勉強会2
いえ、どうもしないわね。
だって、子供だもの。
というのは、まだこれからどうなるかわからないからひとまず置いておいて。
以前の私がどうあれ、あの婚約破棄から(穏便に解消とか言っていたけれど)ほんのひと月あまりでサラ・トルヴィーニと婚約、その後すぐに結婚したのよ?
信用できないわ。
蝶子の婚約者と同じように二股をかけていたのかもしれないもの。
今も殿下はリベリオ様と浮かれた様子で話すミーラ様とレジーナ様を温かく見守っていらっしゃるように見えるけれど、何を考えているのか。
先ほどのようにはっきりとはわからないけれど、どうせ面倒くさいとか考えているんだわ。
そもそも以前の私が付きまとっていたときだって、迷惑だなんて口には一度もされなかった。
ただ薄ら笑いを浮かべていらして、それで私は愛されているって思っていたのよ(大きな勘違いすぎるけれど)。
それでずっと殿下の後をついて回っていたわね。
生まれたての雛のように。ピヨピヨ。
だからいつも邪魔をしにくるリベリオ様がうっとうしくて大嫌いで……って、あれは殿下がそのように仕向けていた?
うーん。
私が変わろうと努力しているように、殿下も変わってくれるかしら?
いえ、それは期待しないでおきましょう。
自分を変えようとするだけでもこんなに大変なのに、他人まで変えようとするのは労力の無駄だわ。
やっぱり婚約解消を目指して、でもサラと引っ付くのだけは邪魔して、国外生活のために頑張りましょうっと。
だって、ジェネジオとの交渉はうまくいったもの。
最初にロイヤリティを50%って吹っ掛けたのがよかったのかしら?
それとも研究開発費はこちら負担っていうのが決め手かしら?
それは最初から決めていたことだし、ロイヤリティは5%のつもりが10%もいただけるのだもの。
あとは契約書をきちんとお父様にも確認してもらって交わすだけ。
私って意外と商才があるのかも。
「――ずいぶん楽しそうだね?」
「はい!? え、ええ。皆様の会話が楽しくて」
「へえ? ファラーラ嬢は学園七不思議に興味があるんだ?」
「な、七不思議?」
化粧品開発のことを考えていたらつい顔がにやけていたみたい。
殿下に話しかけられて焦って答えれば、リベリオ様がとんでもないことをおっしゃったわ。
七不思議って、あれでしょ?
人体模型が走って追いかけてきたり、音楽室の肖像画がお弁当を食べていたりするやつ。
蝶子の弟が話していたと思うけれど、それが今していた話なの?
なぜそんな話になったの?
ここは必殺〝学生の本分は勉強でしょ〟攻撃よ。
「殿下、リベリオ様、せっかくのお話の途中で申し訳ないのですが、私たちはまだ勉強中ですので……」
「ああ、そうだったね。ごめんね、邪魔をして。じゃあ、行こうか、エヴェラルド」
「そうだな。ファラーラ嬢、お嬢様方、お邪魔をして申し訳なかったね。それでは、また」
いいえ。「また」はいいです。
軽く手を振りながら去っていく殿下とリベリオ様に頭を下げて見送りながらも、できるだけ近づかないでと心の中でお祈りしておく。
アーメン。
じゃなかった、〝エモ・イオシ〟。
この国は一神教で主をイオシ様というのよね。
今まで神様なんて信じていなかったけれど、最近はちょっと考えてしまう。
それに最悪の場合、出家するから大切にしておかないとね。
そうそう、寄付もちゃんとしておきましょう。
殿下とリベリオ様が廊下に出るまでみんな立ったまま見送る。
そうしたらお二人がこちらに振り向いて、にこって笑ってくれた。
べ、別にそんな笑顔くらいで好きになったりしないわ。
だってまだたったの十三歳じゃない。
せいぜい、うちわに顔写真張ってモールできらきら装飾するくらいしかしないんだから。




