生徒会2
「ファラーラ様! いかがでした!?」
「生徒会室はどのようなお部屋でした!?」
私が教室に戻ると、ミーラ様とレジーナ様が駆け寄って質問を浴びせた。
エルダは心配そうに私を見ている。
大丈夫よ、エルダ。
泣きそうだったのは、皆様があまりに眩しかったからよ。
ミーラ様とレジーナ様が興奮して、エルダが心配するのも仕方ないわよね。
生徒会室は禁断の聖地。
限られた者しか入れない場所だものね。
以前の私は強引に入って摘まみだされたんだわ。
思い出したら涙が……。
「ファラ、大丈夫だったの?」
「……大丈夫よ、エルダ。生徒会室は別に何の変哲もない部屋でしたし、生徒会の皆様もとてもお優しい方ばかりで…………殿下の婚約者として注目されているせいで何か苦労していないかと心配してくださったの」
「まあ、そうなんですね!」
「なんて素敵な方々かしら!」
ミーラ様とレジーナ様は顔を輝かせている。
よかった、夢を壊さないであげられたわ。
他の生徒たちも聞き耳を立てていたらしくて、それぞれ生徒会を賞賛しているけれど、私の中ではむくむくと反抗心がわいてきているのよね。
だけど今は我慢。
私はみんなが賞賛するファラーラ・ファッジンだもの。
笑顔で手を振って応えるのよ。
って、あら?
賞賛なんてされていたかしら?
まあ、いいわ。
笑いじわができない程度に笑っていましょう。
「――というわけで、おかしくないですか? 生徒間の壁を取り除きたいとかおっしゃっていながら、ご自分たちが一番大きな壁を作っていらっしゃるんですよ? 何が禁断の聖地よ。特別に自分たちだけ食事もできるようにしているなんて」
「その矛盾に気付いたことは偉いが、なぜそれを私に言うんだ、ファッジン君」
「あら、それはフェスタ先生以外に相談できる方がいないからですわ」
「これは相談ではなく、ただの愚痴と言うんだ。覚えておきなさい」
ため息交じりにフェスタ先生が偉そうに言うけれど、これでも放課後まで我慢したのよ?
この私が我慢したというだけでもすごいことなんだから。
「だがまあ、生徒会の体質は私が学生だった頃から変わらないよ。理想を掲げるのはいいが、実を伴っていない。それでチェーリオは――君の兄さんは生徒会入りを断ったんだよ」
「チェーリオお兄様が?」
「ああ。生徒会は先代からの指名制だからな。それさえもおかしいと思わないか?」
「確かに……。では、なぜ殿下は生徒会には入られなかったのかしら」
「殿下を指名するなんてできないだろ? そもそも二年から会長にはなれない。生徒会組織とはいえ、殿下の上に立つ者がいてもまずい。そういうわけで、殿下は生徒会には所属していないんだよ」
「やっぱり矛盾しているのね。そもそも指名制なんて……」
いえ、でもここで選挙制になんてしたら、将来的に国政にさえ影響を与えかねないわね。
それなら口先だけの綺麗事なんておっしゃらないでほしいわ。
リベリオ様はどうだか知らないけれど、殿下はそのことに気付いてもいらっしゃらないんだもの。
だからサラ・トルヴィーニの裏の顔もご存じないのね。
やっぱり鈍感だわ。
「それで結局、君は何をそんなに腹を立てているんだ? 生徒会室に招待されたことだけでも栄誉あることなんだから、満足だろう?」
「本当にフェスタ先生の私に対する評価ってひどくありません? まるで……」
「まるで?」
「いえ。とにかく私が納得いかないのは、私だけしか招待されなかったことなんです。だって、ポレッティ先輩方が制服をお召しになったのは、私が口にしたことではありますが、あの場にはエルダやミーラ様、レジーナ様もいたんですよ? 発言したのは私だけだったとしても、三人も一緒に招待されないのはおかしいと思いません? だから腹が立ったんです」
「……なるほど。ファッジン君は友達のために怒っているわけだ」
「はい? 私が?」
「そういうことだろう? いいことだと思うぞ。だからもし次に機会があれば、友達も一緒にと言えばいい。じゃあ、そういうことで気をつけて帰るんだぞ」
私がエルダやミーラ様、レジーナ様のために怒っているって発言に驚いているうちに、フェスタ先生は立ち上がって帰り支度を始めた。
まだ私が許可をしていないのに、立ち上がるなんて失礼じゃないかしら?
「先生、まだ相談は終わっていません」
「愚痴はまた今度な。これからデートなんだよ」
「悩める子羊を――可愛い生徒を置いて、自分だけ楽しもうとするなんて教師失格です。学園長に報告しないといけませんわ」
「……これで遅刻して振られたら、どう責任をとってくれるんだ?」
「一回や二回の遅刻で振られるようなら、それだけの仲だったということです」
脅しを口にすればしぶしぶ先生は動きを止めた。
どうやらフェスタ先生はこの職に未練があるようね。
ということは話は早いわ。
にっこり笑顔を浮かべたのに、先生は警戒しているんですけど。
どういうこと?
「先生に折り入ってお願いがあるのです」
「断る」
「即断すぎませんか? そもそも断ることは許されませんからね!」
「その笑顔で『お願い』なんて言われて受けるわけないだろ? あと、拒否できないなら、すでにお願いじゃねえ」
どうしてみんな私の笑顔にそんなに警戒するの?
それに先生の言葉がかなり乱れているんですけど、失礼じゃないかしら?
とにかく逃すわけにはいかないわ。
絶対に受けさせてみせる。
殿下の教育係――狡い大人の見本その2としてね!




