エルダ2
「ファラーラ・ファッジン、エルダ・モンタルド、二人ともこのまま職員室に来なさい」
あー失敗した。
つまみ食いしたこと、先生にはしっかり見抜かれてたみたい。
ファラまで巻き込んで悪かったなあ。
「失敗しちゃったね、ファラ」
「え?」
「ほら、つまみ食いがばれちゃったみたい。ごめん、巻き込んじゃった」
「いえ、それはいいのですけれど……。あなたはエルダさん?」
「そうよ。あ、ごめん。勝手に名前を呼び捨てにして。ファラって呼んでもいい? 私のこともエルダでいいわ」
「わかったわ……」
心の中ではもうすでに勝手に呼び捨てにしてたから驚かれたけれど、了承してくれてよかった。
たぶんファラは王都の割といいところのお嬢さんみたい。
話し方が私たちと違うもの。
お兄ちゃんから「お前は初対面から距離感が近すぎるから気をつけろ」って言われてたけど、こうして友達もできたんだから気をつける必要なんてないよね。
そう思っていたら、ドレス組の人たちがファラにまた近づいてきた。
さっきは会話の内容が聞こえなかったけれど、今の会話からはどう考えてもファラは……一般生徒じゃない?
どうしよう。まさかファラってお貴族様だった!?
「あ、あの……ファラ、様?」
「エルダ、私のことはファラって呼ぶのではなかった?」
「そ、そのつもりでしたけど、あの、まさかファラ様はお貴族様だったのではと……」
「確かにそうだけれど……。せっかく仲良くなれるかと思ったのに、私が貴族だと無理なのかしら?」
「そそ、そんなことはないです! ほ、本当にいいんですか?」
「ええ、よろしくね。私、今まで友達がいなかったから、どう付き合えばよいかわからないのだけれど……色々教えてね」
「任せてください!」
ああ、ファラは綺麗なだけじゃなくて優しい。
先輩方に聞いていたお貴族様と違って、こんなに気さくに接してくれるなんて。
キャデのことも知らなかったなんて、やっぱりお貴族様だ。
そんなファラにキャデをあげるなんて、失礼だったかなあ。
そう思いながら職員室を探していると、ファラが誰かとぶつかったみたい。
廊下は端っこを歩かないと――って、ファラは注意されているわけないものね。
「ちょっと! 平民の分際で私に触れないでくれる? 穢れるじゃない!」
「まあ、ミリアム、やめてあげなさいよ。平民の子が怯えているわ」
あああああ、どうしよう、どうしよう。
やっぱりドレス組に絡まれてしまった。
誰か助けを……って、そこに天の声!
「君たち、何をしているんだ!? ファラーラ・ファッジン、エルダ・モンタルド、早く来なさい」
「はい、フェスタ先生」
フェスタ先生が職員室から顔を出して呼んでくれたおかげで、ドレス組の先輩たちは去っていった。
でもでも。なんかすごくまずい。
さっきは気付かなかったけど、ファラの名前ってまさか……。
「エルダさん、さっさと先生のお説教を聞いて、食堂に行きましょう?」
「え……あ、はい」
「も~また敬語になってる」
「で、ですが、ファラーラ・ファッジン様といえば……」
王太子殿下の婚約者様じゃないですか?
なんて畏れ多くて訊けない。
それなのにファラは――ファラーラ様はまたあのとっても眩しい笑顔を浮かべてくれた。
「ファラよ。そう呼んでくれるのでしょう?」
「――はい!」
噂なんて当てにならないって本当よね。
だって、ファラはこんなにも優しくて天使のような人なんだもん。
先生はファラが私を虐めていないかって心配していたらしかったけれど、とんでもないよ。
そんな私の怒りが伝わったのか、フェスタ先生は謝罪してくださった。
「すまん、すまん。ファッジン公爵令嬢が入学してくるというから、どんなお嬢様かと思ったらあまりに普通で安心したんだよ。友達もできたみたいだしな、モンタルド君?」
「はい! ファラはとっても素敵な友達です」
友達って言っていいよね?
ちらりとファラを見ると、にこにこ微笑んでいてくれた。
ああ、本当にファラってば綺麗。
きっと心も美しいからなのね。
私、一生ファラについていくって決めたわ!




