肝試し1
当然と言えば当然なんだけど。
王太子殿下とリベリオ様は学園を二分するほどの人気者らしいわ。
特に女子生徒から。
それって由々しき事態よね。
この私、ファラーラ・ファッジンという婚約者がいながら、殿下に懸想している身の程知らずはどこの誰なのかしら。
ちょっと呼び出して殿下のどこがいいのか語らせたいところだわ。
別に私、同担拒否とかしていないから。
って、違うのよ!
私は別に殿下のことを好きでも何でもないの。
もちろん好きになれたらいいなとは思っているけれど、私の中では愛でるのが楽しい美少年枠でしかないのよ。
ちなみにリベリオ様のほうがわずかに人気が高いのは婚約者がいないせいでしょうね。
私から言わせてもらえれば「あれはやめておけ」だけれど。
たぶん、いえ絶対、リベリオ様は腹黒だわ。
悪い男に間違いなく育つ。
だって、リベリオ様のせいで私は今、夜の学園で肝試しなどすることになったんだもの。
「まさかファラーラ嬢が参加してくれるとはね」
「……まさかリベリオ様が七不思議のような子ども騙しを信じていらっしゃるなんて思わなくて」
「うふふ」「あはは」って笑い合っているけれど、お互い目が笑っていないのがわかるわ。
リベリオ・プローディ、あなたからの宣戦布告、しかと受け取ったわよ。
「それにしても、このように夜の学園に忍び込むなんて、見つかったらどうなるのかしら? リベリオ様は生徒会の一員でもいらっしゃるのに」
「ああ、それは心配いらないよ。ちゃんと先生方には許可を取っているから」
「まあ! さすがはプローディ先輩ですわ!」
「これで安心ですわね」
私の嫌みにリベリオ様はにっこり微笑んで答えてくれた。
だけどそれ、もう肝試しではなくない?
ミーラ様とレジーナ様、そこで安心してしまったら肝試しの意義は?
「私の知っている肝試しと違う……」
そうよね? そうなのよね?
私の気持ちをエルダがぼそっと呟いてくれたわ。
遠慮してか、とっても小声だったから私にしか聞こえなかったみたいだけれど。
肝試しって、本来は学園に忍び込んだりしてするものであって、護衛に近衛騎士とかは連れていないのよ。
それに確かに昨日は七不思議の話をしたけれど。
なぜリベリオ様は今日わざわざ教室にやってきて私たちを肝試しに誘ったのかしら。
ミーラ様とレジーナ様に懇願するように見つめられたら、了承するしかないじゃない。
あと、一緒にいらした殿下が一言も発しなかったのも気になるわ。
なぜ止めない。
殿下ってこんなに無口キャラだったかしら。
ああ、そうだわ。
たぶん以前は私ばかりがおしゃべりしていたから。
殿下のお話を聞こうともせずにぺらぺらぺらぺらと。
しかも内容はドレスの色が気に入らないとか、使用人が使えないとか、とあるご婦人の髪型がおかしいとか。……おしゃべりどころか、悪口しか言っていなかったわね。
それは殿下も嫌になるわよ。
今なら断言できるわ。
あのときの殿下は右から左に華麗に聞き流していたわね。
「何? どうかした?」
「い、いいえ。殿下も参加されるなんて意外で……」
思わずじっと殿下を見つめてしまっていたわ。
当たり前だけど、おしゃべりはするのよね。
慌てて適当に答えると、殿下はくすりと笑った。
そう。笑ったのよ、殿下が。
ここ最近、殿下の本物の笑顔を何度見たかしら?
以前の五年間の婚約期間とそれ以前を合わせたよりも、入学してからのひと月で見た笑顔のほうが回数が多いわ。
あ、やだ。涙が……。
暗くてよかった。
そう思ってこっそり指先で目頭を押さえていたら、軽い足音が近づいてきた。
あら? 他にも参加者がいるのかしら?
「――お待たせしてしまってごめんなさい! 出がけに母に心配されてしまって……」
「それは仕方ないよ。サラはいつも無茶をするからね」
「ひどいわ、エヴェラルド様。リベリオも笑わないでよ~」
えええええ……。
何、この一気にアウェイ感。
ミーラ様もレジーナ様も、エルダだってぽかんとしているわ。
どうしてここにサラ・トルヴィーニが現れるの?
いえ、それよりもこの三人の親密感は何なの?




