派閥1
結局、殿下の好みのタイプは聞けないまま。
だけどまずはベネガス先輩で決行してみようと思うわ。
運命的な出会いといえば、まずはベネガス先輩がパンを口に入れたまま、出会い頭に殿下とぶつかるのね。
……これは無理だわ。
ベネガス先輩がそのような下品な行動をされるわけもないし、お互い護衛がいるんだからぶつかることさえあり得ない。
では、図書室で同じ本を取ろうとして「あ……」なんていうのはどうかしら。
……これも無理ね。
殿下には学園内でも一定の護衛騎士がいるから、基本的に偶然出会うことなんてできないのよ。
近づけるのは護衛のチェックを受けた者か、最初から無条件に許可が下りている者だけ。
そう、私のようなね。
おほほほほ!
と、悦に浸っている場合じゃなくて。
やはりお互い偶然は難しいから、先にベネガス先輩を陥落させるしかないわね。
でもどうやって?
エルダは私のことを知らなかったから普通に話しかけてくれて、初のお友達になれたわ。
ミーラ様とレジーナ様はエルダの影響で、以前の取り巻き的な雰囲気からお友達って言えるくらいの仲になれたと思うのよね。
ただ三人とも同級生。
二学年も上のベネガス先輩にお近づきになるにはどうすればいいのかしら。
やっぱり箱詰めの焼き菓子の下に金貨を敷き詰めて贈る?
ジェネジオが新しい化粧品を開発してくれていたら、それを贈ることもできたのに。
シアラから催促させるべきね。
そうね。将を射んとする者はまず馬を射よ、って言うんだから、ポレッティ先輩に近づけばいいのよ。
あら? 派閥の将はポレッティ先輩だったわ。
まあいいわ。この際、二兎追ってどちらも獲得すればいいのよね。
それが私、ファラーラ・ファッジンよ。
ここはさりげなく先輩たちの隣の席に座ればいいの。
他の女子生徒は遠慮して先輩たちのテーブルはまだ空席があるものね。
さあ、行くわよ。
「こ、こここ、よろしいでほうか?」
舌噛んだ! すごく痛い!
まるで今のはニワトリだわ。コケコッコー。
「あら、ファッジン様。どうぞ? お友達ももちろんかまわなくてよ?」
「あ、ありがとうございます。ポレッティ先輩」
さすがの貫禄だわ。
この前の当たり屋な姿が嘘のよう。
それよりも無言で見つめてくるベネガス先輩のほうがやっぱり油断できない気がするわね。
袖振り合うも他生の縁ということで、エルダたちを紹介すると、先輩たちも一応は私に名乗ってくれた。
エルダのことは完全無視でね。
さすがドレス組だわ。
エルダは当然のことながら、ミーラ様とレジーナ様も気後れしている。
そしてなぜこの席を選んだのかと不思議にも思っているみたい。
だけどこれは私の崇高な目的――義務なんて放り出して不労所得で悠々自適生活のためなの。
そう、これは私の我が儘。
だからあなたたちは私が守ってみせるわ。
ここで私が遠慮してどうするの。
私はファラーラ・ファッジンよ?
ポレッティ先輩とベネガス先輩に渡り合うには、〝ファラーラ・ファッジンいい人作戦〟ではダメなの。
いざ、降臨!
傲慢ファラーラの出番よ!




