嫉妬1
「……殿下は、そのことをどなたからお聞きになったのですか?」
「ある人が心配して教えてくれたんだ。婚約者であるファラーラ嬢の行動は僕の評判にもつながるから、気をつけたほうがいいと」
「では殿下は、私とジェネジオの関係よりも、ご自分の評判を心配されて、今のようなご質問をされたのですか?」
「い、いや、違うよ。評判云々はどうでもいいんだ。ただそんなにジェネジオと一緒にいるなんて、何をしているのか気になっただけで……」
それはひょっとしなくても嫉妬!?
いえ、嫉妬というほど大げさなものではないけれど、これは恋の予感?
殿下が私に? 先日の肝試しの件が効いたのかしら?
まさかそんな……なんて単純なの!?
これは由々しき事態よ。
以前の私は殿下のことをよく知らなかったわ。
でもそれって、知るほどのものがなかったということではないかしら。
要するに、殿下は中身がないのかも。
〝とある人〟というのは、その情報入手経路とともにあとで調べるとして(予想はついているけれど)、殿下は純粋培養の王子様そのもの。
生まれたての雛は私じゃなくて、殿下だったのよ。
きっとみんなに守られて生きてきたのね。
それで四角四面で素直な王子様の出来上がり。
このままいけば、傀儡政治まっしぐら!
さて、どうしましょう。
いっそのこと無色透明の殿下を私色に染める?
いえ、それはやっぱり無理だわ。
だって私色が何かわからないもの。
私の好みのタイプは……地位身分、お金、顔……これ以外に何を望むの?
あ、浮気はダメね。
うーん。
後継者問題もあるし、やっぱり私は悠々自適に暮らしたい。
だから逆紫の上計画はやめておきましょう。
それに今はもう、殿下が張りぼて王子様にしか見えないもの。
うん? ということは、このまま五年後には殿下はサラ・トルヴィーニ色に染まってしまうの?
それは私の最も恐れる結果よね。
悪夢の中で私は幽閉されて、それから……どうなったの?
お父様が亡くなって、私があんな不始末をしたら、ファッジン公爵家の行く末は?
サラ・トルヴィーニが王太子妃となったことで、きっとサルトリオ公爵派は勢いを取り戻すわよね。
ということは、陛下は味方である私のお父様を失ったことで四面楚歌!
戦力外通告からの引退勧告? それとも力技の暗殺?
そして始まる傀儡政治!
まあ、大変!
あの二人の仲を邪魔しなければという使命感をどうして覚えるのかこれでわかったわ。
きっとこの国の将来を危惧した私の本能だったのね!
というほど私の本能は仕事をしないけれど、ジェネジオ情報では陛下の治世になってから、この国はとても安定しているって聞いたわ。
それで国民の人気も高いって。
もちろんお父様も大人気。
当然よね。私のお父様だもの。
それで私の我が儘も許されていたところがあるらしいけれど。
ほんと、ジェネジオは歯に衣着せないっていうか、最近調子に乗っているわよね。
ちょっとした罰が必要じゃないかしら。
シアラとしばらく会わさないようにするとか……あ、そうだわ!
最高の罰を思いついたわ。ふふふ。
今のままだと殿下は模範的な優等生のまま。
単純で騙されやすい、耳に心地よいことを言う人に上手く操られてしまう。
だから世間の毒を知らなければならないのよ。
毒といってもリベリオ様のような中二病を拗らせたものではダメね。
自分は賢いですって雰囲気を出しているけれど、所詮は井の中の蛙。
この前の肝試しでよくわかったわ。
そこで必要なのが、ジェネジオよ。
うまく引き合わせて、殿下に狡い大人を知ってもらいましょう。
あとは、殿下に新しい婚約者を選んでいただくだけ。
よし! やる気が湧いてきたわ!




