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帰還1

 

「お待たせ。ごめんね、遅くなって」

「いいえ、それほど待ってはおりませんわ。それよりも楽しかったですか?」

「はい! ファラーラ様もご一緒にいらっしゃればよかったのにと、残念でしたけれど……」

「本当にそうですわ。ちょっと怖いこともあったのですが、リベリオ様が不審な物音の原因を解明してくださったんです!」



 ミーラ様とレジーナ様が嬉しそうで何よりだわ。

 私は絶対無理だけど。

 不審な物音って何? 本当に解明できたの? 実は背後に……いえ、考えないようにしましょう。


 一応背後に何も見えないリベリオ様は、二人に優しく微笑んでいたけれど、ふっと周囲を見回して首を傾げる。

 何? 何か私には見えないものが見えているの!?



「エヴェラルドとサラはまだかい?」

「え、ええ。まだお戻りになってはいらっしゃいませんわ」

「へええ。コースは別だったけど、距離は変わらないはずなんだけどなあ」



 驚かせないでほしいわ。

 実在する人たちを捜していたのね。


 不思議そうなリベリオ様のお言葉を聞いて、ミーラ様やレジーナ様は「んまあ!」と、声が出ているわ。

 だけど私はにっこり余裕の笑顔。

 生きている人間は平気よ。



「王宮の騎士が五名もついていらっしゃるのですもの。それほど心配する必要はないのではないでしょうか? それにお二人は幼馴染でいらっしゃるようですので、気まずい思いをされることもないでしょうから」



 ふふふん。

 これが大人の対応よ(子供だけど)。

 だけどこんなに穏やかに対応できたのは初めてだわ。

 今まで癇癪を起したり、拗ねて無言で威圧したりしかしてこなかったから気付かなかったけれど、なんて気持ちいいのかしら。

 広い心、最高! 素敵! さすが私!



「だがあまり遅いようなら、私が捜しにいくよ。やっぱり一応は責任があるからね」

「……申し訳ございません。先生にご面倒をおかけしてしまって」



 捜索を申し出たフェスタ先生にリベリオ様は謝罪なさったけれど、そもそもこの企画が立った時点でご面倒をおかけすること決定していましたからね。

 そんな殊勝な顔してもフェスタ先生は騙されていないようですわよ。

 おほほほ!


 私も騙されたりなんてしないわ。

 悪い男っていうのは、たいてい誠実そうな顔をしているのよ。

 最悪な場合、天使のような顔をしているんだから、神レベルのリベリオ様は極悪ってことね。


 だけど私、リベリオ様のような悪い男に理解がないわけじゃないのよ。

 せいぜい魑魅魍魎蔓延る王宮でうまく化かし合い騙し合いをしてください。

 王太子殿下がどのような方か、悪夢の中では五年も婚約していたのによくわからないけれど、リベリオ様のような方は必要だと思うもの。

 どうか殿下を支えて素晴らしい国政をなさってください。――私の安寧のために。


 そうなのよね。

 結局、私は殿下のことをまったく理解していないのよ。

 だから今、実は殿下がサラ・トルヴィーニのことを好きなのかどうかもよくわからない。

 だって自分以外を好きになるって、どんな気持ち?


 相手の幸せが自分の幸せ?

 ないわね。

 相手のために自分を犠牲にしてでも何かをしてあげたい?

 ないわね。

 好きな人と一緒にいられるのなら貧しい暮らしだって平気?

 絶対ないわね。

 愛する人のためなら自分の命も惜しくない?


 惜しいに決まっているじゃない。

 この世でただ一人になっても生き延びたいわ。


 はい、おしまい。

 恋愛どうこうを考えるのはやめましょう。

 だけど、シアラとジェネジオや他人の恋路を邪魔する気はないのよ。

 ただね、殿下とサラ・トルヴィーニの仲だけはどんな手段を使ってでも(私の中の倫理に反すること以外で)潰してやるわ。


 なぜこんなにも二人の仲を邪魔したいのかはわからない。

 それでもいいの。私がそうしたいから。

 それ以外の理由は思い当たらないわね。


 ええ。

 たとえその先に私を待ち受けるのが地獄でもやってみせるわ。

 だって、住めば都って言うもの。

 地獄だって、そのうち快適に暮らせるようになるわよね。

 死んだときのことまで考えてはいられないわ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がものすごく前向きで、一切うじうじしていないので話が進むに連れどんどん好きになってくる このまま突っ走って欲しい
[一言] サラ・トルヴィーニと 殿下の間がどうなっても 興味なんか消して サラ・トルヴィーニが 何をしても気にしなく自分を優先する主人公が 二人の間に拘るよりカッコいいのに 前世の経験で多様な人を…
[良い点] 主人公の妙に適当なご都合感がとても楽しい。このままつっぱしって欲しい。 [気になる点] 閑話として別人の視点が挟まれば、もっと深まると思います。単に私が読みたいだけとも言えます。 [一言]…
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