの間で流れる噂をよく教えてくれる。

 世情に疎くてはダメだとサラは言うのだが、家庭教師は噂に惑わされてはダメだと言う。

 だから誰からの噂でも話半分にしか聞かないようにしているつもりだ。


 しかし最近のサラの噂はつまらない。

 知っておく必要のないようなものだったり、間違っていたりするのだから。

 肝試しのときに言っていたファラーラ嬢のイジメに関することだって、サラの勘違いだと思う。



「また、ではないです。今回は特にひどい、エヴェラルド様の評判にまで関わることなんですから」

「僕の評判?」

「はい。実はファラーラ様が――」

「ファラーラ嬢がどうかしたのか?」

「……ええ。その……商人のジェネジオ・テノンとの仲を勘繰る者がいるようで……」

「ジェネジオ・テノン? 確か彼はファラーラ嬢よりかなり年上だろう? それはいくら何でもあり得ないよ」

「そうでしょうか? 今まで商人と直接お話しされることなどほとんどなかったファラーラ様が、何度もジェネジオを屋敷へ呼びつけ、お部屋で二人きりでずっと過ごしていらっしゃるそうですよ。女性はやはり大人の男性に憧れる時期がありますから……。ジェネジオなら世知に長けていて話をしていても面白いでしょうし、見目もなかなかですからね」

「……サラもずいぶん詳しいね」

「わ、私は、その、ジェネジオ・テノンといえば、この国一番の商会の次期総帥ですから、上流階級の女性たちならみんな知っておりますわ」



 ずいぶん馬鹿馬鹿しい噂だと笑い飛ばそうとしたけれど、ふと最近のファラーラ嬢のことを思うと笑えなくなった。

 別人のように変わってしまったのはジェネジオ・テノンの影響なのだろうか。


 それで僕のことに関心がなくなった?

 いや、だけど噂では僕の――王太子の婚約者として変わろうと努力してくれているんだよな。

 それに肝試しのときにはむしろ僕のことを……。



「このままでは、殿下の評判にまで傷がついてしまいます。ですから、何か対策を講じられたほうが――」

「わかった」

「それでは、母と私が――」

「明日、ファラーラ嬢に会いに行って、確かめてみるよ」

「は?」

「彼女にちゃんと訊くのが一番いいだろ? 僕の評判なんてどうでもいいけど、ファラーラ嬢の気持ちをはっきりさせるべきだからね」

「で、ですが……」

「忠告、ありがとう。それじゃあ、僕はこれからファラーラ嬢に訪問伺いの手紙を書くから、失礼するよ」



 そうだよ。

 一人であれこれ悩むよりはっきり訊けばいいんだ。

 どうして今まで思いつかなかったんだろう。

 サラには感謝しないといけないな。

 おかげで気持ちをすっきりさせることができる。


 明日、ファラーラ嬢は会ってくれるだろうか。

 僕の予定は午前でも午後でもどちらでもいいから、ファラーラ嬢の都合に合わせられるな。

 よし、明日までにできることは片づけておこう。

 だけどまずは手紙を書かないと。




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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公と王子が上手くいけばいいなと思ってますし、サラにドヤァ(ざまぁされるほどじゃない?)になるシーンを楽しみにしてるんですが、今の所サラの事はプチ嫌いな感じです。 不思議です。王子視点だと…
[一言] 何故か王子が天然で純粋な好少年ですが、全くときめかない。びっくりするぐらいキュン度ゼロです。ときめき無くてもストーリーとして面白いので大丈夫ですが、自分がひねくれ過ぎて駄目ですかね。
[良い点] どんどん空回りし出すサラ(笑) そのうち皿になって「いつもより余計に回しております~」ってなるんだろうなぁ(笑)
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