王太子3
おかしい。絶対におかしい。
この四日間、彼女が――ファラーラ嬢が僕に近づいてくることが一度もなかった。
それどころか見かけることさえ、あの食堂での一回だけだった。
「――な、だからおかしいよな?」
「え? あ、ああ」
新入生が入ってきて――僕たちが二学年に上がって最初の休日。
朝からリベリオがやってきて何かと思えば、ファラーラ・ファッジンに関することであれこれと推測を述べ始めた。
「お前に近づこうとしないのもおかしいが、生徒会にファラーラ嬢に関する苦情が一つも上がってこないんだ。苦情が来ないことには彼女を処罰することも退学させることもできない」
「それは当然だろう。何もしていないんだから」
「あの彼女が何もしていないわけがないだろう? 隠れてやっているに決まっているんだ」
「何を?」
「イジメだよ。陰湿な嫌がらせをやっているに決まっている。ひょっとして彼女なら自分で手を下さず、取り巻きたちにさせているんじゃないかと思って、調べさせたんだ」
「……それで?」
「何もなかった」
「それなら何が問題なんだ?」
最近のリベリオには時々イライラさせられる。
生徒会に入ってから――という考え方はよくないのかもしれないが、どこかもったいぶったような言い方をするんだ。
だけど理解力の悪い僕にリベリオもイライラしているのかもしれない。
僕がどんなに努力しても、勉強も魔法も同じ年のリベリオがあっさり上をいってしまう。
何でもよく知っているリベリオのことは尊敬しているし、今まで間違ったことを言うなんてなかった。
だけど――。
「だから、おかしいと思わないか? あのファラーラ・ファッジンが制服を着ているんだぞ?」
「ああ、最初は何の冗談かと思ったが、彼女の影響か制服を着る女生徒が増えたよな。特に一年生は半数を超えている」
「彼女の取り巻きたちも制服を着るようになっているし、何か裏があると思うんだよ」
「考えすぎだろ? たとえ裏があったとしても、女生徒が制服を着用するようになれば、いいことじゃないか。前から生徒会が懸念していたことが緩和されるんだから」
リベリオは考えすぎだと思う。
確かにあのファラーラ・ファッジンが、僕の――王太子の婚約者としてふさわしくなろうと努力しているという噂を聞いたときには何かの間違いだと思ったが、今の彼女を見ているとちょっと信じられる気がする。
まあ、それでも彼女ほどプライドの高い女性が制服を毎日着用しているなんて驚きではあるけど。
以前「一度袖を通したものは二度と着ない」と豪語していたが、まさか制服も毎日新しい……ってことはないよな。
サラに制服を着てくれるよう頼んだこともあるけど、先輩に虐められるから無理だと言って断られたくらいなのに。
そういえば、サラは僕と幼馴染で仲が良いという理由で、ポレッティ先輩に目をつけられていると怖がっていたな。
だからできるだけ傍にいてほしいと言っていたけど、ファラーラ・ファッジンは大丈夫なんだろうか。
幼馴染どころか婚約者にまでなったのに、制服で毎日登校するなんて……。
「本当にどうしてなんだろう……」
「だからさ、これから会いに行って確かめてみようぜ」
「……は?」
「実はもうすでにお前の名前で午後からの訪問伺いを出しているんだ。当然、了承してくれたぞ」
「……勝手に僕の名前を使ったのか?」
「俺の名前だと門前払いに決まっているだろ? 俺もファラーラ・ファッジンは嫌いだが、向こうも嫌っているようだからな」
「だからって……」
「ここであれこれ考えるより、本人に確認したほうが早い。いきなり質問するのもおかしいから『君のおかげで助かった』って言えばいいんだよ。実際、事実だからな。それで反応を見ればいい。それにそう言っておけば、どんな思惑があるにしろ、制服を着て他の生徒にもっと広めてくれるかもしれないんだから」
リベリオのこういう強引なところにイラっとさせられつつも、羨ましくもある。
明朗快活で、僕もリベリオのようだったら父上も今より気にかけてくれただろうか。
なんて不毛なことは考えず、あまり気乗りはしないが、ファラーラ・ファッジンに会いにいくか。




