肝試し3
「ごめんごめん、遅くなったね」
「フェスタ先生?」
光魔法で杖に明かりを灯して現れたのは、ブルーノ・フェスタ先生。
確かにリベリオ様は許可を取っているとは言っていたけれど、保護者までいるとは思わなかったわ(護衛騎士はいるけれど)。
これではますます肝試し感がなくなってしまうわね。
どうやらエルダさんも同じことを思ったようで、私を見上げて困ったように笑う。
「フェスタ先生も参加されるのですか?」
「いや、私は監督だよ。一応何かあったときに対応できるように、ここで待っているから、困ったことがあれば光で合図しなさい」
光で合図といっても、私たちはまだ杖を持っていなくて、できるのは二年生である殿下とリベリオ様、そしてサラ・トルヴィーニね。
フェスタ先生が同行すると言わないのは、騎士たちがしっかりついているからでしょうね。
だけどこの騎士たちが本物だって保証がどこにあるの?
蝶子の弟が見ていた映画に首なし騎士が出てきていたわよ。
廊下を歩いているとだんだん友達が減っていって、後ろを振り返ると……。
やっぱり無理だわ。
人体模型に追いかけられるのも、首なし騎士に首を一緒に探してくれって頼まれるのも無理。
そう思っていた私の手を、温かな手がぎゅっと包んでくれた。
驚いて顔を上げると、エルダさんが優しく微笑んでくれている。
「あの、すみません! えっと、申し訳ないのですが、やっぱり怖いので私はここで待っています」
「で、では、私もエルダと一緒にいるわ。どうぞ皆さんで楽しんできてくださいな」
嘘だわ。
エルダが怖がっているなんて嘘。
きっと私の怯えを悟って、だけど私の顔を立ててくれるために、勇気を出して言い出してくれたんだわ。
だって参加しないなんて言ったら、ただでさえ場の空気を壊してしまうのに、一般生徒のエルダがそれを言うなんて、昔の私なら超絶怒り狂っていたわ。……自分も怖いくせに。
「え? そうなの? それじゃあ、組み分けをどうしようか……」
「でも、私は光魔法が苦手だから……」
リベリオ様を中心に組み分けを話し合っていたけれど、エルダと私が抜けるってことで一から決め直しになってしまった。
でも先ほどからなかなか決まらなかった原因はサラ・トルヴィーニの今の発言でしょう?
それなら簡単だわ。
「それではリベリオ様とミーラ様、レジーナ様が組まれて、殿下とトルヴィーニ先輩がご一緒されればよろしいのでは?」
にっこり笑って提案すれば、リベリオ様も殿下も、サラ・トルヴィーニまで驚いたようだった。
おほほほ。
無益な争いはしないと決めたのよ。……今はね。
サラ・トルヴィーニにだけは絶対に殿下との邪魔をしてみせるけれど、ここは戦略的撤退。
ミーラ様とレジーナ様は顔を輝かせ、私に感謝の眼差しを向けている。
そうでしょう、そうでしょう。
私を崇め奉りなさい。
二人とも殿下のことは私の婚約者として見ていて眼中にないから、あとはリベリオ様を落とせ……ることはないでしょうけれど、楽しんできたらいいわ。
あら、フェスタ先生まで驚いていらっしゃるのね。
私が殿下の婚約者だと知っているから?
それとも私の我が儘で婚約が成立したってご存じなのかしら。
「じゃ、じゃあ、さっそく始めましょうよ。ファラーラ様がおっしゃっている通りの組み分けで問題ないでしょう?」
「……ああ」
「それでは、行ってくるよ」
「ええ、行ってらっしゃいませ。どうぞお気をつけて」
早々に気を取り直したらしいサラ・トルヴィーニが殿下の腕を取り、にっこり笑った。
気安く殿下に触れることができるアピールですか。
ふふふ。
殿下はそのことにも気付いていないみたいで、ただ頷いた。
私、鈍感な男は嫌いですから。
リベリオ様はまた別の面白いことを考えたのか、楽しそうに手を振り、頬を染め興奮したミーラ様とレジーナ様と別の入り口へと向かった。
それを笑顔で見送って、握ったままだったエルダの手をそっと離す。
「ありがとう、エルダ」
「何のこと? 私のほうこそ一緒に残ってくれてありがとう」
にっこり笑ったエルダはそれはもう天使のように後光がさしていて(先生や騎士たちの光魔法のせいだけど)、私にはとてもまぶしかった。
このままだと私、エルダに恋してしまいそうだわ。




